第29話 捜査開始
俺はこの列車を舞台にしたロールプレイのイベントに参加する事にした。とりあえずコイツらに話を合わていこう。
殺害予告に殺し屋の特定なんて楽しそうではないか。
列車の構成は先頭から次のようになっている事がわかった。
牽引車、三等客車、低級レストラン、三等客車、三等客車、上級レストラン、二等客車、一等客車、展望レストラン車。
二等車及び一等車の先頭側の入り口には車掌の待機場所があり、24時間車掌がいる。
この車掌はなんとロボットなのだ。黒い体をしたロボットだがとても流暢に話が出来て、動きも人間そのものだ。
太った丸々した体なので本物のロボットではなく恐らく中に人が入っている。
こいつは本当に凝ったイベントだな。
三等客車の人間は上級レストラン車までは行けるが、二等車には入れない。
二等車の人間は一等車へ入る事も展望レストランを利用する事もできない。
殺し屋がいるとしても、三等や二等客室の人間はそう易々と一等の人間を殺すことはできないだろう。
と、言う事はまず一等客室の人間を疑っていれば間違いがない。
一等客車には5つの部屋があり、先頭から番号が振られている。真ん中の部屋は雇い主デサラーが使用していて、3号室だ。
私が奥から2番目の4号室になった。
部屋の作りは全て同じで、部屋にはベッド、シャワールーム、狭いがリビングもあり、リビングにはコンピュータ端末まで用意されている。
私が4号室に入る事で一等客室は満室になったらしい。要するに残りの3部屋の人間を注意していれば良いのだ。
車掌がいる簡易の部屋からは客室ドアがある通路はすぐに見れないが、部屋を出れば見通す事が出来る。
俺は早速聞き込みのために展望レストランに向かった。
展望レストランは列車の最後尾にあり、一面がガラス張りになっていて星々を見ながら食事が出来るようになっていた。
展望レストランから見る星空は、まるで漆黒の宝石箱の中で無数の宝石が輝いているかのようだ。本当にに美しい。
展望レストランのテーブルには3人の客が居た。
ここに入れるのだから一等客室の客だろう。私は手前で食事する親子に声をかける事にした。
腰まで届く美しい金髪を靡かせた20前後の美女と、パンが潰れたような不細工な顔をした黒髪の子供が食事をしている。
顔が違いすぎる。どうやら親子ではなさそうだな。
「失礼。マドモアゼル」
「はい。どうしました?」
金髪の美女は被っている黒いふわふわの帽子を揺らす事なく振り向いた。
輝く金髪と黒の高さがある帽子と黒のワンピースのコントラストが芸術的な女性である。
「私は探偵の亜我佐(アガサ)といいます。ある事件の捜査をしておりまして、お話をお聞きしても?」
「探偵さん?事件ですか••。わかりました。どうぞおかけください」
金髪の美女は不思議な顔をするが、話を聞かせてくれるようだ。
「お名前をお聞きしても?」
「私はマーテルよ。この子は銀郎」
「親子と言うわけではなさそうだね。どう言ったご関係で?」
「僕は義体の手術を受けるためにアンドロメダに向かってるんだ。マーテルはコーディネーターだよ」
中学生くらいの年齢だろうか?不細工な男の子が答えた。
「義体とは何です?」
「義体を知らないのか?探偵のくせに」
この子は大人に対する言葉使いも知らないらしい。
「義体とは機械の体の事です。私はこの子に義体の手術を受けさせるためにアンドロメダに向かっています」
マーテルと言う美人が義体について説明をしてくれる。美人に免じて不細工なガキは許してやろう。
義体ねぇ。有名なアニメにそんなの出てきたな。攻殻なんたらと言うアニメだった気がする。
「銀郎くんが義体コーディネーターを雇ったと言う事だね。金持ちなんだねぇ」
「金持ちなんかじゃない。マーテルは貧しい僕に義体をプレゼントしてくれるんだ」
ん?話が見えなくなってきたぞ。金持ちなのはマーテルの方か??
話を聞いてもマーテルは自分の詳しい素性を明かそうとはしなかった。銀郎はティエラと言う星の出身で両親を亡くして孤児だった。道端で餓死にしかけていたところをマーテルに助けられたと言う。しかし助けた理由は教えてくれない。
彼らの部屋は1号室だということを確認して話は終わった。
怪しいぞこの2人。
レストランにいるもう1人の40前後の女性に声をかける。
この女性も腰まで伸びる金髪を持った美女だが、服装がかなり変だ。
ボディラインがモロにわかるピチピチタイトな赤いボディスーツを着ていて、裏地が赤く表面が真っ黒なマントを羽織っている。
デサラーも同じようなマントをしていたな。
そして最大の特徴は左目の下にある傷だろうか。深い切り傷が痛々しい。
「失礼、マドモアゼル」
「なんだ」
「私は探偵の亜我佐(アガサ)といいます。ある事件の捜査をしておりまして、お話をお聞きしても?」
「探偵??そのへなちょこ顔で探偵などできるのか?」
探偵業に顔は関係ないと思うのだが。ちょっと口が悪い女のようだ。
「お名前をお聞きしても?」
俺は勝手に女の向かいに座って問いかける。
「誰が相席を許可した?まあいい。私はエメラル。職業は俳優だ。役者としてはクイーンと名乗っている」
「俳優をやってらっしゃると。顔の傷はフェイクですかね?」
「顔の傷の事を安易に聞くな。殺すぞ」
エメラルは顔の傷の話をした途端態度が急変してドスの聞いた声でそう言った。何か嫌な思い出でもあるのだろうか?
