第16話 乙女ゲーに転生したい女

私は死んだはずなのに、何故か雲の中のような世界にいる。


そして目の前に現れた奇妙な女=天使の羽をつけた金髪の女は、私は魂になったと言う。


私は死んだはずだ。だったら今の私はなに?


「私は死んだのよね?ここはどこ?」


「ここは選ばれた魂が呼ばれるところよ。

貴方は確かに死にました。死んで魂としてここにいます」


「選ばれた魂•••それって•••」


「貴方は生前とても良い行いをしましたので、生前の記憶を持って••」


「えーーーー!!!もしかして!あなたは女神様!?

と、言う事は!転生できるって事!?」


「さっきも言いましたが、私は女神アルデ様の使徒カリンです。

転生についてはその通りです。よくご存知ですね。説明の手間が省けてとても助かります」


「じゃあさっ!ゲームの世界とかに転生できるの!?」


「ゲームの世界ですか?もしかして生前にハマっていたあのゲームの世界ですか??」


「えっ?なに?私の事見てたの??どう言う事?」


「貴方は生前とても良い行いをしたので、転生の対象者となりました。対象者の魂の情報は、魂がここに呼ばれる前に私のところに届くシステムになっているのです」


「ええーー!!気持ち悪い!

私の事をどこまでしってるの?変なところを見てないでしょうね??」


「変なところ??ここに来る魂はみんな変な人ですけど」


「もーいいわ。で、ゲーム「恋するヴァンパイア」の世界に転生できるの?」


「あなたがハマっていたイケメン恋愛ゲームの世界と言うのは空想ですからね。空想の世界には転生出来ません」


「なんでよ!せっかく転生できるんだから『恋ヴァン』の世界に転生させてよ!」


「ないものは無いので•••。っち面倒臭」


「今、面倒臭いとか言わなかった!?」


「いえいえ、ではヴァンパイアのいる世界で良いですね?本来は転生世界は指定できないんですけど特別ですよ」


「恋するヴァンパイアだって!!」


「では行ってらっしゃい!」


目の前が真っ白になる。



ーーーーーー



ワオーン!


遠くで狼の鳴き声が聞こえる。

ここは何処だろう?気づくと鬱蒼とした森の中にいた。


夕暮れ時だろうか?赤い空が木の間から見えるが、森の中はかなり薄暗い。


ヴァンパイアがいる世界?

恋ヴァンの世界?それとも•••。


いるのがイケメンヴァンパイアだといいんだけど。古い映画の中のドラキュラだと嫌だ。


鬱蒼とした森の中で1人なんて、とても心細い。

早く人里を見つけなきゃ。狼に出会いませんように。



私は夕暮れの薄暗い森をひたすら歩いた。

すぐに日は落ちて辺りは暗闇に包まれてしまう。


ワオーン!


また狼の声が聞こえた。

やばいよやばいよ!!こんなところで狼に食べられたくない!


その時、森の切れ間に光が見えた。


「家!?家がある?」


私は暗い森の中を急いで歩く。


光がだんだん近づいてくる、そして、いよいよ近づくとその光は大きなお屋敷の門に掲げられていた松明だとわかった。


鬱蒼とした森の中に大きな屋敷があるなんて少し怖い。

でも森の中で夜を過ごすよりずっと良い。


私が恐る恐る門に手をかけると門は簡単に開いた。


やった!!

門の中に入れば狼には襲われないはず。


門の先は屋敷の玄関へ石畳の道が続いている。

とりあえずここの家の人に一夜泊めてもらえないか聞いてみよう。


屋敷の玄関ドアは大きく重厚な木に金属の鎧がついた鎧戸で、取手だろうか大きな丸い鉄の輪がついている。


ドンドン!

