最終話『ハッピーエンド』
あれから数日経ち、明日に遊園地デートを控えた金曜日の昼休み。
「屋上って、本当に人来ないよね。アニメとか漫画でも主人公たちだけが使ってるイメージだし」
「冬だと寒いし、夏だと暑いからな。春には新入生で賑わうけど、時が立てば結局は教室が楽だよなって事で行かなくなるから」
「秋は?過ごしやすそうだけど」
「そうだな。今の季節は過ごしやすいよ。オレも去年はよく昼寝しに来てたし」
「ああ、それで教室に居なかったのか」
意味を見出そうとすれば簡単に、去年からオレの事を気に掛けてくれていたと捉えられて、嬉しくなる。
「陽が落ちてる時はちょっと冷えるけど、昼はまだ暖かいからな」
食欲が満たされ、午前の授業の疲れが出てくる。
そこに心地の良い気温が合わされば、自然と欠伸が出て、眠気が襲ってくるもの。
「時間もあるし、少し寝ようかな」
「それなら、膝枕してあげようか?」
「涙が出るくらいに嬉しいけど────良いのか?」
「良いよ。タイツ履いてるし」
「タイツ履いて無かったら嫌みたいに言うなよ、嫌だろうけどさ……ってそうじゃ無くてさ。足疲れるだろうし」
「何時間も寝られたらね。でも、少しくらいなら幸せしか生まれないから大丈夫」
そう言って、少し強引に太ももの上にオレの頭を乗せる。
「……天国って、あったんだな」
「大袈裟だよ」
「そんな事も無いさ」
彩華の負担が減るように仰向けに寝転がっていると、オレの目を彩華の手が覆ってくれた。
「眩しいでしょ?」
「屋上だからな」
「うつ伏せに寝れば良いのに」
「寝れなくなるわ」
彩華の柔らかい太ももと手のひらに挟まれるように寝るこの状況がとても幸せで、午後の授業を犠牲にしてでも味わっていたいと思わされる。
「────ッ」
天国に身を任せ、睡魔に身を任せようとしていたオレの意識は、唇に触れた柔らかな感触に集中させられた。
「ちょっ、い、今!」
起き上がろうとするが顔を押さえつけられていて上手く起き上がれず、彩華の太ももの上でじたばたしているだけの図になってしまっている。
「な、なんで!」
「……さ、さぁね」
彩華らしくないその態度に、今、彼女がどんな表情をしているのか、その表情を隠そうとしている事まで分かった……だけど、それでも敢えてオレは言った。
「もう一回、いいか?」
「……うん」
今度は目隠しなんてせず、彩華の隣に座り直し、向き合ってキスをした。
「私は、徹の事を手放したりしないから、覚悟しておいてね」
「そっちこそ」
互いに、同時に笑いだした。
楽しくて、幸せな────だから、自然と出た笑い。
ずっとこうでありたい、こうであり続けると、一度は破られてしまったが、再び誓う。もう、手放さないと。
失った幸せは姿を変えたけど、失った未来も姿を変えたけど、だけど再びオレの下へとやって来てくれたのだ。
「好きだよ」
これから描かれるのはオレと彩華の物語で、きっと────いや必ず、この物語はハッピーエンドで終わるだろう。
少なくとも、明日のデートが楽しみだと感じている間は、その未来は変わる事は無いだろう。
────────────
あとがき
いつも『彼女に浮気されて別れたので、新しい恋を始めます』をご愛読いただき、ありがとうございます!
紅葉です!
この物語は、ここで完結を迎え、その為、こうしてあとがきにて皆様にご挨拶と感謝をさせていただきたいと思い、執筆しております。
この最終話『ハッピーエンド』というタイトルから、ならバットエンドが、と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、この物語は、これで完結になりますので、『if』も『after』も無い予定ですので、ご安心を……『after』はあるかも。
初めての作品で、ここまでの方に読んでいただけて、応援して頂けるとは思っておらず、毎日通知を見るのが楽しみになっていました。
次回作を投稿するかは、まだ定かではありませんが、もし、新作を投稿した際には、また足を運んでいただけると嬉しいです。
では、あまり長くなっても良くないので、これで。
本当に、ありがとうございました!
彼女に浮気されて別れたので、新しい恋を始めます 紅葉 @Nymph202
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