第28話『関係が変わった日 1』
「私、帰りますね。ちょっとだけ、気持ちの整理をしたいので」
「お姉ちゃんの事、本当に、ごめんなさい!」
玄関で靴を履き振り返ると、頭を下げる咲ちゃん。
オレは当然、頭を上げる様に言った。
「悪い事したのは三鈴なんだから、咲ちゃんが謝らなくても良いんだって!」
「……ですが、原因は私なので。それに────こんな事をする人でも、私のお姉ちゃんなので……だから、私が謝るのはおかしなことではないと思いますよ」
どうやら三鈴の事をもう姉とも思わない────そういう事はないらしい。おそらく変わらず冷たい態度を三鈴には見せるだろうが、それ以上にはならないようだ。
真剣な顔が緩み、笑顔を浮かべる咲ちゃん……思ったよりも、精神的には安定しているらしい。
「ねえ、先輩」
「うん?」
「……勝手なお願いだという事は分かってます。傷つける事になるのも分かっているので、断っていただいても構いません」
笑顔だった咲ちゃん、だけどその笑顔は彼女の心からの物ではなく、どこか儚い無いものに見えて────何かを隠しているようにも見えた。
「これからも、仲良くしていただけませんか?」
どんなお願いが来るのかと思えば、拍子抜けしてしまうようなそれに、当然、首を縦に振る。
「三鈴の妹だから、じゃなくただの仲の良い後輩────
オレの言葉を聞くと、咲ちゃんが隠していたものが、隠そうとしていたものが、彼女の目から溢れた。
涙を浮かべる彼女は、だけど隠す必要が無くなったからか、それともオレの言葉を受けてか────とても嬉しそうに見えた。
*
「おかえり。見送るだけにしては時間が掛かったみたいだけど、何かあった?」
「玄関にゴキブリが出たんだよ」
適当な言い訳をすれば、それが話しづらい事だと察してくれて、立花はそれ以上何も聞いてこなかった。
代わりに。
「
三鈴との出会いについて聞いてきた。
以前話した内容だから特段恥ずかしがる事も隠す事も無い為、正直に答えた。
「そうだけど、それがどうかしたのか?」
「単に興味が湧いただけ。出会いは聞いたけど────2人がどうして付き合う事になったのか、そもそも、どうして仲良くなったのかは聞いて無かったから」
「あれ、そうだっけ」
1年の後期、図書委員に所属していたオレは、三鈴ともそうだが、同じクラスのもう1人の図書委員だった立花とも仲良くなった。
だから付き合った事は話したけど、その流れで話したような気はするが……まあ、当人が知らないなら、話してないのだろう。
「えっと、まず、どこから話そうか……じゃあ、前提として。三鈴が友達を作る為に図書委員に入ったってのは知ってるか?」
「え、知らない」
これも話して無かったか。
ああいや、話してたら仲良くなった経緯も知ってるも同然か。
「三鈴って、中学の2年の中頃ぐらいまで友達居なかったみたいでさ、で、そこから知恵と仲良くなって。だから、友達が知恵しかいないんだって」
「まあ、見てたら分かるよ」
「何があっても知恵に頼っちゃう自分が嫌になったみたいでさ、それで図書委員に入ったんだって。ほら、当番って、クラスとか学年とか関係なしに2人1ペアで勝手に組まれるから都合が良かったんだろ」
「過保護な
「まあ、それでも、頼まれてたから話し掛けなかったみたいだけど、図書室には来てたけどな」
「だろうね」
この前提を話し終え、オレはいよいよ、三鈴との出会いについて、語り出した。
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