第9話 シュークリームを作ります

 さて。


 新学期も始まって少し落ち着き。

 流石に毎回とはいかないが、時間がある時には妹たちとのティータイムには手作りおやつでも作ろうかなーと思うようになり。


 前回はカスタードプリンを作ったので、今回はシュークリームを作ってみることにした。


 しかしこの時代、シュークリームとか作って驚かれないかな……? とかちょっと心配したけど、驚いたのはむしろこっちのほうだった。

 

 もうあるわ!

 シュークリーム。


 一般家庭が気軽に買えるほどバンバン出回っているわけではないが、ちょっと高級な洋菓子店に行けば普通に買える。


 大正時代ってもうシュークリームとかあったんだね……。

 まあ実際の大正時代にタイムスリップしたわけではないし、あくまでも物語の世界なのでその辺は誤差なのかもなあ、とか思いつつ。


 で。

 なんで今回シュークリームにしたかというと。

 理由はふたつ!

 材料が手に入れやすいから!

 あと、前回厨房にオーブンがあることを発見したから!


 そうなのだ!

 前回、プリンを作ったときは、まさかオーブンがあるなんて思っていなかったから、あらかじめ湯煎で作る想定で厨房に乗り込んだのだが。

 厨房を借りた時に発見しました!

 ガスオーブンを!


 この時代、あってとかだろうなと思っていたのに……。


 小躍りしたよ!

 周りに人がいたから心の中で!


 これでお菓子作りの幅が広がる! ひゃっほーう! と!


 とはいえ、流石にガスオーブンを9歳の子供が一人で使うわけにもいかないし、なんなら使い方がわからないから、今回は仕事が終わった後のお抱え料理人に一緒に作ってもらえないかとお願いした。


 まあ、困惑してたよね。

 前回のプリンの時もなんの気の迷いだと思われただろうけど。

 

 一度ならず二度までも……?

 名家のお坊ちゃんがお菓子作り……?


 って感じの顔をしていた。


 まあ、そんなこんなで。


 夕食後に料理人のおじさんと一緒にシュークリームを焼き、カスタードクリームを作って明日食べられるように冷やしてもらった。

 一通り片付けが終わった後に、「坊ちゃん……、このレシピ、私にも教えていただけませんか……!」と頼まれたので、手間賃がわりにとこころよくレシピを渡しましたとさ。


 さてさて。

 それからまた時は流れて翌日のこと。



 ◇



 離れにある共有の子供部屋で、テーブルの上にどんと置かれたシュー皮とカスタードクリームを見た白百合と菊華が、あんぐりと口を開けていた。


「れんにいさま、これなあに?」


 菊華が、くいくいと俺の洋服の袖を引っ張りながら尋ねてくる。


「うん、これはね、シュークリームだよ」

「しゅー、くいーう?」

「と言っても、まだ完成じゃないんだけどね。ほら、ちょっと見てて」


 そう言うと俺は、絞り袋に入れたカスタードクリームを握り、たっぷりとシュー皮の上にクリームを絞り出す。


 そうして、蓋になるシュー皮を乗せて、と。


「ほら、これで完成」

「「ふぉぉ……!」」


 白百合と菊華の二人が、完成したシュークリームを見てキラキラと目を輝かせる。


「白百合、これを半分こにして、半分菊華に渡してあげて」

「はい……!」


 言われて白百合は、恐る恐る手に取ったシュークリームをそっと手で割り、大きく割れた方を菊華に分けてやった。


 ふたり同時に、ぱくりとかじる。


「ふぁ……!」

「美味しいです……!」


 ふたりともが、口にした瞬間そろって俺の方に目を向けたので、息の合った動きにおもわずふふっと笑ってしまった。


「そう? ならよかった」

「これは、お兄様が作ったのですか?」

「そうだよ。片手間の手習いだけどね」

「手習い……? これが……?」


 俺の言葉に驚いたようにテーブルに置かれたシュー皮とカスタードクリームを見る白百合だったが、その驚きも菊華の「もっとたべたい……」という言葉にかき消され。


「食べてもいいけど、今日はふたりに仕上げを手伝ってもらおうと思ってね。……白百合。僕がクリームを乗せていくから、その上に蓋をしていってくれる?」

「はい、お兄様」

「にいさま、きっかは?」

「菊華はね、最後の大事な仕上げがあるから。一番大事な仕事は菊華の仕事だからね」

「はぁい」


 そう言って、俺が一通りシュー皮の土台の上にクリームを絞り、白百合がシュー皮の蓋を載せていった後。

 最後に、蓋をせずに残しておいた二つをふたりの前に置き、「ジャジャーン!」と最後の隠し球を取り出した。


「あ、いちご!」


 そう、いちごだ。


「手伝ってくれたふたりには、ご褒美」

「きっかいちごすき!」

「知ってるよ。だからご褒美なんだって」


 いいながら、食べやすくカットしたイチゴをシュークリームの上に乗せる。


「よし、じゃあ菊華、最後の仕上げ」


 そう言って菊華に向かってにっこりと笑った俺は、用意しておいた粉糖を入れた茶漉しを菊華に持たせて、一緒にふるふるとシュークリームの上で振るった。


「はい、完成」

「「わぁ……」」


 俺の言葉に、白百合と菊華が声を揃えて歓声を上げる。

 ふんわりと粉糖をまとったことで、よりいっそう美味しそうに見えるようになったシュークリーム。


 そうしてその日は、出来上がったシュークリームを三人で仲良くお茶と共に味わった後に、余った分を普段から親しくしている使用人と手伝ってくれた料理長に渡しに回った。


 俺も楽しかったし、使用人たちに兄妹3人仲良いぞアピールもできたし、使用人たちの好感度も上がるし、いいことづくしだったな!


 うん!

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