第31話『関係が変わった日 4』

「さ、このままだと波川さんが傷付くだけだよ。僕だって無駄な時間を過ごしたく無いからさ、大人しく付き合ってよ」


 どうしたら……。

 私は一体どうしたら良いんだろうか。

 ここで秋山くんと付き合っても付き合わなくても、結局は志保を傷つけてしまう結果になる。

 なら、傷が浅く済む……最悪、バレたとしても志保に私が嫌われるだけで済むよう……秋山くんと、付き合えば……それが一番────。


「さ、返事は?早くしないと、もっと酷い事しちゃうかもよ」

「くっ……わ、私……私が────」


『私が、秋山くんと付き合う』


 たったそれだけの事を言うだけなのに、友達を救えるのに……不思議なくらい私の口からその言葉は出てくれず────そんな時に教室の扉が開き、知らない男子生徒が入って来た。


「なにしてんの?」


 彼が入って来た事により、私の肩を掴んでいた手が離れた。


「ごめんごめん、揉め事に見えたよね。大丈夫。ちょっとふざけてただけだから」

「そんなようには見えなかったけどな」

「……その言い方だと、全部聞いてたね」

「まあな」

「そうかそうか……じゃあ、口止めしないとね!」


 秋山くんと似たような体格で、特に身体を鍛えている様子も無い彼を、余裕な相手と判断し、秋山くんが殴りかかった。

 私は反射的に飛び出そうとしたけど間に合わず、だけど、そんな秋山くんの拳を、彼は簡単に止めてしまった。


「あーあ、手加減したら簡単に止められちゃったよ。ダサいなあ僕。……次は本気で────……えっ」

「ちょっ」


 私と秋山くんが間抜けな声を上げてしまう。

 だって私の事も、秋山くんの事も知らないであろう彼が、近くの椅子を掴み、振り上げたから。


「あはは……そ、そんな脅しじゃ……僕は────」

「よいしょ」


 秋山くんの言葉を遮り、気の抜けるような掛け声とともに椅子を振り下ろした。

 しかし、甲高い音が教室中に響く。


「動くなよ、当たんないから」


 どうやら秋山くんがしゃがんだ事によって、椅子は机に当たったようだ。


「お、お前……僕が避けなかったら……!」

「当たってたな。というか当てに行ってるんだから、そりゃそうだろ」

「……」


 いや、椅子を振り下ろした位置……絶妙にだけど、秋山くんに当たらない位置に振り下ろされている。それでも危険な事に代わり無かったけど。


「オレはお前にだったら躊躇いなく椅子を降ろせるし、なんならそれ以外の物もいけると判断した。あっ、言い忘れてたけど、格闘技を習ってるから、オレもそれなりに身体は鍛えてるからな。椅子を使うなって言われれば、そうするけど────どうする?」


 逃げる事を合図すると、秋山くんは唯一の自分の強みを上回られ、そして恐怖心を与えられた所為で顔を青ざめ、大人しく教室を逃げ出て行った。


「彩華!」

 

 秋山くんと入れ替わりで、違う扉から志保が入って来た。その後ろには同じグループのめぐみの姿もあった。


「……どうして」

葛西かさいくんがね、教えてくれたの」

「葛西、くん」


 私を助けてくれた彼の名前は葛西というらしい。

 

「下駄箱に手紙が入ってたんでしょ?」

「……見たの?」


 葛西くんに聞いてみると、何故か答えてくれず、それどころか、教室を出ようとしていた。


「ちょっ、ちょっと!」


 呼び止めようとすると恵が私の事を止めた。


「なんで!」

「いや、まあ、御礼を言うのは正しいんだけどね。ただ、葛西くんにも、プライドはあるだろうからさ」

「プライド?」

「ヒーローみたいに出て来たんだから、今日のところはかっこよく去らせてあげなよ」


 言葉の意味が分からず、ただ当の本人は行ってしまったので、仕方なく、志保に話の続きを聞いた。


「葛西くんがね、昼休み私たちに聞いて来たんだ。『2人の友達の下駄箱に手紙が入ってた事。本人から聞いた?』って。誰か分からなかったし、そんな事いきなり言われても意味分からなかったからね、無視したんだけど」

「放課後、部活も無いのに、どこか行く彩華を見て、まさかって思って後をつけたの。そしたら葛西くんと会って」

「そう、なんだ」


 じゃあ、2人は葛西くんがどうして私の事を心配してくれたのか、それを知らないって事か。

 

「……明日、絶対にお礼言わなきゃ!」

「明日、終業式だから難しいだろうけどね」

「そうじゃん!」


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