第13話『立花と過ごす時間 2』

 翌日、土曜日。午前10時45分。

 集合時間は11時だから、15分前の到着。

 時間帯や季節関係なく、約束をした女の子を1人で待たせてはいけないと心に決めているので、ギリギリの到着はしない。

 集合場所には丁度良いという事で、互いの家から近いこの公園を集合場所に選択した。子どもの頃、親や友達と遊んだ記憶のある公園は、土曜日の昼前にも関わらず子ども1人もおらず、静かで、寂しい場所になっていた。

 なんとなくベンチでは無く、ブランコに乗って立花を待つ。

 

「最近の子どもは家で遊ぶ事の方が多いんだろうな」


 もう少し上の年代が言いそうな、なんならオレも子どもに含まれそうな言葉を呟くと、それが子どもの声にかき消される事が無いので簡単に聞き取れたらしく────


「おじいちゃんみたいな事言わないでよ」


 ────と、いつの間にか背後に居た立花がツッコミを入れて来た。


「おはよう」

「おはよう、早いな」

「私よりも先に来てて言わないでよ」


 言いながら、隣のブランコに腰を下ろす。


「ごめんね、待たせちゃった」

「いや、さっき来たばかりだし、集合時間に遅れたわけじゃないから謝らなくていいぞ」

「それもそっか、じゃあ……ありがとう?」

「それは絶対に違うと思うぞ」


 普通に「おはよう」だけでいい話だ。


「それで、どこに行くんだ?」

「付いて来れば分かるよ。さ、行こ」


 気にはなるが教えてくれそうにないので仕方なく後をついて行くことにした。


「ストーカー?」

「誘ってきたのはお前だろ」

「それは痴漢した人の言い訳上位の台詞だね」

「そういう意味じゃ無いから!」

「……もう、気付いてよ」


 溜息交じりに呟いた言葉が理解できず首を傾げると、立花がオレの隣に並んだ。


「女の子は後ろ歩かれると居心地悪いんだよ」

「そうなのか。それは悪かった」


 さっき立花が言った通りストーカーにつけられてるみたいだから、だろうか。まあ、話をする時もこっちの方が楽だし、周囲から見ても友達が並んで歩くなんて自然な事だ。


「どこに向かってるかはもう聞かないけど、一応言っとくぞ。着いていきなりお金を請求されても無い袖は振れないからな」

「安心してよ、粗相をしなければ無料だから」

「粗相をしたら?」

「臓器を売れる場所探さないとね」


 宝石店が真っ先に頭に思いついて、わざわざオレと見に行く利点が無い事に気付き、すぐに消す。ただ、近い店である事は確かだろう。

 しばらく歩くと、立花が足を止めた。

 

「着いたよ」

「……ここって」

「想像してる通り、私の家だよ」


 なるほど、粗相をしなければ無料、か。

 当てはまるな、立花が目的地を頑なに教えなかったのも理解出来た。驚かせたかったのもあるんだろうけど、気を遣ってくれたのだろう。

 目的地が立花の家なら、オレだけが歩くことになるからと。


「招待されるのはオレなんだし、気を遣わなくて良かったのに」


 と、言っておくと、首を傾げた立花。


「何言ってんの?」


 まるで理解をしていなさそうな表情に困惑していると、腕を引かれ家に招かれる。女の子の家に入るのにはもちろん多少抵抗はあるけど、三鈴の家には何度も訪ねているから耐性はある方だ。だけど、腕を引かれながら入るのには気恥ずかしいものがある為、放すようにお願いした。


「お邪魔します」


 そう言うと、私しか居ないから、と立花に返さた。その言葉に肩の荷が下りて、緊張も解け、安堵の溜息が出る。妙な誤解を与えるて、面倒な事になりそうだったから。

 そのまま階段を上がり、立花の部屋に案内された。

 部屋の中はぬいぐるみや可愛いものがすぐに視界に入った三鈴のものとは違い、物が少なく、あるとすれば本棚。有名どころから聞いたことの無い漫画やラノベが数多く置かれている。


「座ってて。飲み物はコーラでいい?」

「ああ、ありがとう。じゃなくて、手伝おうか?」

「それだけだから大丈夫だよ」


 そう言い1人で部屋を出て行く立花。

 初めて来る女の子の部屋で1人というのは、なんとも、こう、目のやり場に困る。


「本棚見てるのが安全だな」


 変な誤解を与えずに済む最善の選択。

 ただ本棚を見て作品名を確認しながら立花の帰りを待った。


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