第56話 本題
「あっ、いけない。楽し過ぎて本題を忘れてたわ。異能の話を聞きたいのよね?」
宮姫が(呼び捨てでいいと言われたがさすがにそこまで一足飛びにいけなかったのでこれで勘弁してもらった)そうだそうだと言って手をポンと打ちながら、話題を切り替える。
「えーと……、蓮様のお母様が皇家の血筋だから、皇家の異能についてもっと詳しく知りたい? で、合ってるかしら?」
「そうです。……というか、原作を知っているなら隠す必要ないと思うから言うんですけど。本当は、白百合の異能を発現させたいんです」
「ああ……」
なるほどそういうことね、と。
俺の一言で事情を察してくれた宮姫がうーんと顎に手を当てる。
「む……? ヒロインちゃんって今……?」
「9歳です。今年で10歳になります」
宮姫の指折り数える仕草で、年齢のことを言っているのだと察した俺がすかさず答えると、「なるほど、10歳までには発現させようとしてるってことね」と宮姫が理解を示してくれた。
「原作通りに行けば、あと5、6年で発現するとは思うけど……」
「その流れで行くと、白百合が落ちこぼれになってしまうじゃないですか。それを避けたいんです」
『何事もできて当たり前』
『華族社会の頂点にいる者として、模範的な存在であれ』
幼い頃からそれを強いられ、ずっと努力を重ねて来て、どんなに優秀な成績を残してきても。
華族の血筋であるが故に、ただ異能を発現できないというだけで、落ちこぼれ扱いされるのだ。
――それは、白百合にはなんの咎もないことなのに。
白百合ほどの努力もしておらず、白百合ほどに能力も磨いてこなかったやつらが『お可哀想に……』と言いながら、無自覚に見下してくるのだ。
彼らに悪気がないこともわかってる。
でも、だからこそ。
そんなことで白百合が、傷ついてしまうきっかけを作りたくなかった。
「確かに、状況も既に原作通りとは言い難いものね……」
だったら早く発現させるに越したことはないということかしら、と考え込む様子を見せる宮姫に、俺は率直に尋ねた。
「宮姫も、白百合の異能が発現しないのは僕達の母が白百合の異能を封じてるからだって言うのはご存知ですよね。……皇族の方でどなたか、白百合の封印を解いていただけそうな方はいないのでしょうか」
僕達の母、霞が、白百合の異能を封じていたと言うのは原作にも書いてあった話だ。
そして、彼女がそれをできたのは、皇家の血筋を引いていたからだと俺は思っている。
だから――、同じく皇家の血を引いている人物なら、何か手がかりを得られるのではと思ったのだが――。
「う〜〜〜〜〜ん」
俺の問いかけに、宮姫は顎に手を当てて考え悩むそぶりを見せる。
「特に、他人の異能を封じるという異能の話は聞いたことないのよね……。というか、そもそも蓮様のお母様の異能も別にそんな能力じゃなかったわよね?」
だから、異能とは別でそういう技術が存在するのではないかと宮姫が口にする。
「……僕らの母の異能、って……。なんだったかご存知なんですか?」
「あら? 知らないの?」
原作の3巻か4巻くらいで書いてあったと思うけど、と宮姫が言ったが、実は俺はあの物語は2巻くらいまでしか読んでいない。
そのことを正直に宮姫にいうと「あっ、そうなのね」と言われた。
「妹の本を借りて読んでいたくらいでしたから……。妹が続刊を買っていなかったのかもしれません」
「なるほどね……。あ〜、なんかいろいろ納得がいったかも。じゃあやっぱり、私のことも知らなかったのね?」
「わたしのこと?」
「宮姫――八重って言うキャラクターはね。4巻で出てくるヒロインの当て馬なの」
宮姫が言うには――原作での彼女のキャラクターは、東條蒼梧に横恋慕してあのカップルをかき回す役割の、いわゆる悪役令嬢的なポジションだったのだそうだ。
「白百合ちゃんにいじわるしまくって、最終的に蒼梧様にビシッと一喝されて。その後はなんとなーく白百合ちゃんの取り巻きポジションみたいなところに据わるのだけど」
悪役令嬢と言っても、菊華みたいに不遇な最後を迎えたりとかするわけではなく、あくまでも主人公たちの恋愛関係を進展させるためのかき回し役だったらしい。
「その話のくだりで、ヒロイン――白百合ちゃんの母親が皇家の血を引いてたってエピソードがでてくるのよね」
「どおりで……、原作でそんな話あったかと思っていたんですけど、僕が読んでいない先で語られていたんですね」
俺が原作から知っていた情報は、母が精神感応系の能力の家系だったということだけだったから。
母が皇家の血筋だと聞いた時に「そんな話あったっけ?」と思ったのを覚えてる。
「じゃあ、白百合の能力についてもそこでは詳しく書かれていたんですか?」
「ええ。どうして彼女の母が、その力を封じたかの理由もね」
と言うか、蓮様は白百合ちゃんの異能も知らないのね、と宮姫が言って。
俺が原作から知り得ている白百合の異能は、2巻の終盤で敵に襲われて倒れ伏している蒼梧のビジョンを見た白百合が、蒼梧を助けに走るというエピソードだけだ。
だからてっきり、親しい相手の危機に、何かを察知する系の能力だと思っていたのだけど――。
「宮姫が知っているなら教えてほしいです。彼女の力と、僕がそのために何をすればいいのかを」
俺の言葉に、宮姫は少し考えるようなそぶりを見せ。
それからその口をゆっくりと開いて――、俺に告げた。
「彼女の異能は――、未来予知よ」
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