第61話 戦国合戦

 そして、あんなに頑張りまくってなんとか蒼梧に勝ったのに、全体としては俺のいるチームが負けているようです……。


 ちなみに、俺は白組、蒼梧のいる相手チームは赤組である。


 個人の勝ち負けだけじゃなくチームのことも考えると、次の種目も頑張らないとな……と気合を入れ直しつつ――。

 


 さて。

 次の俺の参加種目の『戦国合戦』とは。


 誰が考案したのかわからない、俺もこの華桜学苑に来てからはじめて知った種目だ。


 大体の流れは騎馬戦と似ている。

 大きく違うのは、騎馬戦は4人でひと組になり騎手のハチマキが取られたら終わりだが、この種目は個人が肩につけたお手玉――『いのち』と呼ばれるものをはたき落とされたら終わりだ。


 参加者は全員、紙で作られた模造刀を手に持ち、相手チームの『いのち』を狙い合う。

 制限時間ありのバトルロイヤル形式で、最後に生き残った人数を競うというゲームだ。

 いわゆる、チャンバラごっこである。


 ちなみに、模造刀以外で『いのち』を落とすのはノーカウントになる。

 例えば、手でもぎ取ったりとか、異能で無理やりじ切ったりとか。

 異能は使っても良いが、あくまでも身体能力を上げたり、戦略的利用するのみというルールである。


 フィールドには何故か再び障害物競走で使われた障害が設置され、それを活用しながら時に隠れたり不意をついたりという作戦が練られる。


 男子生徒にとても人気のある競技だ。

 ――例に漏れず、蒼梧もたいそうこの種目がお気に入りなわけで。


 去年は俺は参加せずに、蒼梧がひとりで無双しているのを遠巻きに見ていた。

 はたから見ても、すごくいきいきと楽しそうにやってましたよ……。

 あいつ、ちっちゃいころから剣道とかやってるし、こういうの得意なんだよなー。

 とはいえ、他人事で見ている分にはよかったけど、自分がやるとなると話が別だよ。

 俺、この手のモノはからっきしだし……。


 そんなことを思いながらふと目線をむけると、ばっちりこっちと目があった蒼梧が実に楽しそうに笑みを浮かべていた。



 はあ。



 あきらめ混じりのため息ひとつ。



 しかし、やると決めたからにはやらねばなるまい。

 それが例え無惨な結果となったとしても……。


 と、ちょうど俺が覚悟を決めたところで、開始の合図である空砲が青空の下に鳴り響いた。




 

 ◇





 さて。

 ここでちょっと時間は遡る。


「――2年の西園寺蓮です。よろしくお願いします」


 それは、運動会当日より少し前の日のこと。

 誰かが、「『戦国合戦』に参加するメンバーを集めて決起会をしよう」と言い出したことから始まった。


 『戦国合戦』の白組参加者が一堂に会した場で、みんなそれぞれひとりずつ挨拶をするターン。そしてその順番が今、俺に回ってきていた。


「えっと、自分から参加すると言っておいてなんなんですが……。正直僕は今回、あまり戦力にはならないと思うので期待しないでもらえると助かります」


 とは言え、手を抜いたと思われると後で蒼梧に叱られるのでやるからには本気でやりますけどね、と言ったら、どっと周囲から笑いが起きた。


 いやね、おそらく聴衆のほとんどが俺がリップサービスで言っているんだろうと思ってるだろうけど、100%全部本気の言葉だから……!

 実際俺は、蒼梧みたいに剣術の鍛錬もほとんどしていないから、異能を使って直接『いのち』を狙い落として良いならまだしも、模造刀で叩き落とせと言われても全く役立たずなわけで。


 ただ自分の的が落とされないように立ち回ることだけだったらできるかもしれないけど、それだとまた蒼梧に「手抜きだ」と言われるだろう。


 そうやってこの数日間、どう立ち回るのが正解なのだろうと悩み、何故か家の書庫にあった兵法書みたいなものまで読み込んで。

 うんうんと唸っていたところに、この決起会の誘いを受けたのだった。


「ただ、せっかく今年はこの面子で参戦することができて、設楽したらくんが決起会まで開いてくれたので。もしみんなが反対じゃなければ、全員で戦術を持ってこの種目をやってみたいと思うんだけれど」


 と、俺と同じ紫雲亭メンバーでもあり、今年は運動会で同じ白組になった設楽くん(同級生)に目配せをして、全員に話を振る。


「……あの。戦術って、具体的にどういうことでしょうか」


 うん、そうだよね。そう思うよね。

 参加者の中から、おずおずと手をあげて質問してきた割と華奢な体つきの1年生男子に顔を向け、尋ねてきた問いににっこりと答えた。


「君は確か……、古城こじょうくんでよかったかな」

「は……、はい」


 まさか自分が名前を呼ばれるとは思っていなかったのか、もしくは名前を覚えられていると思っていなかったのか、俺が呼びかけるとびっくりした様子で返事をする。


「古城くんの異能は念話だったよね。どれくらいの範囲まで念話で言葉を飛ばすことができる?」

「えっと、半径7メートルくらいでしょうか……」

「剣術の腕にはどれくらい自信がある?」

「一応、小さい頃からやってはいますが、それほど強いといえるとは思っていません」

「なるほど。ありがとう」


 そう言って礼を言う俺に、古城くんは一体何を聞かれたのかとキョトンとした顔をしていた。


「たとえば――、これは一案ですが。誰かが陣地全体を見回し総指揮を取り、彼のような念話が使える異能者の力を借りて各拠点に指揮を出す。剣術の腕に覚えがある人が攻撃に回り、その人物をサポートできるような術者を組ませることで、撃破効率が上がるはずです」


 全員でやぶれかぶれに合戦するのではなく、戦術を立てて相手チームを攻略する。

 単体では不利な俺が、唯一導き出せた案がこれだった。

 ちなみにそのために、今回の出場メンバーの保有する異能がどんなものかもざっくり調べてきた。

 名前と顔と異能を一致させるのが結構大変だったけど、まあこれだって将来的にどこかで役に立つかもと思えばある意味勉強の一環ともいえる。


「あの……、よろしいでしょうか」

「はい。なんですか?」

「僕としては、西園寺様のおっしゃるお話はとても面白そうで、興味深くはあるのですが……」


 ただそれは前提として、西と言う話であれば……、と、遠慮がちに申告してくる生徒がひとり。

 その生徒の言葉に合わせて、「そうだよな……」「突然総指揮とか言われても難しいし……」とざわめく聴衆の中。


「仰る通り、発起人は僕なので、お任せいただけると言うのであれば指揮を取るのはやぶさかではありませんが……。しかし年長者の先輩方をおいて2年の僕がというのが気がかりで……」


 と、ちょっと謙虚な様子を見せると「いえ是非!」「僕たち、西園寺様の指揮のもとでやってみたいです!」と、その場にいた全員から「俺も俺も!」と賛同が得られた。


 はい!

 ありがとうございます!

 みんなから了承いただけました!


 よかったー!

 これで俺、前線前衛であたふたせず、高みの見物で能力を活かしきれる気がする!


 こうして俺は――、この『戦国合戦』という運動会種目において、【白組総指揮】という地位を得ることとなったのであった。

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