第12話『立花と過ごす時間 1』

 三鈴と別れて1カ月が経過した、金曜日。

 すっかりと慣れてしまった1人下校を終え、明日からの休日をどう過ごそうかと思いながら夕飯までの時間を部屋で潰していると、スマホが短く一定の間隔で震え出した。電話を掛けて来た相手を確認する────立花たちばなからだ。

 以前まで席が前後である事と話しやすさからそこそこの頻度で会話をしていたが、あの件以降、正確にはあの件を相談して以降毎日のように会話をしている。

 こうして電話が掛かってくるのも珍しいとは思わなくなった。


「もしもし」

『あ、もしもし。今、時間大丈夫────って、聞くまでも無いか』


 軽く笑いながらそう言う立花に、電話切るぞ、と伝えると待ったを掛けられる。


『ごめんごめん、冗談じゃん!』

「……それで用件は?」

『明日、何か予定ある?』

「無いな」

『じゃあさ、遊ばない────2人で』

「え」

『あ、いや、変な意味じゃ無くてね。勘違いして期待してるところ悪いけどそういう意味じゃ無くて』


 期待はしてないが、一瞬、ほんの一瞬だけ、まさかとは思った。


『あんま仲良くない人が来るって言ったら葛西くん、絶対に断るでしょ?』

「まあ、クラスで集まって遊ぶとかだったら断るな」

『それは来なよ。浮いちゃうよ?』

「立花も行かないから仲間だな」

『決めつけないでよ』

「行くのか?」

『行かない』


 行かないんじゃないか。オレも立花も、大勢で何かをするという事を苦手にしているから、それもプライベートな時間を削ってまで苦しい思いをしたく無い。

 

『で、返事は?』


 立花と2人で、か。女の子と遊ぶ────というよりは、友達と遊ぶという感覚のおかげで、恥ずかしさや抵抗は無い。お互い独り身だしな、気を遣う事も無い。

 何より、友達に遊びに誘われるというあまり経験したことの無い状況に、テンションが上がっている。


「おっけ、遊ぼう。丁度そろそろ誰かと遊びたいって思ってたから」


 それから詳しい予定は聞かされなかったけど、集合時間を午前11時に決め、集合場所は互いの自宅から近い公園に決めた。

 

「良いのか?もし立花の家の方へ目的地があるなら近くまで迎えに行くぞ」

『住所特定されたくないから』

「お前の住所を知ったところで何にもしねぇよ!年賀状送るくらいだ!」

『うわ』

「露骨に嫌そうな声出すなよ、凹むぞ」


 そんなやりとりを終え、通話を終了させる。

 取り敢えず、明日の予定が決まり、待ち遠しくなる。


「あれ、咲ちゃんからだ」


 通話中にメッセージが届いていたみたいで、内容を確認してみる。


『ごめんなさい。明日特に予定が無くて、でも、家に居たくないんです。お姉ちゃんも予定ないみたいで、お母さんと3人で出掛けようかってなってて』


 咲ちゃんはまだ、心の整理がついていないみたいだ。


『なので、明日よろしければ一緒に遊びませんか?』


「立花に相談────するまでも無いか」

 

 立花に相談すれば明日の予定を日曜日にする事も可能かもしれない。だけど、優劣をつけていると捉えられると申し訳ないし────何より、オレ自身が立花と遊ぶ事を楽しみにしている。

 咲ちゃんと遊ぶのは、楽しむより気を遣うのが先行してしまいそうだし。


「明日3人でって言うのも、多分立花の予定崩しちゃうだろうし。ここは、心を鬼にするしかない」


『ごめん、明日予定があるから』


 これは仕方がない事、そう自分に言い聞かせた。

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