第30話 宇宙鉄道殺人事件

次の日、朝食を展望レストランでいただく。俺1人で食べているのはデサラーが出来るだけ俺たちの関係は内緒にしたいと言う事らしい。既に林蛍にはバラしてしまった後なのだが。


その林蛍の席にデサラーが近寄り声をかけた。なんだ?どう言うことなんだ?


話の内容はわからないが、どうやらナンパしているようだ。

結局、断られたデサラーは不機嫌そうに1人で朝食を食べていた。


その後も観察を続けるが、大した情報は得られない。


まあ、鏡に情報をもらえるわけだし、率直に聞いてしまえば簡単だ。

部屋に戻った俺は早速鏡を取り出した。


「鏡よ鏡、一等客車の乗客でデサラーに殺意をもつものはいるか?」


「また安易に私を使うつもりかい?」

鏡に婆さんが現れる。


「殺意ってなんだい?今すぐ殺そうと思ってるものはいないよ。殺したいと思ってるものはいるねぇ」


「何だよそりゃ。じゃあその殺したいと思ってる奴を教えてくれ」


「あんた探偵なんだろ?それを助言の鏡である私に聞くとかプライドがないのかい?」


「まあ確かにそれを聞いたら面白くないな」


「もっと手がかりとかそういうのを聞きな」


「そうだな。じゃあ、あんたはエメラルの事をエメラルゴスと言ったが、エメラルの素性を教えてくれ」


「質問は一日一回だけだよ。それじゃね」


鏡の中の婆さんは消えて、俺の顔が写し出される。相変わらず俺はいい男だな。



ーーーーーーー


その晩、夕食が終わってそろそろ寝ようとした時、隣の部屋、デサラーの部屋の扉がノックされる音が聞こえた。


俺はデサラーが狙われている事を知っている。


もしかすると殺し屋かも知れないと思い、扉から顔を出して通路を確認すると、丁度、デサラーの部屋に人が入っていくのが見えたが誰だかはわからなかった。


もしかして殺し屋?

いや、殺し屋はノックして入ったりしないだろうとは思うが。いったい誰が入っていたのだ?


しばらくして、デサラーの部屋から女の喘ぎ声のようなものが聞こえたような気がした。


気になる。。。気になる!

俺は部屋を出てデサラーの扉の前で聞き耳を立てようとしたが、すぐにロボットの車掌が出てきて止められた。


「お客様、我々車掌にはこの列車での逮捕権限がございます。犯罪行為は謹んでください」


危うく逮捕されるところであった。

仕方がない諦めよう。


次の日の朝•••

と言っても宇宙の世界に朝はないのだが、朝6:00からは照明が全て灯る。夜24:00以降は照明がかなり暗くなり、各車両を繋ぐドアが閉鎖され、この時間はレストラン車にもいけないのだ。


俺は睡眠不足だった。昨日の喘ぎ声が気になって仕方がないのでなかなか寝れなかったのだ。

仕方がない。朝食の前にたまらずその声の正体を鏡に聞く事にした。


「鏡よ鏡、昨日の晩、デサラーの部屋で喘いでいた女は誰だ?」


「野暮な事を聞くんだねぇ。この変態探偵は。でも昨日の質問よりまともだね。

昨日のデサラーの部屋で喘いでいたのはエメラルドスだよ」


まじか!!ちょっと口は悪くて歳はそこそこ行ってるが、いい女だった。

デセラーめ。羨ましすぎるじゃないか。金持ちはやりたい放題だな。


朝食をとりに展望レストランに行くと、デセラーとエメラルが一緒に座って朝食を食べてていた。

助言の鏡を使わなくても、これを見ればわかったような気がするが、まあいい。


2人を観察すると、デセラーはよく喋るのに対してエメラルの反応は薄い。ほとんど返事をしていない。


そのうち、デセラーはつまらなくなったのか先に席を立って部屋に戻ってしまった。


もしかして、デセラーはエメラルとの一晩を金で買ったのかもしれないな。


とは言え、エメラルは暗殺者ではないと言う事になる。やるなら昨日の晩に殺れたはずだからだ。


その日の夕食も終わり部屋で悶々としていると、またデセラーの部屋をノックする音が聞こえた。夜の21:00くらいだろうか?


