第28話 宇宙鉄道

暗黒の世界に星々が煌めいてる。


気づくと俺は窓の外の星空を眺めていた。

窓から視線をずらすと、目の前には背もたれがあり、私の横の座席の奥には狭い通路を挟んでまた座席が等間隔に設置されていて、その奥の窓にはやはり星空が見える。


座席にはアンティークな雰囲気の柔らかなカーブがある木のフレームが使われていて、濃い緑色の布のシートが貼られていた。


ポ〜〜〜〜!


警笛が鳴っている。


どうやらここは古い鉄道の客車なのだろう。

車内を見回すと他にも乗客が何人もいるようだ。


それと、俺の右手に赤いフレームの手鏡が握られている。赤い手鏡とか俺の趣味では無いのだがこれは何なのだろう?天使の羽をつけた女が助言の鏡と言ってたものか?


とりあえず、腰にいつもつけているポシェットにグイグイっと押し込む。しかし取手の部分はどうしても入り切らずに出てしまう。邪魔だけど仕方がないな。


それにしてもこの列車、警笛が定期的に鳴るし汽車のシュポシュポという廃棄音のようなものもするのだが、それ以外は車内はとても静かなのだ。揺れも感じない。

停車しているのだろうか?

俺は状況を確認するため、立ち上がり隣の車両に向かう。


立ち上がって気づいたのだが、この列車の窓から見える景色がおかしいのだ。どの窓を見ても美しい星空が見えるのだが、逆にいうと星空しか見えない。大地や建物が見えないのだ。


どういう事だ?まるで宇宙の中に佇んでいるような感覚だ。


隣の車両はレストランだった。

通路の両側には白いクロスが掛けられたテーブルが並んでいる。


しばらく何にも食べていないのでかなり腹が減っている。

俺がテーブルの一つに座ると濃茶髪の西洋人のウエイターがやってきた。


「メニューはこちらです」


メニューは日本語ではなかったが何故か理解できた。ただ、料金が日本円ではないのだ。


「この料金はなんだ? このメダというのはどこの国の金だ?日本円はつかえないのか?」


「メダはアンドロメダ星雲の共通通貨ですよ。ニホンエンという通貨は使えませんね。もしかしてメダをお持ちじゃない??」


「アンドロメダ星雲!?この列車は何処に向かってるんだ?」


「ご冗談を。この列車は首都星アンドロメダに向かう宇宙鉄道666ですよ。もしかして不正乗車じゃないでしょうね?」


宇宙鉄道???なんだそりゃ。意味がわからないが不正乗車だと思われても困る。

日本円が使えないのであれば金で解決する事も出来ない。使えても手持ちの5万円で解決出来るかはわからないが・・・。


「いやいや。わかってます。わかってますよ。ハハハ。あなたを試したんだ」


「は?なんのためにですか?」


「俺は名探偵だからね。ある事件の捜査のためにだ」

俺はテキトーに誤魔化す事にした。


「名探偵?何かの事件を追っているのか?

探偵さんが何を調べようか自由ですが、私を試すような事はやめてほしいですね。それで、何を頼まれます?」


「いやそれが、、、。」


日本円が使えないから何も注文出来ないのだ。


「お兄さんここ、相席させてもらっても??」


隣の席に座っていた客が、飲み物を持ってこちらにやって来る。


なんだ急に。俺はもう席を立つのだが・・・


「ああ、俺は腹が減ってないから、こっちに座るのであればどうぞ」


「何か奢りますよ。なんでも頼んでください名探偵さん」


なんとその男は俺に飯を奢ってくれるらしい。腹が減ってペコペコだ。この話に乗らない手はないな。


「まじか!じゃあ魚料理の1番いいやつ食べてもいいのか?」


「どうぞ。好きなものを奢りますよ」


「ウエイター!じゃあ、これとこれこれ!くれ」


「畏まりました。デサラー様はどういたしましょう?」

「では、私は宇宙野菜盛り合わせと、アンドロメダ産のワインをもう一杯もらおうか」

「畏まりました」


この男はデサラーと言うらしい。男の姿はまた奇怪で、金髪だが肌が青白く、赤い襟のついた軍服みたいな灰色の服に黒いマントを羽織っている。

どこかの国の高級将校だろうか?

