第27話 真犯人

冷たっ!!


俺は水をかけられたのだろう。頭から水浸しの状態で意識が戻った。


「気がついたか、犯人さんよ。お前の事を聞かせてもらおうか」


ヤクザのような黒服の男が目の前にいてそう俺に話しかけてくる。


すぐ近くにはその部下の黒服男と白いシャツを着た銀髪男が立っていた。

ここはギャンブル場の事務所だろうか?

俺は後ろ手に縛られて床に転がされている。


「俺は名探偵だ。犯人じゃない」


「名探偵だかなんだか知らねえが、お前が犯人なのは間違いない。金が入ったカバンをどこにやった?」


「何も調べずに決めつけるのか?

豚男たちはどこに行った?俺が謎解きをしてやろう」


「あいつらは白だとわかったから解放した」


「まだ何もわかっていないのに解放したのか?会場からは出していないだろうな。

豚男も共犯の可能性があるぞ」


「カバンが見つかってないからな。会場からは出してはいない。

殺されたゴブリンの友人のオークとピアスのオークにはアリバイがあった。

それにピアスの男はこの街の司祭だ。大きな権力を持っている大金持ちだ。ゴブリンなど殺すわけもない。

そして顔に傷があるオークは裏社会のドンであるナイトジョンの右腕だぜ。チンケなゴブリン殺しなんぞするわけもないだろ」


「なるほどな。それで真犯人が誰なのか確証がえられた」


「何を言ってやがるお前が犯人だろうが!」


ヤクザな黒服男は俺を犯人だと決めつけるが、俺の推理はもう完成した。誰が犯人かをわからせてやる。


「死者の魂は知っている!犯人は第一発見者のお前だ!」


俺は縛られながら、銀髪の男に向けて決め台詞を使った。


「おいおい。犯行がばれたからと言って私を犯人とか冗談はよしてくれませんか」


銀髪の男がニヤリ顔でそう言う。コイツしか犯人はいない。


「お前は当初、赤いシャツを着た背の高いオークがカバンを持って出てきたと言った。

しかし、赤いシャツを着た豚男を俺が連れてきた途端、見たのは女のオークでカバンは肩にかけていた等と言い出した。何故か?」


「私は男のオークなんて一言もいってませんよ!」


「当初お前は赤いシャツのオークが何人か会場にいるのを知ってソイツに犯行をなすりつけようとしたんだ。

しかし、3人に会ってなすり付けるのが無理だと判断をした。だから急に女だと言い出したんだろ?」


「それ勝手な空想ですよね?」


「しかし、オークに罪をなすりつけられないなら、別の犯人が必要になる。そこで俺が金を借りていたと言う話に便乗して、罪をなすりつけようとしたわけだ」


「そ、それも勝手な空想ですよね」


銀髪の男が少し動揺してきている気がする。


「そしてその時、お前は最大のミスを犯した!お前は俺がウラドの持っていたカバンに大金が入っているの事を気にしていたと証言したが、俺はお前に大金が入ったカバンなんて事は一言も言っていない。出てきた豚男がカバンを持っていなかったか聞いただけだ。お前は自ら自分が犯人だと言ったも同然なのだ!」


「そ、そんなのは嘘だ。死体を見た時に大金の入ったカバンが無くなってると言っていたのを私は覚えているぞ!」


まだしらを切るつもりのようだ。しかし、銀髪の動揺はいよいよ激しくなっている。後もう少しで落ちるな。


「まあ、いい。遺体に刺さっていたナイフの指紋はとったか?その指紋とこの銀髪の指紋を比べてみろ」


「し、指紋!?」

「ん?なんだって?指紋ってなんだ?」


指紋は拭き取ららている可能性は十分あったが、ブラフで言ってみただけだ。

しかし、銀髪もヤクザな男も俺の言っている意味を理解出来ないという顔をしている。どういう事だ?


「指紋だ!指紋を取るんだ!指紋を知らないとかありえんだろう!お前はもしかしてグルなのか!?」


苛立った俺はヤクザな黒服に声を荒げてしまった。


「はあ??おいおい、今度は俺様を犯人呼ばわりとかいい度胸してるな。

まあ、お前の戯言はもういい。

発見者のコイツが犯人なら金の入ったカバンは何処にやったんだ?最初から最後までトイレにいたんだぜ」


「第一発見者を装ったコイツはカバンをいったんトイレ内に隠したのだろう。

犯人が捕まった後にその金を回収するつもりだと俺は睨んでいる。個室トイレの水桶を調べてみろ。そこにカバンは沈んでるはずだ」


銀髪の男がかなり動揺しているのがわかる。


「おい。調べてこい!」

「わかりましたブ!」


ヤクザな黒服の男はすぐさま部下の豚男に命令を出した。



—————-



「本当にありましたブヒ!!」


大金の入ったカバンを黒服の豚男が持って部屋に入ってきた。


「本当にあるとはな。これで証拠も揃った。取られた金のありかを知っていたと言う事は、お前が犯人で間違いないな。お前は縛り首だ」


「おいおい!まてよ!俺は謎を解いただけだ!