俺はまた、ドアを開けてその人物を確認しようとしたが、今回も人影が部屋の中に入る瞬間で誰だかはわからなかった。


また喘ぎ声が聞こえるのかと悶々として待っていたのだが今回は聞こえなかった。

23:30頃だろうか、そろそろ寝ようかと思っていた時、通路が少し騒がしくなった。


俺が様子を見に通路に出てみると、マーテルと銀郎が車掌と話をしている。

「こんな夜中にどうしたんだ?」


「アガサさんでしたね。すみません。恥ずかしい話なのですが、トイレの水が出ないので困ってしまって」


「ここの設備はどうなってるんだよ!トイレの水が出ないとかありないだろ!」

銀郎が車掌に怒鳴っている。本当に愛嬌のないガキだ。


「すみません。今整備のものを呼びましたのでお待ちください」


「俺はもう寝るんだ。静かにしてくれるか?」


「すみません。アガサさん」


確かにトイレの水が出ないのは困るが••

結局俺は24:00頃まで寝られなかった。


そして次の日、朝の6:30頃に事件は起こった。



ウィ〜〜〜ン!ウィ〜〜〜ン!ウィ〜〜〜ン!

列車内にけたたましいサイレンが鳴る。


「宇宙海賊の襲撃です。宇宙海賊の襲撃です。安全のため乗客の皆様は衝撃に備えて何かに座るかおつかまりください」

ウィ〜〜〜ン!ウィ〜〜〜ン!


俺は寝ぼけ眼を擦り、スーツを着て部屋を飛び出すと、デセラーの部屋のドアをノックするが部屋から返事はない。


そのまま展望レストランへ行く。

展望レストランは列車の最後尾にあり、ガラス張りのデッキからは宇宙が見渡せるのだが、その宇宙に光の線が何本もこちらに向かってやってくるのが見える。


その光の線はまさにこの展望車両にぶつかる直前に眩い光と衝撃になって雲散する。


それが幾度となく繰り返されるのだ。


そこへ車掌が駆けつけてくる。

「お客様!宇宙海賊の襲撃です!!衝撃に備えてください!」


光の線は宇宙海賊の船のレザー砲か何かなのだ。

すごい迫力だ。

俺はこの演出に感動してしてしまった。


しかし他の乗客、林蛍やマーテル達は怯えた表情で、備え付けられたソファに縮こまって外を見ていない。なかなかの演技だな。


俺も演技に参加してやるしかないな。

展望レストランに慌ててやってきた車掌に声をかける。


「何が起こっているんだ!?」

「宇宙海賊の襲撃です!でも安心してください。あんなもので666のシールドを破ることは出来ませんよ。こちらにも最新式のレーザーカノン砲が各車両に取り付けられていますのですぐ撃退できるでしょう」


