第62話 戦略と指揮
開始の合図と共に、結界術を使える異能者達でフィールドのセンターラインに沿うようにまっすぐ結界を張る。
これでまず、一旦こちらがわの白組と向こうの赤組とで分断するのだ。
その間、後方にいる土石系の異能を使える生徒に
――おお、よく見えるな。
全体を
「卑怯だぞ!」と叫びながら、結界を破ろうと異能を使う生徒達がわらわらと結界沿いに集まっていた。
「西園寺様」
そう言って、俺の右斜め後方にもうひとつできた土柱から声をかけてきたのは、念話の異能の使い手の古城くんだ。
「いつでも大丈夫です」
その言葉に俺は「ありがとう」とにこりと言葉を返して、そのまま指示を出す。
「あそこと、あそこ。結界を解くように伝えて」
「はい」
俺の言葉に、古城くんが下で結界を張っている生徒達のリーダーに異能で指示を出すと、センターラインに張られていた結界の、両端に近い場所でひとつずつ穴が開く。
これで敵が流入してくるラインがふたつに分散された。
「右に蒼梧がいるからそっちは僕が足止めする。前田先輩と直江くんを左に。そっちからまず頭数を減らしていこう」
前田先輩と直江くんの家は、もともと武家出身の華族だ。
異能の能力自体はさほどでもないが、幼い頃から剣術の訓練をしているため、今回の種目にはうってつけの人材なのである。
さて。
蒼梧の位置を確認しながら、少し離れた場所で待機してもらっている清水先輩に合図を送る。
清水先輩は水系の異能が使える異能者で、バレーボールくらいの大きさの水球を生み出し、自在に操ることができる。が、殺傷能力に欠けるため、異能者としてはあまり評価を得られてこなかった人物だ。
その清水先輩の水球を――、蒼梧の火球にぶつける。
俺の合図に、清水先輩は腰がひけているような様子を見せていたが、やがて覚悟を決めたように蒼梧の方に向かって目を向けると、蒼梧が身の回りに纏わせていた火球のひとつに自らの水球をぶつけた。
ギッ――! と、蒼梧が清水先輩を睨みつけ、ターゲッティング対象にしたのが遠くに居てもよくわかった。
「ひっ……!」
と、清水先輩が悲鳴を上げた声こそ聞こえなかったが、「あれ、悲鳴あげているんだろうなあ……」という様子はありありと見てとれた。
そうして、清水先輩に向かって駆け出した蒼梧にむけて、邪魔をするように俺が結界で進行方向を遮る。
行く手を遮られてイラついた蒼梧が周りを振り返りながら、誰が自分の邪魔をしているのかと主犯者を探すが、蒼梧に睨まれたた周囲の生徒達はビビって蜘蛛の子を散らすように逃げていく。
――そう、つまり今回の作戦はこういうことだ。
結界を張れる生徒たちで相手側の戦力となる生徒の動きを阻害し、うまく誘導したところでこちらの主力生徒が狩るという作戦。
主力生徒には先ほどのように剣術の心得のある生徒を割り振り、こちらから念話で指示出しをし、全体指揮をとる。
相手側の生徒達も、まさかこちらがこんなにガッツリ連携を取ってくるとは思っていなかったようで、逆に動揺しすぎてて見ていて申し訳ない気持ちになったくらいだった。
――――と。
全体を見ながら折々で蒼梧の足止めをしていた俺だったが、ふと全体から蒼梧に目線を戻した瞬間、ばっちりとこちらと目が合ったのがわかった。
――――あ、バレた。
結構な距離があったにも関わらず、雰囲気でわかった。
あいつ、いままで自分の動きの阻害をしていたのが俺だったことを悟ったな……。
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