第31話 マーテルと銀郎

一等車の部屋をデサラーが用意してくれた事もあって、俺がデサラーに雇われていた探偵という話は信じてもらえたようだ。


そこで車掌から、事件の概要について説明がなされることなった。


デサラーはベットの上で仰向けで死んでいた。

刺し傷は4箇所。全て胸にあった。

狂気はサバイバルナイフ。デサラーの胸に刺さっていた。

指紋は現在調査中。車掌達は殺人事件を調べるためのロボットではないので、指紋を取れるかはわからないようだ。


※俺たちは念の為、ワイングラスを手に持って指紋を提供する事となった。



そして、調査が終わった後で重要な死亡推定時刻が報告された。死亡推定時刻は23:00-翌1:00だという。


それに加えて、断定的な死亡時刻は23:41分だと告げられた。

理由はデセラーが身につけていたアナログ時計が壊れて止まっていて、時刻がその時間だからだそうだ。時計のガラス面が割れた状態で床に転がっていたらしい。


時計もアナログなら、捜査もアナログすぎないか?


俺が真っ先に疑ったのはマーテルだったが、彼女はその時間アリバイがあった。

客室トイレの調子がおかしいと車掌を呼び出していたからだ。

車掌と話している姿は俺も見ていて、何があったのか尋ねてもいるのだ。


そして林蛍とエメラルは展望車でチェス(のようなゲーム)をしていた事もわかっている。その時間レストランはバーになって酒類を提供しているので、ウエイターも覚えていた。


要するに時計が壊れて止まった時間に犯行が行われたのであれば全員にアリバイが成立するのだ。


俺は推理する••••


その予想犯行時刻が怪しすぎる。

デサラーの部屋の扉が開いた時、部屋の温度はかなり低い状態だった。死体から犯行予想時刻を割り出す時、この温度というのは非常に重要な要素になり得る。

ちゃんとそれを想定しているのだろうか?このロボット車掌は捜査のプロでもなんでもない。

それと犯行時刻が壊れた腕時計が指し示す時間だとするのはちょっと強引だ。

アナログ時計など、犯人が捜査を混乱させるために時間を変えて壊すことくらい簡単に出来る。

この犯行予想時刻、冷房によって腐乱が進んでいないとすれば、もう少し早い段階で殺されていた可能性がある。


するとノックして入っていった奴が犯人で間違いがないだろう。それは誰か!?


当初はエメラルを暗殺者から外したが、ノックして入れる人間ではある。信用もされているので容易だろう。


エメラル、マーテルと銀郎。この三人が有力候補だ。


俺は3人に21:00-23:00のアリバイを聞いてみた。すると、なんと全員が夕食の後、22:30くらいまで林蛍の部屋でトランプをして遊んでいたと言うのだ。


全員アリバイがある事になってしまった。

ど、どう言う事???


俺の推理は見事に外れた。では21:00頃デサラーの部屋にノックして入っていったのは誰なのか!?


車掌が犯人なのか?いやレストランのスタッフと言う線もありえる。


乗客以外に殺し屋がいるなんて考えもしなかった。

仕方がない。鏡に聞くしかないな。


次の日の朝、早速俺は鏡に尋ねた。


「列車のスタッフの中にデサラーを殺した犯人はいるか?」


鏡に婆さんが現れて答える。


「探偵なのにそんな事を聞くなんてなんて、横着過ぎないかい??まあいい。列車のスタッフには犯人はいないよ」


ど、どう言う事なんだ!!!


も、もしかして2等客や3等客に犯人がいて密かにロボット車掌の目を盗んで忍び込み殺したのか!?


そうなると俺の捜査は振り出しに戻るじゃないか。


その日、俺は2等3等の車両に聞き込みして回った。何十人もいるので怪しい奴は沢山いたが、もちろん犯行をしたと言う奴はいない。


これは俺の手に負えないな。

よし、初心に戻って一人一人の素性を鏡に聞いていくか。


「鏡よ鏡、マーテルの素性を詳しく教えてくれ」


「人の素性を知りたいなんて、ほんと困った奴だねぇ。しかしそれが探偵というものさね。

マーテル1565歳、ラーモータル星生まれ。母プロメテと旅をした末にたどり着いたアンドロメダで、高度文明社会の礎を母と共に創り上げた。

母は現在神王としてアンドロメダ宇宙政府を影で支配している。マーテルは母の命を延命させることが出来る血を持つ人間を探して銀郎と出会った。現在、母のために銀郎とアンドロメダへ向かっている」


マーテルは白だった。

いや、驚くべき事はそこではない。1565歳!?アンドロメダの神王の娘!?とんでもない設定だな。まあ、リアルロールプレイングゲーム内の設定だからなんとでもなるんだが。


銀郎は義体の体になりたいとアンドロメダに向かっているはずなのだが、マーテルの目的と違うのが気になるな。


まあ良い。次は銀郎だ。


次の日も鏡に話しかける。

「鏡よ鏡、銀郎の素性を詳しく教えてくれ」


「また聞くのかい?それを繰り返せば犯人がわかっちまうじゃないかい。まあ良いだろう。

銀郎。16歳。惑星ティエラのキントで生まれた。戦乱によって一家は離散し難民になる。苦しい生活から抜け出せると、密貿易商人のアドラーの誘いに乗ったが、母親は密貿易船内で売春をさせられた上に、最後には逃げようとしたところを殺された。銀郎はなんとか逃げ伸びたが、16歳の少年が1人で生き抜くにはこの星は厳し過ぎた。

仕事もなく飢えで死にかけているところをマーテルに助けられ、今は宇宙鉄道に乗っていると言うわけさ」


銀郎の壮絶な人生に唖然としてしまう。銀郎にとってはマーテルは神様以上の存在に違いない。

しかし、密貿易船のアドラー???

林蛍の素性でも出て来たな。夫がアドラーに殺されたんだっけな。


アドラー。ひどい奴もいたもんだ。


———

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る