第11話『思いを伝える 2』

 あの日の話を終えると、お姉ちゃんは驚いていて、言葉が出ない状態になっていました。理由は────考えるまでもないでしょう。

 私がお兄さんのことを────徹先輩のことを好きだと知ったから。


「と、言う事で、怒っている理由は分かった?浮気した事────だけど、過程なんてどうでもよくて、私が怒っている根本は、徹先輩を傷つけたからだよ」


 浮気じゃなくてもいい。私の大好きな徹先輩をどんな形であれ傷つけたら、私はお姉ちゃんに今と同じような態度を取っていたと思う。

 もちろんした事の強弱で変化はあれど、それほど差は無かったはずだ。


「……本当、なの?本当に、徹のことを……」

「気安く名前を呼んで欲しくないんだけど、まあ、仮にも元カノだから聞き流してあげる。……そうだよ、私は徹先輩の事が好き」

「どうして、一体いつから……」

「大切な私の思い出────それをお姉ちゃんなんかに話すわけないでしょ!」

「っ!」


 より強く睨みつける事によって、お姉ちゃんが1歩後ろに下がった。そして伝わったはずだ、私の想いの重さを。


「満足したでしょ。出てって」

「……分かった」


 お姉ちゃんが出て行くのを見送り、私はため息を一度吐く。


「どうせ話すなら浮気した理由くらい聞けば良かった」


 そんな事を呟いて、私は就寝準備を再開した。


                   *

 

 三鈴みすずさきの部屋を出ると彼女はそのまま隣の部屋、即ち彼女の部屋へと駆け込んだ。


「はぁ……はぁ……」


 息を切らしているのは自分の部屋に駆け込んだからではなく、咲の態度、発言、視線、その全ての圧によって生まれた緊張感、それに耐えていたから。実際よりも長く感じた時間から解放され、力抜け、扉を背に床に腰を落としてしまっていた。


「分かってたんだけどな……でも、やっぱり辛い」


 大好きな妹から向けられた敵意、それがどうしても心の中で処理できない。しかし、これは自分自身が招いた事────望んでいた事。

 自然と、三鈴の口角が上がる。


「上手くいってるみたいで良かった」


 これで後は時間が経つのを待てば良いだけ。今日言い過ぎなかった分、この1週間と同じように、明日からも咲は周囲に誰も居ない時だけ態度を変える、それで済む。もし、あの場で泣いていたら、被害者面を怒り、それすら出来なくなってしまう程嫌われる可能性があった。

 その事を三鈴は計算に入れ、必死に耐えていた。

 

「もしもし、知恵ちゃん?……うん。大丈夫……私は大丈夫だから。ありがとう……うん、あと、裕也ゆうやくんにも伝えておいて。ありがとうって、あと、ごめんねって」

 

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