第14話『立花と過ごす時間 3』
「あれから1カ月ぐらい経ったよね?」
三鈴の事なら、と前置きをして「そうだな」と答えると、立花は話を続けた。
「どう?心境的には。やっぱりまだ
「そんなの初日と次の日、だから2日で終わったよ」
「へー、葛西くんの性格ならもっと引きずりそうな件なのに」
「ただフラれたってだけならな。でも今回は浮気されてだから諦めがついたって言うかな。後悔する事も無いし、怒る気にもならないから」
「ふぅん、そんなもんか」
「これが夫婦なら話は違ったんだろうけどな」
オレの事を心配して、話を聞いてあげたい。それが立花が今日、部屋にオレを招いた理由なのだとしたら────しっくりこない。だって、これだけの事だったら電話やメッセージで済む話だから。
「相手の目を見て話せば、嘘も強がりも何となく分かるでしょ?」
そんなオレの考えを見抜いてか、立花がそう言うと、だけどそれでも納得はいかなかった。
「それだけなら、あの公園でも済んだことだろ。誰も居なかったし、わざわざ聞き耳立てるやつもいないはずだ」
「2人で居るところを見られたら勘違いされちゃうからね。別れて1カ月の葛西くんにそれは良くないでしょ?」
「それを言うなら家に入ってる方が問題な気がするけどな。別の何か、本題があるんじゃないのか?」
このままだと話が進まなそうなので、こちらから催促する事にした。
「そうだね」
言うと、立花は立ち上がり、入り口とは反対の、窓へと近づき、外の様子を窺った。
「オレは命でも狙われてるのか?」
「え、ああ。違う違う。どちらかと言えば危険なのは私かな」
「は?」
意味が分からずオレが立ち上がろうとするのを制止する立花。そのまま数秒そうして、何事も無かったかの様に先ほどまで座っていた場所に再び腰を下ろした。
「何だったんだよ」
「いやまあ、ほら今親居ないから葛西くんの事部屋に上げてるけど、突然帰って来たりしたらまずいでしょ?車のバックする時の音が聞こえたから確認しただけ」
「それなら危険なのはオレもだろ」
「この時間に帰って来るのは母親だからね。そういうのは寛容で、どっちかっていうと勘違いして質問攻めされるのが面倒で」
「靴、隠した方が良いんじゃないか?」
「ああ、それならさっき隠してきたよ」
疑問が強まったのを、確かに感じた。だって、そんな危険を冒してまで────少なくとも車の音にも敏感に反応するレベルの警戒を強いられてまで、オレを招いた理由。ますます分からなくなった。
「考えすぎだって。さっき言った事、嘘じゃないんだよ。外で遊んでいるより、家で遊んでる方が見つかる可能性は低くなるでしょ?本当にただそれだけ」
そう言って、オレにゲームのコントローラーを渡してくる。
「友達として、遊びたい。ただそれだけだよ」
そう言われては、確実な根拠も無いのにそれを疑うなんてのは失礼な行為だ。
オレはコントローラーを受け取り、受け入れる。
「なんか、立花に『友達』なんて言われると照れるな」
「安心して、今後絶対に言わないから」
「極端すぎるだろ」
本人も言って恥ずかしかったのか、少し頬が赤かった。
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