贈り物



 そうして迎えたラエラとヨルンの来訪の日。


 緊張して出迎えた前ロンド伯爵夫妻とは対照的に、馬車から降りて来た2人は柔らかい空気をまとっていた。



「お義父さまからいただいたこの髪飾り、とても気に入ってますの。彫りがとても繊細で、初めて見た時は、どこの職人の技かと思ったくらいです」



 ラエラはそう言って、緩くまとめた髪にそっと手を当てた。まとめ髪の中心に留められた木彫りの花は、ギュンター自らが彫ったものだ。



 治療院に担ぎこまれ、治療と入院、そして退院してからもしばらくの間は目をなるべく休めるよう注意された事もあり、ギュンターが考えていた妊娠祝いの贈り物は、時期が大いにずれ込んで、出産祝いの贈り物になってしまった。


 彫刻刀を手に木材を彫っていると自ずと没頭するので気晴らしにはもってこいという事もあり、調子に乗ってブローチ、首飾りに続いて作ったのが、今ラエラがつけている髪飾りだ。

 細かな彫りが見事な作で、出来上がった時は、アニエスが羨ましがって自分用をねだるほど。そこに彩色すれば、美しさは更に増した。



「ラウロに作って下さった木製のベビーメリーは、お祝いで訪問して下さった方々から大層羨ましがられましたわ。ラウロもベッドから、いつもじっと見つめてますのよ」


「ラウロはまだ小さいので、旅には連れて来れませんでしたが、代わりにこれを。父上と母上にお渡ししようと急ぎ描かせました」



 渡された大きな包みに入っていたのは、額縁に入ったラウロの絵だった。

 色鮮やかなクッションの上にお座りしているあどけないラウロの、恐らくは8か月か9か月くらいの頃の絵だ。



「まあ! まあまあまあ!」


「おお、なんと可愛い・・・」



 手紙で何度もやり取りして、ラウロの目や髪の色などは知っていても、それはあくまで紙上の情報。実際に絵で見るのは大違いだ。


 前ロンド伯爵夫妻は、可愛い可愛いと目を潤ませながら、孫息子の絵姿に暫し見入った。



「赤子はじっとしてはくれませんのでね、ちょっとの隙を見ては画家がデッサンしてを繰り返して・・・この絵の為に随分と頑張らせてしまいました」



 通常、絵姿はある程度子どもが成長してから描かれるものだ。

 両親の為と画家に報酬をはずんで描いてもらったが、目の前で大喜びする様にヨルンもまた満足そうだ。



 ひとしきり絵を眺めた後は部屋で一番目立つ場所にそれを掛け、皆がお茶を飲んで落ち着いた頃だった。



「・・・お義父さま、お義母さま」



 それまでの和やかな空気を一変させ、ラエラは真面目な表情で口を開いた。



「わたくしたちは、明日森に向かいアッシュと会うつもりでおります。その前に、お2人のお話をお聞きしたいのですが」









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