第6話 妹に寝込みを襲われる

 きっか、ひとりでねうのがこあくて、いっちょにねてもいい――? と。


 ぬいぐるみを抱えた菊華が僕の部屋に現れたので。


 まあそうだよな。

 まだ4歳だもんなあ……。


 昨日まで母親が隣で寝てくれていたのに、今日から急に一人で寝ろって言われてもだよなあ。

 しかも、離れって慣れないとちょっと人気がなくて怖いだろうし……。


「いいよ。おいで」


 そう言って、布団を少し持ち上げてやると、菊華がホッとした顔を見せて、とてとてと布団の隣に入ってきた。


 ………………。


 えっ!?!?

 いやっ!?!?

 邪な気持ちなんてないよ!?

 確かに、かわいいなあー、とは思ったけどさあ!


 肉体年齢は9歳でも中身は20歳を過ぎた成人の俺ですけども!

 そういう趣味はないからな!?


 と、誰に対して言い訳しているのかわからないが。

 内心でふと「……あれ? これってどうなんだろう?」と思った自分がいたので、誰にともなく盛大に言い訳をした。


 そんなことを考えていたら。


「お兄様……」


 怖い夢を見たから、一緒に寝てもいいですか? ――と言って、白百合もやってきました――。


 ん?

 あれ?


 左側に菊華。

 右側に白百合と。

 すやすやと眠るふたりに挟まれて天井を眺めながら。


 あれ――、もしかしてこれ、やっぱちょっと早過ぎたかな――?


 と、ひとり反省をしたのだった。

 まあね、和室の暗い部屋って、大人でも怖い時あるしね……。


 そんな反省もそこそこに、俺もすぐにすやすやと眠りについてしまったのだが。


 翌朝、二人には「初等部に上がるまでには一人で寝れるように頑張ろうね」と言い含め。

 しばらくは慣らし期間をおくことにしました……

 当面の間は兄妹三人仲良く川の字です。


 いや!

 邪な気持ちは全くないから!

 ほんとうだからな!!



 ◇



 まあ、そんな日常を送りながらだ。


 たとえ【白虎召喚を果たした天才少年】と言われていたとしても、それはそれとして異能の鍛錬は鍛錬でまた必要なわけで。


 4月からの新学期が始まるまでの春期休みの間、俺は家でひとり(実際には白虎も横にはいたが)異能の鍛錬を続けていたのであった。



 ――この世界では【天授の力】と呼ばれている異能の能力。



 端的に言って、【天授の力】が発現するか否かは完全に先天性のものだ。

 かつ、その能力の強さもそれに準ずる。


 わかりやすく言うと、【天授の力】が溶けた水が入ったプールとして産まれてくるか、真水が入ったプールで産まれてくるか。

 能力の強さはプールの大きさだ。


 その後、どのようにしてプールの中の水を引き出すか、どんな使い方をするか、どれくらい引き出すかは本人の努力や鍛錬によるところが大きくなる。


 そしてその――どんな使い方をするか、と言う部分。

 異能として能力を発揮する方向としては、大きく二つに大別される。


 ざっくり言うと、念力や発火能力、空中浮遊といった明らかに能力が目で見て取れるものと、遠見やテレパシー、精神支配といった、目には見えないものだ。

 

 ――そして、俺が得意とするのは主に前者だ。

 

 遠見とかテレパシーとか、そういったことには関してはからっきしだが、周囲のものに作用するということなら


 今も、邸内にある弓道場を使って、弓を使わずに念力で矢を飛ばして的当てする、という単純な鍛錬を黙々と続けていた。


 それだって、ただ的に当てているだけではない。


 びゃくに『ふたつのことを並行してできることに慣れろ』と言われたので、あぐらを描いてうっすら空中浮遊のコントロールをしながら的当てをしているのだ。


『――だいぶ慣れてきたな』


 いつもの子猫の姿ではない、大虎の姿に戻ったびゃくが、俺に向かって話しかけてくる。


「まあ、いい師匠がついているからかな」


 言いながらも、スパン! とまた一つ矢が的にあたる。


『しかし、散々教えておいてなんだが。お前の真価は本当はそこではないのだがな』

「え、なにそれ。じゃ俺の真価ってなんなの」


 みんなの前では優等生ぶって僕と言うが、気心の知れた白に向かっては俺と言う一人称がするりと出る。

 

『蓮の真価は――、万物をたらし込む力だからな』

「は――!? なんかそれ、人聞き悪くない?」


 なんだその、たらし込むってのは。

 もっと他に言い方がないんかいと思う。


『そうは言われても、事実は事実だ』

「ふうん……」


 なんだかなあ、と思いながら、もう一発矢を的に当てる。


『おいおいわかるさ』


 そう言うと白は、それきり特に何を言うこともなく、黙って俺の鍛錬を見つめていた。



 ◇

 

 

 そうして、あっという間に始まった、4月からの初等部での新学年での生活で。

 

 そこで行われた新年度の異能の能力測定で、俺が過去最高の数値を叩き出すこと。


 また、いつのまにか俺が、守護獣召喚者となった事が広まっていたことにより、一躍学苑内での有名人となることとなるのだが。


 今の俺にはまだ、知る由もないことなのであった。

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