「本当に大丈夫なんだろうな」


「皆さん落ち着いてください!!666は最新鋭の宇宙列車です。奴らの古ぼけたカノン砲など恐るるに足りません!!安全は保証致します!」


ロボット車掌が大きな声で乗客に呼びかける。


しばらく海賊船からの攻撃が続いていたが、遠くに豆のように見える海賊船で爆発らしきものが起こったのが見えた。

どうやらそれで戦闘は終了したようでそこからは静かになった。


「皆さまお騒がせいたしました。海賊は撃退できたようです。朝食の準備をいたしますので、しばらく船室でお過ごしください」


俺はイベント演出に大満足して一旦船室へ戻る。いやあ本当に凄い演出だったな。


それから日課になった鏡を取り出す。

今日は殺し屋を特定する日だが、わかったのはエメラルでは無いだろうと言う事だけだ。


マーテルと銀郎か林蛍か。どちらかに確証が持てれば返事ができるだろう。


殺し屋は居ないという選択肢もあるが、、。

いや、鏡によると殺意をもつものがいるとの事なのでその選択肢は無いか。


「鏡よ鏡、林蛍の素性を詳しく教えてくれ」


「毎日ご苦労なこったね。質問がまともになってきたじゃないか。いいよ。林蛍の素性を教えてやるさね」

鏡の婆さんが出てきて答えた。


「林蛍、惑星ティアラ出身の24歳。トンキンと言う都市で生まれた。18歳でティアラ防衛軍入隊、22歳の時に24歳の下級将校の現代戻(げんだいもどる)と結婚したが、3ヶ月後にその夫を亡くしている。麻薬の密貿易船の船内査察の時に殺されたようだ。密貿易船は逃亡して行方をくらませた。彼女はその後、防衛軍を辞め星々を巡って逃亡した密貿易船の船長だった男アドラーを探している」


なんだか色々と教えてくれた。

そう。最初からそう言えば良かったのだ。


林蛍は教師ではなかった。惑星ティアラと言う国出身であることは嘘ではないとは言え、自分の夫を殺した犯人を追いかけている。

密貿易を行っていたアドラーを見つければ殺そうと思ってるのだろうか?


しかし、これで林蛍はデサラーを狙う殺し屋ではない事がわかったな。


ということは、マーテルか銀郎か、もしくは両方が暗殺者だという事になる。


さあ、朝食の前に報告をしようかな。


デサラーの部屋をノックする。

「おはようございますデサラーさん。いらっしゃいますか?」


シーン•••


何度かノックしたがデサラーが出てくることはなかった。

先に朝食に行ったのかとレストランを確認するが、来てないようだ。


そう言えば海賊の襲撃の時にも出てこなかったな。

俺は車掌ロボットにその事を相談すると、「それはおかしいですね。二等客車にも行ってませんので、部屋にいらっしゃるはずなのですが。では合鍵で中を調べてみますね」


と、ロボット車掌がデサラーの部屋のドアを開ける。

すると、デサラーの部屋から冷たい空気が流れ出て来た。

デサラーはガンガンに冷房でも入れているのか??


「お客様はここでお待ちください」


車掌が部屋の中へ入っていく。


ウィ〜〜〜ン!ウィ〜〜〜ン!ウィ〜〜〜ン!

すぐに列車内にまたけたたましい警報音が鳴り、その後車内放送が流れる。


「一等客車で殺人事件が発生しました。みなさま、今いる場所を動かないでください。場所を移動した場合は、犯罪者と見做します」


その放送で俺はデサラーの部屋の前から動けなくなってしまった。

しばらくして車掌が部屋から出てくると、


「デサラー様は中で殺されておりました。

アガサ様も容疑者の1人になります。証拠隠滅が行えないようそのまま展望レストランに移動してください」


そう告げた。


デサラーが殺された!?俺がちんたらしている間に、殺し屋に殺されたというのか!!


恐らく犯人はマーテルだ。しかし証拠はない。


俺が車掌の指示通り展望レストランに移動すると、既に朝食のためにマーテルと銀郎、そしてエメラルがテーブルに座っている。


車内放送を聞いたのだろう。みな何事かと言う顔をしていた。


遅れて、車掌に連れられて林蛍が現れたところで、車掌が乗客に話し始めた。


「一等客車3号室のデサラー様が殺害されたました。今から当列車の車掌2体で客車の捜査を行いますので、お客様におかれましては客車捜査が終わるまでこの展望レストランに滞在ください」


「質問いいか?」俺はすかさず尋ねる。


「もちろんですお客様、なんでしょう?」


「殺害されたデサラーの状況確認がしたいのだが」


「お客様に現場をお見せすることは出来ませんが、質問にはお答えいたします」


「遺体の状況と凶器の有無などを教えてくれ。それと死亡推定時刻もだ」


「そこまで詳しくお客様が知る必要を感じませんが?理由をお聞きしても?」


「俺はデサラーからこの列車に乗り込んでいるだろう殺し屋を見つけるように仕事を依頼されていた探偵だからだ。雇い主を殺した犯人を見つける義務がある!」


「なるほど、面白い話ですね。詳しく聞かせてください」

黒いロボット車掌の目が輝いた気がした。



ーーーーーー


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