第4話 聖剣エルクスを手に入れた

意識が戻ると、いつもの草原とは違う場所に立っていた。


目の前に高層ビルが見える。

そして、多くの人々が行き交っている。

その服装は俺が見慣れたものだ。


もしかして日本に帰って来たんじゃないか?!

そんな風に思わせるような街並みと人々の営みがそこにあった。


ここが日本なのかそれとも日本に近い別の世界なのかはわからないが、この世界なら生きていける!!


そういえば転生先の世界は色々あるような事を天使が言っていたな。


とりあえず人に話しかけてみよう。



「獲物が沢山いるじゃねえか!!」


どこからかそんな声が聞こえる。獲物って物騒な事を言う人もいるもんだ。


「おい、お前、俺様の話を聞いてるのか?」


うわ!獲物って俺のことか!!?

いきなりイカれたやつに目をつけられた?!

転生早々に最低だ!!


俺は声のする方に振り返るが、しかしそこには人はいなかった。


空耳??


「おいこら!お前!無視すんなよ!殺すぞボケ!!」


また物騒な声がする。振り返るがそこに人はいない。透明人間がいるのか!?


「お前死にたいのか?」


そう言葉が聞こえた瞬間、俺の右腕が勝手に動いて、いつの間にか持っていた剣を自分の喉元に突きつける。


「えっ!?右手が勝手に!!なんだこれ!!」


「殺されたくけれりゃ俺様の話を聞け」


喉元に当てられた剣から声が聞こえる。

なに!?剣が喋っている!???


これって、意思を持つ聖剣!!!


右手が俺の意思と関係なく動かされてる。勝手に剣を振ることも出来るだろう。


剣豪になれるってそう言うことか!?


「剣が喋っているのか?お前が聖剣エルクスなのか?」


「俺様の名前を知ってるんなら、さっさと返事しやがれ!そうだ俺様が悪魔殺しのエルクスだ。

俺様を手にしてる事をお前は誇って良いぜ」


そう言うと右手は剣を下ろした。


助かった。今度は自殺で死ぬのかと思ったが話がわかる剣のようだ。


周りを見まわすと、多くの人が変質者を見るような目でこちらをジロジロと見ている。

いきなり剣を自分の首に当てたんだ。頭がおかしいと思われても仕方がない。


「はははっ。演劇の練習だよ!!演劇の!」


ここではもう話を聞いてもらえないだろう。場所を移して別の住民に話を聞こう。

俺は言い訳の独り言を言ってこの場を立ち去る。


そして、人通りの多いアーケードに入った。



「こりゃ獲物がいっぱいだぜ!」

「獲物??」


「ウヒョ〜〜〜!!」


聖剣エルクスは変な声をあげると、右手が勝手に持ち上がり、そのまますれ違った20歳くらいの女性に切りかかった。


女性の首が飛ぶ。


「グェへへっ!!1人目!!」聖剣が叫ぶ。


「キャーー!!!」


辺りは騒然とする。


いきなり女性が首を切られて、その生首が血を吹き出しゴロゴロと転がっているのだ。

この惨状を見て恐怖を感じない人は居ないだろう。


「キャーーーーー!!」

その叫び声と共に俺の周りの人々が逃げ始めた。


「奴らを追いかけろ!!」剣がまた叫ぶ。


「何やってるんだ!!やめろ!!!!」


俺が叫び声を上げたいくらいだ。

剣を投げ捨てようと思うが、剣を持つ右手は全く言う事を聞かず、また剣を振り上げていた。


「警察を呼べ〜〜〜!!」


人々が大声で叫ぶ。


俺はこの場から逃げ出すために走り出すが、追い立てられるように人々が反対方向に逃げ出す。

「キャーー!助けてーー!!」


逃げているのは俺のはずなんだが、まるで剣を振り回しつつ追いかけ回している殺人鬼のようだ。


そのうち正面に警官らしき制服を着た男が2名現れ、俺を見るとすぐさま大きな拳銃を抜き立ち塞がった。


俺は左手をあげる。右手はとっくに剣を振り上げている。これで降伏の合図とわかってくれるだろうか?


いや、絶対そうは思わないだろう。


「待ってくれ!これはこの剣が勝手にやった事なんだ。」


「その武器を捨てなさい!捨てないと撃つぞ」


そんな言い訳が通じるわけもない。


「ゲッヘッヘ!!バカな男達め聖剣の俺様に勝てると思っているのか!!」


聖剣は自信満々でそう言う。

この狂った剣とはもう話すことはないだろう。


「待ってくれ!剣を捨てられないんだ。助けてくれ!!」


そう言って警官に近づく。


「武器を捨てろ!!」


1人の警官が手を差し出し、剣を渡すようジェスチャーする。


「待ってくれ!撃たないでくれ!」


「まずは武器を下せ」


二、三歩ほどの距離まで警官が来た。


「ガハハッ!嫌なこった!!

ウヒョ〜〜!」


剣はそういうと、ぶんぶんと自分自身である聖剣を俺の手をつかって振り回す。


バン!!


バン!バン!


3発の弾丸が俺の体を貫いた。

肩と腹の3つの穴から血が吹き出し、俺は倒れた。


「ううう、、、」

痛い。苦しい。うめき声を上げることしかできない。


「通り魔確保。抵抗したため発砲により負傷しています。救急車の手配をお願いします。」


警察が俺を取り囲み何やら通信機に向かって話をしている。

身体が悲鳴をあげている。苦しい。苦しくても何にもできない。


俺は意識を失った。

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