第23話 名探偵
俺には事件を引き寄せる力があるのだろう。
とりあえず俺の周りでは殺人事件が頻発するのだ。
それを解決しているうちに名探偵などとか疫病神とか呼ばれるようになったのだが、今回も例に漏れず俺の近くで殺人事件が起きた。
東北の雪深い山の宿••その日は午後から吹雪になっていた。
俺以外に4組のカップルが泊まっていた山荘の一室で最初の殺人が起きた。
殺人現場はかなり奇妙だった。
被害者の男女のカップルは和の着物を何重にも着せられた上で二本の柱に縛り付けられ、心臓を何かで貫かれ大量に出血した状態で発見されたのだ。
その状況がこの宿にも祀られている「おしら様」のようだと、宿の主人が言っていた。
おしら様とは東北地方で広く祀られている道祖神で男女二体が対になった御神体が至る所に祀られている。
地域によって呼び方や伝承内容は違うが、この地域では馬とその馬に恋した女が禁忌の行為をしたとして殺され天に召して神になったとされる。
今回の殺人現場は部屋の中から鍵がかけられていて、合鍵は宿の主人が持っていた。
しかし、宿の主人にはアリバイがあり鍵も持ち出されていなかったので当初は密室殺人だと思われたのだ。
吹雪のため警察はすぐには来れず、私が探偵として調査に乗り出す事になったのだが、その最中に二件目の殺人事件が起きた。
外国から来た男女のカップルが同じようにおしら様のような格好をさせられて殺されたのだ。
だが、その犯行によって私には犯人が2人だとわかったのだ。
そして決定的な証拠を手に入れた、その時、背後から物音がして•••
気づくとこの天使のような格好をした女が目の前にいたわけだ。
「ここは何処だ!?俺に何をした!!」
犯人は1人ではないと言う俺の推理は正しかったのだ!この天使のコスプレ女は共謀者なのだろう。俺とした事が背後に回られるとは!!
「ここは魂の通過点です。そして私はあなたに何もしていませんよ」
「何が魂の通過点だ!
死者の魂は知っている!お前が犯人だということをな!!」
俺はいつも使っている犯人に向けた決め台詞を解き放つ。
宿の主人とこの天使の格好をしたふざけた女が共謀した殺人事件だったのだ。
宿の主人の合鍵を使えば密室事件は密室ではなくなる。
宿の主人にはアリバイがあったが、しかし共犯者がいれば話は変わってくるのだ。
「最初の殺人の動機は宿の主人とお前の不倫だ!!お前と宿の主人は不倫をネタに脅されていた!!そうだろう?」
「また変な魂がやって来ましたね。使徒の私が不倫? 何を訳のわからない事を言ってるんですか?」
「とぼけるつもりか!!ではこの写真はなんだ!!」
俺はポケットから写真を取り出す••••いや出せない。
そうだ。俺は犯人に拘束されているのだった。手を動かす事が出来ない。
「俺の拘束を解け!!お前が犯人だという証拠を突きつけてやる!」
「本当に困った魂です。貴方は死んでも謎解きをするつもりですか?
それに写真に写ってる女は私ではないと思いますけど??」
そう!その通りなのだ。写真に写ってる女は宿に泊まっている別の日本人カップルの中にいた30代の女だった。
こんな金髪の青い瞳の外国人ではないのだ。
しかし、こいつは変装の名人なのだろう。おそらくはその姿を【おしら様】のように見せているのだ。この殺人が【おしら様】の祟りだとするためにな!
最初からこの事件は奇妙だった。着物を何重にも着せられて柱に縛られた被害者、それを見て、最初から【おしら様】の祟りだと結論づけるように話をする宿の主人。
祟りで人が縛られて死ぬものか!!
さらには俺を拘束しておいて祟りの元凶が出てくるとは凝った事をしてくれる。
この神様気取りの女は犯人の共謀者で間違いない。セットが凝りすぎているので変装ではなく、もしかしたら俺は最新のMRゴーグルをかけられているのかもしれないな。
おしら様の祟りを信じたフリをすれば解放するつもりなのかも知れないが、俺にはそんな演技は出来ない。
「拘束された時点で俺の負けだ。俺を殺す前に謎解きの答え合わせだけさせてくれ」
「私は殺人犯ではありませんし、貴方を殺すもなにも既に貴方は死んでるんですって!!
もう!面倒臭すぎるんですけど〜〜!!」
「ハハハッ。俺は死んだも同然って言うことか。それはそうだろう。だから最後に事件の答え合わせがしたいんだ」
「も〜〜〜〜!!なんなのこの魂!!
もういいわ。私は女神アルデ様の使徒カリンです。貴方はH15375世界の生を終え、魂の状態になっています。
しかし、貴方は生前とても良い行いをしましたので、アルデ様の作ったルールにより記憶を持ったまま新しい生を与える事になりました。それを我々は転生と呼んでおります」
「まだ演技を続けるのか??何が女神だ。
死者の魂は知っている!お前達が犯人だと言う事をな!!悪事はいずればれる!!婆ちゃんの名にかけて!」
「はいはい。では行ってしゃい!」
目の前が真っ白になる。
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