第32話 名探偵の推理
俺はもう鏡無しでは生きていけないかもしれない。聞き込みなんてめんどくさい事をしても、本当のことを言ってくれるとは限らない。
この鏡に聞いたら隠している情報も出てくるんだからな。凄えよこいつ。
次の日も鏡に話しかける。
「鏡よ鏡、エメラルの素性を詳しく教えてくれ」
そう鏡に問いかけると、いつも通り鏡にノイズが走った後に老婆が現れる。
「なんだい。結局は全員の事を聞くのかい。ヘボ探偵だねぇ。
エメラル。本名はエメラルゴス。42歳。海賊船クイーン船内で生まれる。
海賊だった父親の後を継ぎ海賊船クイーンの船長としてアンドロメダ星雲で暴れ回る。25才で同業の海賊ハードロックと結婚。しかし31歳の時にハードロックは密貿易商人のアドラーの罠にハメられ殺される。エメラルゴスは復讐のために密貿易商船団を襲撃するが、海賊船は大破。乗員も殆ど失い廃業した。廃業後は友人マーテルの伝手で首都星アンドロメダにて俳優に転身。クイーンとの芸名で活躍している。
今はアルアラメインにアドラーが居るとの噂を聞き、ソイツを追ってアルアラメインに行き、そこからこの列車に乗った」
エメラルが海賊!?
いや、驚く所はそこではない。
またアドラーという密貿易商人の名前が出て来たのだ。
マーテルを除いて3人がアドラーで繋がった。
マーテルはエメラルの友人だという事なので、4人とも繋がっている。そんな偶然がありえるのだろうか?
推理ロープレのイベントなんだご都合主義は当然だな。俺は気楽に考える事にした。
アドラー、密貿易商人••••
俺は推理する•••
!!!
アドラーってもしかして!?!?
これは聞くしかない。鏡に最後の質問を!!婆ちゃんの名にかけて!!
次の日の朝がやって来た。
明日は惑星ボトラーに到着するらしい。
車掌の話ではそこで本格的な捜査を警察に依頼するとの事。
俺はその前に犯人を突き止めてやるのだ。
「鏡よ鏡!デサラーの素性を詳しく教えてくれ!」
鏡にノイズが走り婆さんが現れる。
「それを聞いたら犯人がわかっちまうね。本当に言っていいのかい?」
「もちろんだ!言ってくれ」
「探偵のプライドはあまりないんだねぇ。
デサラーの本名はアドラー。53歳。惑星ゴムラス出身。ゴムラス帝国の当時の皇帝の次男として生まれる。惑星ティエラとの戦争に大将軍として赴くが大敗して失脚。兄の計略もあり流罪となるが、アドラー派貴族クラウサの支援によって流罪地から逃亡。
逃亡後は支援者の船を使って貿易商を始めたが、うまくいかず密貿易を手がけるようになる。
その後は密貿易のために裏切りや強奪、偽造品や麻薬、奴隷の売買、不法売春などの悪事を派手にやっていたが、そのせいでマフィアからも疎まれるようになった。
今は、惑星アルアラメインで対立するマフィアに多くの商船を破壊されたんで、命からがらアンドロメダへ逃亡する所だったようだね」
•••••。
やはりな!俺の推理は正しかった!奴がアドラーだったのだ。
では犯人は??
俺は推理する•••
林蛍、銀郎、エメラル。3人のアドラーへの殺意。
そしてエメラルとマーテルは友人。
!!
これ全員グルじゃね??
全員グルならアリバイなど成立しないんだから。
完璧にグルでしょ!!
俺はやはり名探偵だなっ!わかってしまったよトリックが!!