それにしても青白いとても不健康な皮膚の色が気になる。


「で、あんたは何故私に飯を奢ってくれる?何か裏があるのだろう?」


「いやね。横で聞いてたんだが、君は名探偵だそうじゃないか。もし有能ならアンドロメダにつくまで君を雇いたいと思ってね」


「ほう?それは事件解決の依頼か?俺は高いぞ」


「報酬ははずむつもりだよ。君は三等客室からやってきたのでそこまで金がある訳じゃないだろう。私は一等客室なので私の部屋の横の客室を用意してもいい」


「いくら払うんだ?」


「その前に。君は今は何の事件を追っているのかね?」


「とある宿で起こった殺人事件だ。その犯人を追っている」

まあ適当に誤魔化しておこう。


「なるほど。その犯人がこの列車に?」


「いや、乗っている可能性があると言うだけだ」


「その捜査も並行してやってくれても構わない。とりあえず、君がどれほどの探偵かわからないのでね。テストとして3日以内にある人物を特定すれば50万メダ払おう。その後、私が無事アンドロメダに辿り着いたらさらに200万メダ払う。それと一等客室の金は私が持とう。それでどうだ?」


「ある人物??」


「そうだ。ここではこれ以上話はできない。依頼を受けるか?」


「なるほど。辿り着いたらと言う事はボディガードも兼ねているわけだな。ある人物についてもう少し話を聞いてから考えさせてくれ」


「では食事が終わったら私の部屋で話をしよう」


かなり怪しい男だが、背に腹は変えられない。一旦保留にしたが、俺は前向きに考える事にした。



--------------



一等客車に入るには食堂車から二等客車を抜けなければならないが、二等客車、一等客車の入り口にはそれぞれ車掌がいて、利用者以外が簡単に入れないようになっていた。


デサラーの一等客室は列車とは思えない広さがあり、調度品もアンティークで上質なものが使われている。


「では、私の事から話そうか。私はバル-デサラー。商売人だ。今は惑星アルアラメインからアンドロメダに向かうためにこの列車に乗った」


軍人かと思ったが商売人らしい。惑星アルアラメイン?聞いたことがないが、ここは地球では無いということだろうか?それとも•••


「質問いいかな?アンドロメダやアルアラメインはどこにある都市だ?俺の記憶にない都市名なんだが」


「何を言ってるんだ君は。本当に名探偵なのか?アルアラメインは砂漠の星でアンドロメダはこの列車の終着星だろうに」


「ちょ、ちょっと待てこの列車は宇宙を飛ぶのか??だから窓の外は星しかない•••」


「もしかして、ウエイターのように私を試しているのか??やめておけ」


「すまない。今のは冗談だ。あんたを試すつもりはなかったんだ」

「冗談はそこへんにしておいてくれたまえ」


「それで、あんたはどんな犯罪に巻き込まれて何故ボディガードが必要か聞かせてもらっても?」


「アルアラメインは砂漠で有名な星だが、砂漠のお陰で古代文明の遺跡が至る所に残っている事でも有名だ。私はその遺跡から発掘された品を取引しているのだよ。

そして、遺跡の発掘品の売買は国の審査機関を通す事が義務付けされている」


「そうだろうな。あんたはまともな取引をしてなさそうな気がするが」


「流石は名探偵。当然儲けるためには闇のブローカーとも取引があってね。まあ、私もその闇のブローカーなのだがね。闇のブローカーはワルばっかりだが私はこの通り真っ当な闇のブローカーだ」


「真っ当な闇のブローカーってなんだ?」


「しかし、困った事に私は偽物を売りつけたと言いがかりをつけられて、そいつらから殺害予告が届いてるってわけだ。な。立派な事件だろ」


「マフィアから狙われてるってことか。そんなのは俺の範疇じゃないんだが」


「この列車に乗ってるだろうその刺客を探し出してほしい。君の能力を試す意味でもある。3日以内に見つければ50万を払い、その後も君をボディガードとして雇おう。

そしてアンドロメダまで無事に辿り着けたらボーナスも出してやろうって事だ。いい話だろう?」


俺は推理する•••


この男は稼ぐために派手にやらかしてアルアラメインのマフィアに狙われてしまったと言う事らしい。だからアンドロメダに逃げると言う事だろう。


だが、それよりも何よりもここはどこなのだ?星しか見えない列車の中なのはわかるが、列車が宇宙を走るなんてあり得ないし、警笛は鳴っても動いている気配がない。


これは何かのイベントだな。列車内で行うロールプレイングゲームだ。それなら辻褄があう。

皆で役割を演じるゲームをやっているのだ。


窓から見える景色は高精細の映像なんだろう。またおかしなイベントに参加してしまったようだ。


さてこの列車内に殺し屋がいるか?について、これがイベントなのであれば、いるのであろう。そうでなければ面白くない。


その殺し屋を俺が見つける。面白いじゃないか。


とりあえずここでは日本円は使えず、イベント内通貨でのみ飲み食いが出来る。

郷に入れば郷に従うしかあるまい。

だったらこのゲームイベントに参加してやろう!


「ここでの食費もつけてもらおうか」


「一等客室料には食事代も全て含まれている安心しろ」


「仕方がねえな!

俺は亜我佐(アガサ)。地球という惑星からアンドロメダへ旅をしている名探偵さ。その仕事受けてやる!」


ーーーーーーーー

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る