「失礼。マドモアゼル。どこで俳優を?」
「アンドロメダだ。これでも売れっ子だからな。映画にCMにと忙しい身なのだ」
「何故この列車に乗ってるのです?」
「バカンスの帰りだ」
「バカンスはどちらに?」
「アルアラメインの古代遺跡を観光してきた。もういいか?食事が不味くなる」
「これは失礼。では、あと一点だけ••」
有名な俳優という事は部屋の端末で調べれば出て来るのだろうか?
これは遊びのイベントだ。彼女も役になりきってるだけだろうし、ネットでは出てこないとは思うが••。
エメラルの部屋は5号室だった。
残りは2号室。部屋を直接尋ねてみるか。
トントントン
2号室のドアをノックすると、これまた若い20歳前後の黄土色のセミロング髪の美女が出てきた。
エメラルと同じようにボディラインが出るピチピチタイトな黄色い全身ボディスーツを着用している。流行りなのか?
「何でしょう?」
女は怪訝な顔をして扉の隙間から顔を覗かせた。
「すみません。マドモアゼル。
私は探偵の亜我佐(アガサ)といいます。ある事件の捜査をしておりまして、お話をお聞きしても?」
「は、はあ。少しくらいなら良いですが、他人を部屋に入れることは出来ません」
「では、レストランでいかがでしょう」
ーーーー
レストランに移動して紅茶を二つ注文する。
「お名前をお聞きしても?」
「林蛍(はやしほたる)といいます。探偵さんが何のようでしょう?」
「いえ、ある事件の捜査をある方に依頼されましてね」
「ある方?その方のお名前も隠したまま、私だけ話をしろと言うのですか?」
「確かにそうですね。3号室のデサラーさんに依頼されまして」
デサラーと言う言葉に林と言う女の顔が一瞬歪んだ。俺は名探偵だ。その表情の変化を見逃す訳がない。
こいつは怪しい!デサラーを知っている?
「それで、どんな事件なのかしら?」
「それは真相に関わる事なので言えないですが、ご協力願えますか?」
「何が聞きたいのです?」
「あなたの素性とこの列車に乗った目的を教えてもらっても?」
「私はアンドロメダで教師をしています。今は里帰りで水の星ティエラに行った帰りです」
水の星ティエラ。銀郎の出身と同じ星だな。
ティエラは遠くマーテルと銀郎は既に1ヶ月もこの列車に乗っていると言っていたが。
「ティエラとはまた遠い。教師がそんなに休みを取れるのですかね?」
「長期休暇を取れる制度がありますので問題ありません」
「お一人で?恋人はいますか?」
林蛍の表情がまた歪む。
「恋人はいません。今は1人の旅です」
林蛍に色々質問するが、他に怪しいところはなかった。デサラーと恋人の話が出た時に見せた表情が気になるが、この美女が殺し屋だとは到底思えない。
さて、これで一等客室の人間は全て話を聞いた。
俺は推理する••••
全くわからん!!皆怪しいが殺し屋かどうかはわからん!
そういや、助言の手鏡とか言う鏡を持っていたな。天使の格好をした女の話では「鏡よ鏡」と言えば何でも答えてくれるとか。
まあ、そんなことあり得ないのだが、このイベントの小道具だと考えればイベント用通信装置なのだろう。試してみるか。
俺は鏡をポシェットから取り出して尋ねてみる。
「鏡よ鏡、この列車の一等客室に殺し屋はいるかい?」
すると鏡にノイズが一瞬走りそこに老婆が現れた。やはり通信機器だったのだ。
「何だかよくわからない質問がきたねぇ。
殺し屋って定義はなんだい?まだ殺しを行ってない奴は除外かい??
殺しをやった事がある奴の事かね?それならいるさ。エメラルゴス。マーテル。銀郎。3人は過去に殺しを行った事があるさね」
「何!?3人も殺人犯が乗っていると言うことか!?エメラルゴスってエメラルの事か??」
「質問は一日に一回だけだよ。それじゃあ頑張りな」
鏡面にノイズが走り老婆の姿が消える。
イベントのお助けグッズすごいな。本当に質問に答えてくれる。
これがあれば俺の推理は必要ないのではないか??
明日はもっと真相に迫る質問をしてみよう。
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