第5話 女神のルールは絶対です

苦しい。


苦しみで目が覚める。

おかしい。雲の中の世界ではない。


病院か。どうやら医療ベッドで運ばれているようだ。


「緊急オペだ!すぐ運び込め!」


俺が乗ったベッドが勢いよく動いている。

そこでまた意識が途切れていく。


「血圧低下!!モルヒネ投与!!





………




苦しい。

また、意識が戻る。苦しみはまだ続くのだ。


「銃弾がまだ体に残っているな。すぐに全身麻酔して銃弾を取り出す」


そこでまた俺の意識は途切れた。





………




「ええ!!!また戻ってきたのー?!

バカなの?死にたがりなの?

本当に面倒臭いわね。何回私に手間かけさせる気?」


目の前には何度も見た黄金の羽根のコスプレ女がいて、その整った顔を歪めている。

本当に気だるそうだ。


体の苦しみはない。いや体がないから当たり前か。

苦しみから解放された事、今はそれがありがたい。


「悪魔殺しの聖剣エルクスまで渡したって言うのに。ほんと猫に小判とはこの事ね」


「•••その剣が勝手に人を斬り始めたんだぞ。そのせいで俺は殺された」


「悪魔を殺すような剣よ。当然人も殺すでしょうね。意思を持つ道具にはその道具を好む魂が宿るの。ランプに宿る魂なら炎が好きでしょうし、楽器に宿る魂は音楽が好きなのよ」


「剣に宿る魂はどうなんだ」


「剣に宿る魂は人斬りが大好きに決まってるじゃない」


「殺人鬼の剣じゃないか!」


「聖剣を手懐けるのが腕の見せ所なんじゃない。剣と話をした?ちゃんと会話をして取引するのよ」


「取引!?なんの取引をするってんだ!」


「1番好きな事を聞き出して、それをさせてあげる代わりに言う事を聞くように取引するのよ」


「その好きな事が人斬りなんじゃないか?」


「バカね。悪魔殺しの剣なのよ。悪魔を殺すのが1番好きに決まってるじゃない。悪魔を殺すために今は人を斬るなといえばいいの」


「だったら最初からそう言ってくれ!!」


「いやよ。そんな事を言ったら面白くないじゃない」


本音が出やがった。


「お前、今面白くないとか抜かしたな?人の魂をおもちゃにしやがって!」


「聖剣をプレゼントするだけでも、特別なのに懇切丁寧にアドバイスなんて出来ないって事よ。おもちゃになんてしてないわ」


「もういい。転生はしない天国に送ってくれ」


「何言ってんのよ。あなたに選ぶ権利なんてないわ。私にもないのよ。あなたをルールに従って転生させないとダメなの」


「もう苦しみは勘弁だ!!早く殺してくれ!!」


「あなたは死んだからここにいるのよ。どうやって殺すと言うのよ」


「じゃあ記憶を消してくれ!!」


「女神様が決めたルールは絶対よ。破ることは出来ないの。言ったでしょ?」


「俺はもう転生しない」


「駄々こねないで。

一年生き残ればもう転生する事はないわ。

たった一年なのよ。あなたみたいな転生者はほんと迷惑なのよね」


一年!?とてもそんなに生き残れる気がしない。


「どうしても転生しないとダメなのか?」


「そうよ。諦めなさい」


「だったら生き抜くための力を渡せよ」


「また我儘??でも面倒臭いからとっておきのチートアイテムをあげるわ。

あなたにピッタリの魔法の杖があるのよ」


「また殺人鬼の武器なんじゃないだろうな」


「その魔法の杖に魂は宿ってないわ。

動物の生命力を吸い取り、自分の生命力にする杖よ。これがあれば流石のあなたもすぐに死んだりしないわよ」


「それ嫌な予感しかしない!!」


「さあ行ってらっしゃい。もう帰ってこないでね」


目の前が真っ白になる。




……



意識が戻ると先ほどの高層ビルが立ち並ぶ街に来ていた。先ほどと同じ場所だ。

時間軸がどうなっているのかはわからないが、その街は全く同じといってよかった。


大丈夫だ。先ほどの悪魔の剣は持っていない。俺の手にあるのは杖だけだ。


この杖を使う事はない。どうせろくな事は起きないに決まっている。

生命力を奪う?ゲスすぎる。


かといってここで捨てる気はない。

本当に危険が迫った時、、小鬼などに襲われた時には躊躇なく使うつもりだが、人に対しては使う事はないだろう。


この世界で俺は平穏に生きていくのだ。


杖を握り街を歩く。


しかしさっき転生した時と違い人々が少し騒がしい。

遠くから叫び声も聞こえる。


「現場はどこだー!!」


俺の横を数名の警察官が走り抜ける。

何かが起きているようだ。


何か嫌な予感がするが、とりあえず警察官

が向かった方に行く事にする。

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