私はその鉄の輪を使ってドアをノックした。

しばらくしてドアがギ〜〜っと言う音と共に開くと、中からランプを持った黒いタキシードのような服を着た男性が姿を現す。


60歳くらいだろうか?西洋人ぽい深いほりの顔つきでブルーの瞳をしているように見える。


「どちら様でしょうか?」

その男性が私に声をかける。


男性はランプの光で不気味に見えたが、黒く長い頭髪を後ろで括っていて、目鼻立ちはとても整ったステキなおじ様だった。


「森の中で迷ってしまったのですが、一晩泊めていただく事は出来ないでしょうか?」


「そうですか。それはお困りでしょう。

応接間にご案内いたします」


屋敷は古いものの重厚な木と石が使われた立派な内装で、調度品も美しい装飾がされたいかにも高級品で揃えられていた。


『ステキかも』


「今、主人を呼んで参りますので、ここでお待ちいただいてもよろしいですかな?」


「は、はい」



ーーーーーー



数分後、黒と赤が混じるガウンのようなゆったりとした衣装を纏った30過ぎの男性が先ほどの男を伴って現れた。



マジ!?!?

私はその容姿に驚いた。


その男性は若い時のトムクルーズのようなイケメンだったからである。超好み顔だ。


「お嬢さん、初めまして私はこの屋敷の主人のクルーズといいます」


名前も被ってる!?


「は、初めまして••わ、わたしは••リン••です」


あまりにも好みの男性すぎて緊張してしまった。こんな時にどもるなんて。


「リン?可愛い名前ですね。森で迷われたとか?」


「森に迷ってしまいここに辿り着きました。一晩だけお泊めいただけないでしょうか?」


「素敵な女性は大歓迎ですよ。一晩と言わず何日でもゆっくりしていってください。お食事をご用意しますので、まずはお風呂でごゆっくりしてください」


素敵な女性だって!!!人生で初めて言われたんだけど、しかも人生で最高のイケメンに!


「あ、ありがとうございます!!」


先ほどの60歳くらいのおじさまに案内されて豪華な浴室にやってきた。


お風呂に入れるなんて、ありがたい。私は朝と晩の2回お風呂に浸からないとダメな子なんだ。

たまに乙女ゲーにハマりすぎてお風呂抜く時があるんだけどね。


でも、クルーズ•••素敵すぎる。

金の羽を持つ天使さんに感謝しなきゃ。


大理石のような浴槽のお風呂に入って出てくると蝋燭の光に照らされた広いダイニングテーブルに食事が用意されていた。


「お風呂はどうでしたか?リンさん」


「あっ、と、とっても素敵なお風呂でした」


目の前の超イケメンのブルーの瞳に見つめられて声が上擦ってしまった。


「そうですか喜んでもらえて良かった。今日の夕食はブロッコリーとキャベツにトマトを和えたサラダに、ラズベリーパイですよ。気に入ってもらえるかな?」


意外と食事は豪華ではなかったが、サラダもラズベリーパイも美味しかった。


トムクルーズ似のクルーズとの会話は楽しかった。何を話したかあまり覚えてないけど、クルーズは聞き上手で、大学の話、友達の話、恋の話をしたと思う。

流石に恋ヴァンの話はできなかったけど。


話を聞いてくれるクルーズの笑みがステキなのだ。それで調子に乗って色々話してしまった。


食事の最後に「お肉は食べないのですか?」と聞いたところ、

「もちろん大好きですよ。ただこの辺りは鹿が多くてあまり美味しい肉が手に入らないのです。その鹿肉も切らしてまして今日は出せませんでしたが、いずれご用意しますよ」


いずれ?もしかしてずっとここに居ても良いと言う事だろうか?

心臓が脈打つのがわかる。これからの素敵な生活を期待してしまっているのだ。


「それではお部屋をご案内させましょう」


部屋はゴシック調と言うのだろうか?とても重厚な美を感じる部屋とベッドだったけど、赤が使われている所が多いせいか蝋燭の灯りの下で見るとなんだか怖い雰囲気がある。


しかし、疲れていたのか快適なベッドだったからか私はすぐに眠りに落ちた。

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