第60話 障害物競走

「ばっ……! 危ないだろーが!」

「先に異能を使ったのはそっちだろ!」

「手を抜くなって言ったのは誰だよ!?」


 そう言って走りながらチラと教師を見るが、特に止める気はないようで。

 ええい! これもルール内ってことかよ!?

 大怪我する危険性があるまで介入しないって!?


 どんな学校だよ!


 と内心でツッコミを入れつつ。


 蒼梧の周囲を取り巻く火球を排除するか、それとも飛んでくるのを防ぐ方に集中するか考えて、後者にすることに決めた。

 際限なく火球を生み出せる相手にいたちごっこをしても意味がない。


 自分の周囲に結界を張り、なんとか蒼梧の火球をかわしながら平均台まで辿り着くと、そのたもとに置かれたスプーンとピンポン玉を手に取り、平均台へと足をかける。


 ――すると。


 ごうっ――!! と、俺を平均台から煽り落とすような強風が、蒼梧の方から吹き散らしてきた。


 あっ……!!!!


 あいつ――! という言葉と、危ないだろ! という言葉。

 両方を喉の奥に押し込みながら、なんとか踏みとどまる。

 とゆーか運動靴に念力かけて押し留めたんですけどね!

 異能使ってもありなら全然アリですよね!!


 そう思いながら蒼梧の方を振り向き、怒り任せに蒼梧が手にしているスプーンを異能でねじり切った。


「あっ、くそ!」


 背後で蒼梧が悪態を突く声が聞こえるが知らんぷりだ。

 その隙にすたすたと平均台を歩ききる。

 平均台を降りたところで手にしていたスプーンとピンポン玉をポイと投げ捨て、次の雲梯うんていへと向かう。

 走りながら背後の様子を伺うと、蒼梧は交換用のスプーンをようやく受け取ったところだった。


 とりあえず、少しは距離を稼げたかな……。


 正直、雲梯うんていはあまり得意ではないので、こっちも異能でアシストする。

 あのね、自慢じゃないけど腕力があんまりないんだよ……。

 いやまあ、女子よりはあると思うけど。

 異能で持ち上げられる重量(俺は勝手に異能筋と呼んでいる)を上げることの方にトレーニングの時間を割いてきたから、基礎体力は割と普通な方です。


 雲梯うんていも中盤に差し掛かったところで、今度は雷撃がこっちに向かって飛んでくる。


 あ……っぶね!


 これ、雲梯うんていにあたってたら感電して落ちてたよね多分!?

 おそらく出力は抑えてあるだろうけど、雲梯うんていから手元に感電して地面に落ちる一連を想像して、思わず背筋が冷えた。

 火球が来ても大丈夫なように自分の身は結界で守ってたけど、鉄の棒である雲梯うんていのことは何にも考えてなかった……!

 

 背後で、ようやく雲梯うんていに差し掛かった蒼梧を見ながら、こっちだってやられっぱなしでいられないだろ……! と思い、平均台の時に使ってそこら中に落ちていたスプーンとピンポン玉を、仕返しとばかりに蒼梧に向かって念力で飛ばしてぶつけてやった。


「痛って……!」


 多少スピードは出したから衝撃はあるだろうけど、元の重さがないから痣とかにはならないはずだ。

 小石とかが落ちてればちょこちょこ飛ばして妨害もできるのに、悲しいことに運動会のために素晴らしく綺麗に整備された運動場には石ころ一つ落ちていなかった。


 攻守戦だとこっちが不利だ。


 蒼梧を妨害することは諦めて、さっさとゴールに向かった方が早い。

 最後の種目は網くぐり。

 結界で自分の体を半球で包めば、引っ掛かりなくサクサク行けるはず――!

 

 そうして網の中に体を滑らせると、思惑通り網は結界の上にのっかるので、引っかかることなくするすると進めた。


 よし――!


 そう思った時だった。


「待て!」


 そんなに離れていないすぐ後ろから、蒼梧が執念深く俺を追ってきた。


 しかもあいつ、異能で下から風を起こして、網を少し浮かせるという小技を使ってるし!

 くっ……!

 くそ、あいつ脳筋じゃないんだよな……!

 ちゃんと頭いいんだよあれで!

 

 ……あれ、でも待てよ?


 蒼梧が網を浮かせているからこそ、逆に思いついたアイディアを試すべく異能を行使する。


 ――俺と蒼梧の頭上を覆う網が、蒼梧を包み込んでいくように網を動かすイメージ。


「わ……、ちょ、なんだこれ……!?」


 たちまち、網にまとわりつかれた蒼梧がぎょっとし、逃れるようにもがき出す。


 い……、今がチャンス……!


 網のほとんどが蒼梧に絡みつき、自分が身軽になったのを良いことに、そのままふらりと立ち上がりゴールに向かって走り出す。


 そのまま、最後まで蒼梧が追い抜いてこようとするのではないかという恐怖に怯えながら、必死に走ってゴールテープを切った。


「1位! 白組!」


 ……つ、疲れた……!

 なにこれ!?

 初戦からめっちゃ疲れたんですけど!?


 ぜいぜいと肩で息をしながら、係員に誘導されるままに競技後の待機場所へと足を向ける。

 と――。


「わかったろ、自分の普段のスタミナ不足が……」

「うわっ!」


 背後から、よく聞き慣れた声の主に肩を組まれて、思わず驚いて声を上げた。


「いつの間にゴールしたんだよ!」

「つい今だ」


 よく見ると、蒼梧もしっかり汗をかいてるし、気持ち息も上がっている。


あちぃ……」

「熱いなら離れろ。こっちも熱いんだよ」


 俺が蒼梧にそう言うと、ややつっけんどんにいったにも関わらず、蒼梧が楽しそうに笑いながらするりと離れた。


「勝てると思ったんだけどな、あ〜……」


 くやしいけど楽しいな、と顔をくしゃっとさせて笑う蒼梧に。


「俺はあと、まだ2種目もこんなことをやらなきゃいけないのかと思うと、体力がもつか心配だよ……」


 と、ヘトヘトになりながら答えたのだった……。








――――――――――――――

運動会ネタをやることは決めていたのですが、

「どうせやるなら異能運動会が面白いんじゃね……?」

というゴーストのささやきに身を任せたら(作者的に)すごい頭使わなきゃいけない大変な運動会になってしまいました……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る