第28話『関係が変わった日 1』

 彩華さやか三鈴みすず知恵ともえから屋上に呼び出されより2日前の土曜日、即ち4人で話し合いをした土曜日に話を戻す。

 

「私、帰りますね。ちょっとだけ、気持ちの整理をしたいので」


 裕也ゆうやくんとの通話を終えてすぐにさきちゃんが立ち上がったので、オレは玄関まで見送る為に、咲ちゃんと一緒に部屋を出た。


「お姉ちゃんの事、本当に、ごめんなさい!」


 玄関で靴を履き振り返ると、頭を下げる咲ちゃん。

 オレは当然、頭を上げる様に言った。


「悪い事したのは三鈴なんだから、咲ちゃんが謝らなくても良いんだって!」

「……ですが、原因は私なので。それに────こんな事をする人で、私のお姉ちゃんなので……だから、私が謝るのはおかしなことではないと思いますよ」


 どうやら三鈴の事をもう姉とも思わない────そういう事はないらしい。おそらく変わらず冷たい態度を三鈴には見せるだろうが、それ以上にはならないようだ。

 真剣な顔が緩み、笑顔を浮かべる咲ちゃん……思ったよりも、精神的には安定しているらしい。


「ねえ、先輩」

「うん?」

「……勝手なお願いだという事は分かってます。傷つける事になるのも分かっているので、断っていただいても構いません」


 笑顔だった咲ちゃん、だけどその笑顔は彼女の心からの物ではなく、どこか儚い無いものに見えて────何かを隠しているようにも見えた。


「これからも、仲良くしていただけませんか?」


 どんなお願いが来るのかと思えば、拍子抜けしてしまうようなそれに、当然、首を縦に振る。


「三鈴の妹だから、じゃなくただの仲の良い後輩────友達・・として、これからもよろしくね」


 オレの言葉を聞くと、咲ちゃんが隠していたものが、隠そうとしていたものが、彼女の目から溢れた。

 涙を浮かべる彼女は、だけど隠す必要が無くなったからか、それともオレの言葉を受けてか────とても嬉しそうに見えた。


                 *


「おかえり。見送るだけにしては時間が掛かったみたいだけど、何かあった?」

「玄関にゴキブリが出たんだよ」


 適当な言い訳をすれば、それが話しづらい事だと察してくれて、立花はそれ以上何も聞いてこなかった。

 代わりに。


津山つやまさんと知り合ったのって、図書委員がきっかけなんだよね?」


 三鈴との出会いについて聞いてきた。

 以前話した内容だから特段恥ずかしがる事も隠す事も無い為、正直に答えた。


「そうだけど、それがどうかしたのか?」

「単に興味が湧いただけ。出会いは聞いたけど────2人がどうして付き合う事になったのか、そもそも、どうして仲良くなったのかは聞いて無かったから」

「あれ、そうだっけ」


 1年の後期、図書委員に所属していたオレは、三鈴ともそうだが、同じクラスのもう1人の図書委員だった立花とも仲良くなった。

 だから付き合った事は話したけど、その流れで話したような気はするが……まあ、当人が知らないなら、話してないのだろう。


「えっと、まず、どこから話そうか……じゃあ、前提として。三鈴が友達を作る為に図書委員に入ったってのは知ってるか?」

「え、知らない」


 これも話して無かったか。

 ああいや、話してたら仲良くなった経緯も知ってるも同然か。


「三鈴って、中学の2年の中頃ぐらいまで友達居なかったみたいでさ、で、そこから知恵と仲良くなって。だから、友達が知恵しかいないんだって」

「まあ、見てたら分かるよ」

「何があっても知恵に頼っちゃう自分が嫌になったみたいでさ、それで図書委員に入ったんだって。ほら、当番って、クラスとか学年とか関係なしに2人1ペアで勝手に組まれるから都合が良かったんだろ」

「過保護な水谷みずたにさんが介入する隙を消したわけだ」

「まあ、それでも、頼まれてたから話し掛けなかったみたいだけど、図書室には来てたけどな」

「だろうね」

 

 この前提を話し終え、オレはいよいよ、三鈴との出会いについて、語り出した。

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