第9話『言葉にして伝える 2』

『……えっと、待って。頭の整理が全く追いつかないんだけど、いや、酷いことされてる割にそういう表情見せないからまさかなぁーとは思ってたけど、マジでそれだけで終わったの?』

「終わらせた、が正しいけどな」


 三鈴みすずと別れた同日。午後10時30分。

 立花たちばなが話を聞きたいということで、今日あったことをそのまま伝えたら先程の反応が返ってきた。


『私が言うことでも無いけど、甘過ぎない?葛西かさいくん、浮気されたんだよね?』

「ああ」

『だったらもっと、こうさ……詰め寄ったり、脅したり、責めたりしてさぁ』

「ドラマとかアニメの見過ぎだ。夫婦間ならまだしも学生の付き合い。なら、当人たちの問題だけで話は終わる」

『でも……ま、良いんだけどね、葛西くんが良いなら。さっきも言った通り私が意見をする話でも無いし』


 そう言う立花はやっぱり納得入っていなさそうだ。


『せめて、浮気した理由くらい聞けば良かったのに』

「浮気した理由を聞いてもオレが傷付く可能性大だからな」

『気にならないの?』

「……全くならない────と言ったら噓になる」

『聞いても仕方ないことではあるからね。葛西くんの言う通り傷つく可能性はあるし……でも、本当にあっさりだったなあ』


 こういう件では大事になる主な要因は浮気をされた側、今回で言えばオレにあることが多い。騒ぎ立て、痛い目に遭わせる、それに周囲を巻き込んで。オレがそれを選択しなければ案外あっさりともの事は完結する。

 しかし、今回で言えば、それに当てはまらない。


「咲ちゃん────三鈴の妹が、三鈴の事を大好きだってのは知ってるよな?」

『え、うん。知ってるけど、それがどうしたの?』

「その逆は?」

『逆?』

「三鈴が妹の事を大好きだって、それは知ってるか?」

『知ってる────というよりも見てれば分かるよ。仲良さそうにしてるし』

「好き度、なんて曖昧な数値の話をするなら、どっちの恋のベクトルが強いか分かるか?」

『そんなの分かんないけど、話の流れ的に、津島つしまさんが妹さんに、じゃないの?』

「違う。答えは分からないだ」

『何それ』


 無駄な質問をされたと文句を言う立花に、オレはそんなことないと言って話を続ける。


「分からないから、意味がある」

『どういうこと?』

「分からないなら、三鈴が咲ちゃんの事を大好きな証明になる。僅差か、少し高いか」

『えっと、まったく何が言いたいか分からないんだけど』

「重要なのは、相思相愛という事。もちろん家族として」


 だから、効果がある。

 オレが頼んだ訳では無いが、今回の件を知った時から咲ちゃんの心は決まっていたらしい。一応、アドバイスは加えたけど。


                   *


 午後17時。津島咲が帰宅。


「おかえり、咲ちゃん」

「……」

「咲ちゃん?」


 午後19時30分。夕食。


「お姉ちゃん、醤油取って」

「あ、うん。はい」

「ありがとう」


 午後21時30分。咲の部屋。


「咲ちゃん、『キミボク』最新話更新されたから一緒に────」

「ノックもせず勝手に入って来ないで。というか、私の部屋に入って来ないで」

「……え」

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