【書籍化】悪役華族令嬢の兄に転生した俺、破滅回避のために妹教育を頑張ったら、最高に可愛いブラコン令嬢が爆誕しました
遠都衣(とお とい)
初等部編
第1話 悪役令嬢の兄に転生する
「はじめまちて、おにいたま。きっかともうちます」
愛らしい少女が、緊張と期待の入り混じった眼差しで俺に挨拶をして来る。
今日からこの二人がお前たちの新しい家族になる――、と。
父から、少女とその母親を紹介されたのは、俺が9歳の時だ。
その瞬間、俺はまるで自分が電流に打たれたかの如く、突然ビビビッと記憶が
この世界が、俺が前世で生きていた時に読んでいた人気小説『しらゆりの花嫁』の世界であると言うことを。
そうして、この目の前にいる少女こそ――、『しらゆりの花嫁』の物語に出て来る悪役令嬢、
◇
俺の名前は
この国きっての名門華族である西園寺家の長男であり――大ヒット小説『しらゆりの花嫁』の悪役令嬢、西園寺菊華の兄である。
『しらゆりの花嫁』は元々、前世の世界で女性向け小説としてWebサイトで連載されていたものだった。
当時妹が読んでおり、面白いと言っていたので付き合い程度に読んでいたら、それがあっという間に人気を博し書籍化し、あれよあれよとアニメ化、アイドル芸能人を使って実写化と、軽く社会現象を起こした作品だ。
あらすじとしては、異能と呼ばれる超能力を持つ、大正時代を彷彿とさせる世界の華族たちの話で、その中の主要四大華族である西園寺公爵家(つまり我が家だ)に生まれた主人公の少女、西園寺
白百合は、西園寺家に生まれた嫡女だったが、その異能の能力を発現できず、腹違いの妹の菊華に虐げられる日々を送っていた。
しかしある日、白百合が17歳になった年に。
白百合は四大華族の中の筆頭家である東條家当主に見初められることとなる。
そうして、それがきっかけとなり、白百合を虐げていた菊華(なんなら白百合になり変わって当主に擦り寄ろうとしていた)――ひいては西園寺家が糾弾されることとなり、菊華は追放、我が家は没落する運命を辿ることとなる。
白百合は当主に愛され、めでたくハッピーエンドを迎える、と言うストーリーだ。
その物語の中で、俺――西園寺蓮、と言うのは、まあ言うなればモブである。
菊華が実の妹を虐げているのを見ても、別にどうとも思わない。
むしろ、家名を重んじる西園寺蓮は、無能な人間は西園寺家には必要ないと、ほとんど無視同然の扱いだった。
物語の最後でも、断罪され喚き散らす菊華の隣で、全ての責任を菊華になすりつけ、自分だけは助かろうと命乞いするセコい脇役として描かれていた。
そんな俺の目の前で、今。
目の前に4歳の菊華。
右斜め後ろに5歳の白百合。
先月、俺と白百合の実母が亡くなったことをいいことに、父が他所で作った妾と子供を家族として引き入れると言う、実に子供の教育に良くない絵面が今、目の前で描かれていた――。
「どうした? 蓮。挨拶しなさい」
前世の記憶が戻った衝撃で呆然としていた俺を訝しんだ父が、いつまでたっても挨拶を返さない俺を促して来る。
「……初めまして、菊華ちゃん。僕の名前は蓮って言うんだ。よろしくね」
俺が菊華に向かってにこりと挨拶をすると、なぜだか顔を赤めた菊華が、もじもじと「れんおにいたま……」と小さく返事する。
その姿は、とても将来姉をいじめ抜く悪役令嬢になるとは思えない、可愛らしい仕草だった。
そうして俺は次に、後ろで様子を伺っている白百合に「ほら、次は白百合の番だよ」と背中を押してやる。
「……はじめまして、しらゆり、です。よろしくお願いします……」
おずおずと挨拶する白百合に、菊華は母親を一瞥し、それからなんともいえない顔をして「よろちく、おねがちましゅ……」と挨拶をした。
――これが、俺と菊華の出会い。
菊華は最終的に、追放後も白百合への恨みを募らせ続け、ズタボロになりながらも復讐を諦めず、終いにはひとり寂しく野垂れ死ぬという悲惨な結末を迎えることとなる。
そして西園寺蓮は、復讐に燃えた菊華に異能の力を奪われ、殺されてしまう。
そう。
このまま行くと、バッドエンドまっしぐら間違いなし。
止めなければ――、と固く心に一人誓う。
そのためには、菊華が白百合を虐めず、悪役令嬢にならないルートを導き出すしかない。
――更生――、いや。
まだ道を間違えてはいないから、教育だ。
菊華を、清く正しく優しい令嬢にするために、教育を施す!
そうするしか、家も没落せず、俺の死亡エンドを回避する道はない!
白百合が東條家当主に見初められるまで後12年。
つまり、タイムリミットも12年だ。
それまでに、菊華を教育しなければ。
――俺たちの破滅を回避するために。
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