その通りに受け取らなかった結果


 夜着をまとったラエラは、普段の凛と背筋を真っ直ぐ伸ばした隙のない姿とは違って、全くの無防備に見えた。


 いつもどんな時でも、ラエラはヨルンの目に魅力的だったけれど、初夜となる今夜はやはり格別で、ひときわ輝いて見えた。



「嫌だったらすぐに言ってくださいね」



 ヨルンはそう言って、ラエラの背に手を回し、そっとベッドに沈めた。



 ヨルンは、閨教育は座学のみを受けている。

 担当の教師からは、ベッドの上で女性が言う『いや、ダメ、止めて』はその通りに受け取ってはいけないと教わったが、その時のヨルンは『ラエラさまの言葉を無視するなんて』というのが正直な感想だった。


 だから、初夜の床で実際にラエラが『いや』と言った時、講師の言葉に反するが、ヨルンはすぐにぴたりと動きを止めた。ラエラが嫌がる事はしてはならない、それがヨルンの信条だからだ。


 なのに、なぜかラエラは困り顔でヨルンを見上げてきたのだ。

 頬を赤く染め、涙で潤んだ瞳で見つめられれば、何もしてなくてもヨルンの下半身にあるもう片方のヨルンはさらに大きさを増し、それはもう痛いほどに主張してくる。

 けれどやっぱり、ヨルンは我慢してラエラの指示を待っていた。でも、ラエラはラエラで、もじもじしてばかり。なかなか口を開かない。


 遂に意を決したかのように口を開いたラエラは、なんとヨルンに『意地悪しないで続けて・・・?』と訴えたのだ。


 やめてと言ったからやめたのに、なぜか意地悪と言われてしまった。正直、意味が分からなかったが、行為を続ける事に否やはない。ヨルンもヨルン自身も、続けたくて堪らなかったのだから。



 そうして閨を再開すると、ラエラは嬉しそうに、そして恥ずかしそうにヨルンに抱きつき、胸元に顔をすり寄せた。普段のラエラならあり得ない大胆な行動に、ヨルンは目を大きく見開いた。



「・・・あの、ね? さっき、いやって言ったのは、恥ずかしかったからなのよ・・・?」



 小さな小さな声で、ラエラが言った。



 ヨルンの性格を熟知しているラエラは、きっとさっきのお預け行為がラエラ自身の発言に起因するものだと察したのだろう。



 胸に顔を埋めているから確認できないが、肩やうなじまで真っ赤になっているから、きっと勇気を振り絞って言ってくれたに違いない。



 ここでヨルンは、ようやく得心した。閨担当の講師が言った、床での女性の『いや、ダメ、止めて』はその通りに受け取ってはいけないというのは、まさしく真実だったと。ラエラの言う事を聞かないのが正解の場合もあるとは、目からうろこである。




「・・・なるほど、分かりました」



 ―――安心してください、もう絶対にやめたりしませんから。




 これから夫婦生活を送る上で、とても大事なことを学んで大満足のヨルンは、その後は遠慮なくことを進めていった。



 もちろん、その後も散々ラエラの唇からは『いや、ダメ、止めて』という言葉が飛び出して来たけれど、ヨルンはもう止まらなかった。止めたら『意地悪』になってしまう。ヨルンはラエラを幸せにする為に生きているのに、そんな事はあってはならない。




 ―――結果。



 その夜、ヨルンは生まれて初めて理性を失うという経験をした。



 ハッと我に返った時には空が白み始めていて、ラエラはヨルンの腕の中で気をやっていた。






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