君は強いひとだから

冬馬亮

プロローグ 君は強いひとだから



「君は強いひとだから、僕がいなくても大丈夫だろう?」



 そう言って、あなたはわたくしに別れを告げ、隣でごめんなさいと涙を流す彼女の肩を抱いた。



 そして彼女の涙を、指で優しく拭いながら言うのだ。



「だけどこの子は違う、放っておけない。僕が付いていてあげないと」と。





 ねえ、『君は強いひとだから』って何?


 わたくしは強いから、婚約者のあなたに捨てられても構わないの?


 彼女は弱いから、婚約者のわたくしを放ってずっと側にいなければいけなかったの?



 だから―――だからあなたは、いつもわたくしよりも彼女を優先したの?





「君との婚約を解消させてほしい。ラエラなら、分かってくれるよね?」


「・・・っ」



 ―――拒否なんて、許さないくせに。



 堪らず、四阿から駆け出した。



 待って、と言う言葉が背後から聞こえるけれど、わたくしの足は止まらない。



 淑女は走ってはいけない、なんてこの時だけは言わないで。


 だって、淑女らしさなんて、あなたの目には何の価値もなかったのだもの。



 きちんと淑女教育を受けたわたくしとは真逆の、思った事をそのまま表情に表す無邪気で奔放な彼女を、あなたは愛しいと思ったのでしょう?



 ―――だから、あなたはわたくしとではなく、彼女とこれからの人生を共にしたいとわたくしに言ったのでしょう?



 わたくしは強いから。


 あなたに捨てられても・・・ひとりにしても大丈夫だからと。



 ―――わたくしは、別に強くなんかないのに。



 たとえ、あなたの目にはそう映っていたとしても、それがわたくしに別れを告げていい理由にはならないのに。












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