第16話『予想外の出来事 1』

 葛西かさいとおる立花たちばな彩華さやかが、立花の自宅で遊んでいた日の前夜のこと。

 津山つやま三鈴みすずは計画を進行させていた。


「明日、久しぶりに3人でお出掛けしない?」


 三鈴がリビングにて母親、そして妹のさきに提案をした。

 母親が首を縦に振り、賛同すると────。


「お父さんを置いて楽しむ気かあ」

「お父さんは仕事でしょ」

「そうだけど……日曜日、日曜日はお父さんと遊んでくれるよな?」


 泣き真似をしながら近づいてきた父親を無視して、咲に視線を向ける三鈴。

 2人の時は冷たい態度を取られるが、こうして家族と居る時は今までと変わらない妹の姿がそこにある。


「咲ちゃんは土曜日、何か予定ある?」

「ううん、無いよ」

「よかった。あ、でも、咲ちゃん人気者だから───誘われたら、そっち優先して良いからね」

「分かった」


 これで、道は示した。

 友達と遊ぶか、それとも────葛西と遊ぶのか。それは咲次第だけれど、三鈴の中では確信に近い形で後者を選ぶと予想していた。

 1カ月も経てば、色々落ち着いてくる。

 私に向けていた怒りのエネルギーも、自分の恋心に向ける事が出来る。

 三鈴の計画した、葛西徹と津山咲を付き合わせる計画は順調だった。

 順調だと、思っていた。

 土曜日、咲を迎えに来たのは、咲の友人の女の子だった。


             *


「咲ちゃん予定入っちゃったから、また今度にしようか」

「そうね。なんなら、明日でも────」

「明日は本当にお父さんが仲間外れじゃないか!」


 計画が順調に進んでいる土曜日の朝。

 そんな会話をして、お父さんが仕事に向かうのを見送り、少しすると、リビングの扉が開いた。

 

「行ってきます!埋め合わせは絶対にするから!」

「ええ、楽しみにしてるわ」


 私は咲を見送ると、私も出掛けてくる、とお母さんに言い、外に出た。支度は済んでいた。

 咲の姿を探すと、本当に女の子の友達と歩いてどこかへと楽しそうに向かっていた。徹くんの事は誘わなかったのだろうか。

 

「ううん、誘った上で断られた。そう考えた方が良いよね」


 ならどうして?

 咲ちゃんの誘いを断る理由は徹くんには無いはず。


「調べないと」


 計画に支障が出そうなら対処しないと、失敗なんて許されないんだから。

 徹くんの家を見張れる位置に辿り着き、彼が姿を現すのを待つ。

 そもそも咲ちゃんが誘って無ければそれで良し。そうでなければ、予定があると考えるのが普通。

 もうその予定に向けて出掛けている可能性もあるし、家の中で完結する事の可能性だってある。


「10時からの見張りじゃ遅かったかな」


 だけど、咲が本当に友達と出掛けたのかを確認せずには次の行動を決められなかったので仕方ない。

 仕方なく待っても13時、おそらくそれよりも早く切り上げる事を決めて見張りを続ける事にした。

 たまにスマホを弄りながら、徹くんの家を見張っている事30分。徹くんが家を出る姿を目撃した。


「やっぱり他の予定があったんだ、それか、ただの散歩か」


 咲ちゃんたちが歩いて行った方向とは反対の方向へ歩き出した徹くんを尾行する。そして数分後、公園に辿り着く。

 私は待ち合わせである事を確信した。

 確信してすぐ徹くんの待ち人は姿を現した。


「え、立花さん?」


 予想外な相手に、私は酷く混乱した。

 

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