第29話『関係が変わった日 2』
図書委員の当番は2人1ペアで組まれていて、学年もクラスも性別も関係なく、裏でくじ引きでもして決めたのかは知らないけど、教師によってランダムで組まれていた。
同じ相手とペアにならないようにという意思は無く、だからオレと三鈴がペアになった事が何回かあった。全クラスから2人出ているとは言え、昼休みと放課後の当番を別で組むから1日4人、制御が無く完全ランダムにしているならあり得る事だ。
これはその中で、初めて三鈴とペアになった日の事。
他の人と同様に会話は無く、あったとすれば最初の簡単な挨拶だけ。ただ、その挨拶だけで彼女の性格が1つ分かった。
人見知り────その所為で、話す時も、話さず静かな空間に座っているだけでも緊張している彼女を、本を読みながら横目で心配していた。
今は放課後、後30分以上は当番としてここに居ないといけない。彼女にとってそれは地獄でしかないだろう。
「えっと、津山さん?」
「は、はい!なんでしょう、葛西くん」
「うーんと……誰も来ないし、先、帰る?オレ1人でなんとかなりそうだし、先生に言われたら誤魔化すし」
オレか、彼女のどちらかが帰れば済む問題だと判断し、そう提案する。さすがに帰って良いか、なんて聞けないから、彼女を帰す方を提案した。
「い、いえ!そんな、帰る理由がないです!」
「理由か……オレが落ち着かないから、じゃだめ?」
真意を濁して伝える。オレに非がある事にすれば、彼女は罪悪感を感じないだろう。
「お、落ち着かないって……ごめんなさい!そうですよね!」
そうですよね……?
あれ、何か勘違いをされている気がする。
「もう見ないようにしますので!」
「ちょっと待って、見ないようにって?」
「いえ、あの……話し掛けようと、頑張ってはみたのですが……」
見る……話し掛けようと……落ち着かない……ああ、そう言う事か。
「オレに何か用事だった?分からない事とか?」
彼女は人見知りだ、分からない事も、困った事も、中々初対面のオレに相談はし辛いだろう。
それでずっと緊張してたのか。
「いえ、そうではなくて……えっと……」
急かさず、彼女の言葉を待つことにした。
どうせ暇だし、時間もあるし。
「私と……お話────……しませんか?」
予想外なお願いに、だけどその恥ずかしがりながらも勇気を振り絞って頼むその表情や仕草に、少しだけど、心を奪われた、そんな感覚が襲ってきた。
*
「あぁ、それで話す内に連絡先交換して、仲を深めていく間に告白されて付き合ったと。いやあ、甘いね。甘すぎてジュースが甘く感じるよ」
「元から甘いからな」
「それにしても────へえ、初期の津山さんってそんな感じだったんだ」
「変な言い方するなよ、っていうか、今もそんな感じだぞ」
「まぁ、そうだよね。結局仲良くなれたのは葛西くんだけみたいだし」
「そういう立花はどうだったんだよ。お前意外と面倒見が良いから話掛けたんじゃないのか?」
「ああー……確か……」
腕を組み、必死に思い出そうとする立花。
ペアとして組まれたことは無いという可能性はかなり少ないが、1度しかないとなれば記憶が薄れているのは納得できるが……立花も人と話すのを得意としないタイプだから、話していたらそれは記憶に残りやすいと思うんだけど……。
「あ、そうだ。ムカついてたから、睨んだら怯えられたんだ」
「なにしてんの!?」
人見知りの人は陽キャに嫌われやすいっていうのは、よくある事って言ったら可哀想だけど、実際そうなのかもしれないけど、立花は決して陽キャじゃ無いし、意味もなくムカつく、なんてことも無い。ましてや睨むなんて……。
「勘違いしないでね、津山さんの性格じゃなくて、津山さん自身にムカついてただけ。あの場でどんな態度を取られてもきっと、同じように睨んでたと思う」
「……なにかあったのか、三鈴と」
「なんにも、その日が初対面だったし」
立花の話だと、三鈴に対して何かしらの恨みというか、そういう負の感情を抱いているように聞こえる。計画が露呈した今ならその言葉も頷けるが、去年の話なら別だ。思い当たる節は無い。
「まっ、津山さんの話はこの辺で終わりにしよ」
「立花が満足したなら良いけどさ」
「聞きたいことは聞けたからね。だから次は、私との話」
「立花との?」
「そう、私と初めて会った日の話」
「同じ図書委員────まあ、会話はした事無かったけど、同じクラスだったから、会ったっていうなら、入学してすぐか」
だけど、そんな事を話して一体何になるんだろうか。
「違うよ」
「え?」
「私と葛西くんが初めて会ったのは────高校に入学してからじゃない」
そして立花は語り出した。
オレと立花の、本当の、初めて会ったその日の事を。
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