犯人は銀髪のソイツだ!!!間違いない!婆ちゃんの名にかけて!!」


「おい!コイツを黙らせて領主の兵に引き渡せ!!」



ーーーーーーーー



「もう帰ってきたのですか?」


俺の目の前に先日の事件の共犯の女が天使の羽をつけて立っている。


「な??何故?お前がここにいる?俺は絞首刑になったはず」


首の骨が外れた時の感覚が蘇る。

恐ろしかった。

絞首刑•••こんな野蛮な刑が日本ではいまだに実行されているのだ。


しかも、民衆の前で晒されて絞首刑とはどういう事なのだ?


「あなたは殺人事件の犯人として絞首刑になったようですね」


「ああ。俺は絞首刑に•••。でもこうやって生きている•••。どういう事だ??何故お前がここにいるんだ?」


「あなたは死んで魂としてここにいるのです。前にも言いましたよね?すぐに帰ってくるとか面倒なのでやめて欲しいんですけど」


「死んだはずなのに、また元の殺人犯に捕らえられている?どういう事なのかさっぱりわからん」


「殺人犯はあなたですよね。フフッ。

今回のあなたの情報を確認しましたが、犯人と疑われているのに犯人しか知らないカバンのありかを言ったらダメだと思いますよ。自分が犯人ですと言ってるようなものですから。フフフッ」


あの説明で、何故俺が犯人にされるのか全く理解できない。


「これまで俺はこのやり方で殺人事件を何十件と解決したんだぞ!!

今までなら、あそこまで推理して推理通りに証拠まで出てきたなら、100%犯人が犯行を認めていた」


「カバンだけで証拠になるわけないじゃない。そんなので自白するなんてよっぽど頭の悪い犯人だったのね」


あそこまで完璧に推理したのに!何かがおかしい。


「あそこまで言い当てられたら自白するのが普通だ!あの黒服もグルだったのかもしれないな」


「真犯人は銀髪の男1人ですけどね。」


「そんな事が何故わかる?お前は居なかっただろう!?何故、浮気相手の宿の主人と共謀して連続殺人を行ったお前がここにいる?」


「はい?私はあんな太った男と不倫なんてしてないわよ。まだ私を疑ってるとか信じられないバカね」


「まだ知らばっくれる気か!?」


「私は女神アルデ様の使徒なの。だからわかるのよ。面倒だけどあなたが殺された山荘の事件も調べてみたわ」


「俺が殺された山荘の事件??俺はこの通り生きているぞ?」


「あなたは魂•••。まあいいわ。

あなたの読み通り、宿の主人と浮気してた女が共謀して殺人事件を起こしたようね。

最初は祟りに見せかけて有耶無耶にしようとしてたみたいだけど、そんなの無理に決まってるわ。日本の警察は祟りなんてバカな話を信じるはずがないもの。

祟りに偽装する手間を考えると、犯人の趣味としか言いようがないわね。

結局、祟り偽装のために大量の着物を用意していた所を外国人カップルに見られていて警察に通報すると言い出したものだから、同じようにして殺したみたいね」


「俺の推理通りだな。ではお前は犯人で間違いないのだな」


「私は変装なんてしてないのよ。もう。面倒臭い。

あなたの、推理は間違っては無いけど推理と浮気写真だけじゃ犯人を有罪にする事なんてできないのよ。

あなたが名探偵なんて浮かれてられるのは、今までの犯人が間抜けですぐに自白していたからね。普通じゃ考えられないわ」


「確かにお前は強情だな。こんなに強情な奴は初めてだ。では聞く。お前が変装していないというなら何故羽をつけてコスプレしている?」


「私は天使だからよ!」


「はいはい。天使さん。本当のことを言ってくれ」


「私は天使であなたはまた転生するのよ。すぐに戻ってきて欲しく無いから、何かプレゼントをあげるわ。何か欲しいものはある?」


「プレゼント?そんなもので俺を誤魔化せると思っているのか?」


「まあいいわ。あなたは推理好きだから、助言の鏡をあげるわ」


「鏡などいらん!俺と一緒に警察署に出頭しろ」


「その鏡は「鏡よ鏡」と言うだけで質問に答えてくれる魔法の鏡よ。

もう面倒臭いから説明はこれくらいで。

では、行ってらっしゃい〜♪」



目の前が真っ白になる。


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