第30話『関係が変わった日 3』

 中学3年生の、冬休み前の事。

 放課後に、私は指定された3階の空き教室へと足を運んでいた。


『伝えたい事があります。放課後、3階空き教室に来てください』


 この手紙は今朝下駄箱に入っていて、差出人が書かれていない不気味なもの。だから、友達にも話さずに、1人で教室に来た。

 どんな事でも、友達を巻き込まないに越したことは無い。

 入る前に廊下に面した窓から教室を覗いてみる、するとよく知る男子生徒がそこには立っていた。

 取り敢えず不良では無かった事に安堵し、だけど新たな不安要素が訪れ、憂鬱になる。

 だけど、ここでいつまでも待たせる訳にはいかないので、教室の中へと足を踏み入れた。


秋山あきやまくんだったんだね」

「うん、ごめんね、呼び出したりして」


 秋山じゅんくん。私のいる女子グループと仲が良い男子グループの1人で、爽やかイケメンと言ったら良いのだろうか、取り敢えず悪い人ではない。そこまで彼に詳しい訳じゃないけど。


「それで伝えたい事って?手紙やメッセージじゃ駄目な事なんだよね」

「うん、これはちゃんと僕の口から伝えなくちゃいけない事だから」

「大事な話って事、だよね」

「とても、ね」


 流石に異性に呼び出される事が人生で初めての経験である私も、察しがついた。察しがついたから、先程から私の不安は募るばかりだった。

 そして、その言葉が、彼から発せられた。


「ずっと、立花さんの事が好きです。付き合ってください!」

「……」


 そう、だよね。

 この状況は、そうなるよね。


波川なみかわさんの事を気にする気持ちは分かるけど、でも、大丈夫だから」

「……どうして」

 

 どうして、志保しほの事……。


「もしかして、志保から告白を?」

「まさか。あの臆病な人がそんな事出来ないよ。あのね、あんなにも分かりやすく立花さんにフォローされてて、明らかに2人になるように仕組まれてたら僕じゃ無くたって誰だって気付くよ」


 露骨すぎたのは認めざるを得ない。仕方なかったんだ、短期決戦を強いられてたんだから。

 冬休み、いやクリスマス前に告白したいと相談されて、協力をお願いされたんだから、強引だとは思ったけど協力していたんだ。


「勝也もグルだったでしょ?」


 男子グループのリーダー的存在である宮崎みやざきくんを巻き込んだこともバレてしまっているようだ。


「大丈夫だよ。何かあっても、鍛えてるから僕が守れるし……そもそも、関係を周知しなければ何も起こらない。もうすぐ卒業だしね」

「……なんで私なの?」

「さっきも言ったけど、波川さんの為に、友達の為に動いてあげる優しさ、かな。僕の予想だと、告白はクリスマス前にって頼まれたんじゃない?」

「……そうだよ」

「そんな無理難題を引き受けて協力してあげる。その優しさがさ、友達じゃなくて、僕に向けて、僕だけに向けられたら、きっと幸せなんだろうなって」


 秋山くんの話を聞いている限り、私の言動の所為で志保の邪魔をしてしまっているみたいだ……志保には悪い事しちゃったな。

 この事を知られたら怒られちゃうな。

 

「勇気を出して告白してくれて、それは嬉しいよ。でも、ごめんね、私は秋山くんとは────」

「断るなんて選択肢、立花さんに無いよ」


 距離を詰めて近づいて来た秋山くんに、肩を掴まれた。鍛えていると言っていた彼の力は確かに強く、少し痛かった。  


「もし断れば、波川さんに頼むことにすると。『立花さんと付き合う為に協力して』ってね」


 志保の想いを知っててそんな事を頼むなんて……最低だ、どうかしてる。


「そんな事────」

「あー、でもそれだと弱いかな。立花さんの良いところを教えてくれた波川さんには感謝してるしただ傷つけるだけっていうのも……そうだ!」


 良い事が思いついたと楽しそうにする彼に、その笑顔に、恐怖を感じ始めた。


「波川さんと付き合ってあげる」

「……え?」

「それで思い出をたくさん作って、身体の関係も持ったりしてさ……で、こっぴどく振る事にするよ。凄く傷付いちゃうだろうな────立花さんの所為で」


 爽やかイケメンという評価を大きく変える事にする。

 秋山淳はは狂ってる、頭のおかしいやつだ。


 


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