よし!舞台は整った。とはいえ彼らがデサラー(アドラー)を殺す理由には同情の余地がある。
ハッキリ言ってデサラーはクズだ。
騙され売春させられた挙句に殺された銀郎の母、夫を殺されたエメラルや林蛍。
彼らがデサラーを殺しても悪くない気がするし、そのまま警察に突き出すとかはなんか違うな。
犯人を知って俺がどう演じるのか?クライマックスをどう締め括るのか?それが重要だろう。俺はこう見えて正義の味方なのだ!
ここで全ての謎を解き明かし、その上で彼らを許す!
俺ってかっこいい名探偵!!これしかない。
俺はクライマックスの舞台を車掌の目の届かない俺の部屋にする事にした。
俺の呼びかけにマーテル、銀郎、エメラル、林蛍の4人が俺の部屋に集まってきた。
マーテルを除いて皆表情は硬い。
「皆さんを呼んだのは他でもありません。デサラーを殺した犯人がわかったからです」
4人の表情がこわばる。
「さて、殺されたデサラー、いえ、デサラーは偽名で本名はアドラーと言います。アドラーは密貿易商人でした。しかしアルアラメインで取引相手のマフィアの恨みを買い、商船が破壊されたためにこの列車でアンドロメダまで逃げようとしていました。だからこそ私は彼に暗殺者探しとボディガードを頼まれたわけです」
4人の顔は真剣だ。そして一言も発しない。
俺は続ける。
「死者の魂は知っている!この中に犯人はいる!!」
決まったな!このセリフは何度言っても気持ちが良い。
「どう言う事だい?私たちにはアリバイがあると思うが?」
エメラルが言葉を発した。
「アリバイ?それをこの私、名探偵亜我佐(アガサ)が崩して見せようというのだ」
「そうですね。林蛍さん。貴女の話をしましょう。
貴方はアンドロメダで教師をしていると言いましたが、嘘ですね」
「嘘ではありません。アンドロメダにつけば証明できます」
「逆に言えばアンドロメダに着くまでは証明できないと言う事です。
貴方は惑星ティアラの防衛軍に在籍していましたね。そして、そこで下級将校と結婚している。夫の名前は現代戻(ゲンダイモドル)」
「••••なぜ、なぜわかったのですか」
「なぜわかったのかはこの際どうでも良いでしょう?そしてその最愛の夫を亡くしていますね。密貿易商人のアドラーに殺されて!
そう、この列車で殺されたデサラーにです!」
「••••••」
「林蛍がデサラーを殺したと言うのか!? でも彼女にはアリバイがあるんだぞ!」
エメラルが声を荒げる。
「本当にアリバイがあるのでしょうか?
では次はエメラルさん貴女です。貴女は本名はエメラルゴスですね?」
「な、なぜそれを!!」
「貴女は海賊だった。夫で海賊のハードロックがアドラーに殺され、貴方も返り討ちに合うまではね」
「ど、どうやって調べたんだ!?」
「しかし貴女は海賊船を失ったあと、そこにいる金髪の美女マーテルさんの伝手で役者になれた。
マーテルさんにはそれだけの力があった。
では、マーテルさんは何者なのか?」
「言わないほうが身のためですよ」
マーテルが穏やかな口調でそう警告する。
そんな警告は名探偵の俺には通用しない。
「この事件のキーマンは貴女だマーテルさん。マーテルさんはこのアンドロメダ宇宙政府の影の支配者、神王と呼ばれるプロメテの娘だ!!」
「えっ!?マーテルどう言う事!?」
銀郎が驚きの声を上げる。銀郎にも知らされていなかったのだろう。
「マーテル!そ、そうなのか?」
いつも冷静なエメラルも驚いている。
「宇宙国家機密を口にしてもらっては困るわね。死になさい」
マーテルの指が光輝いた。
—————
「おかえりなさい。やっぱり帰って来ちゃったのね」
天使の羽を身につけた女が目の前にいる。
「あれ?ここは?? 4人はどこに行ったんだ??」
「また自分がどうなったかわからないんですか?困った人ですね。貴方はまた死んだんですよ」
—————
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