第34話『本当のゴール』

 とおる先輩から全てが終わった事を教えてもらった。つまりは、私がお姉ちゃんに対して怒っている理由をお姉ちゃんが知った事になる。

 知恵ともえさんも、裕也ゆうやを巻き込んが事、後悔しているだろうか。

 

「どうしよう……」


 これは、誰にも言っていない事。

 立花たちばな先輩にも、裕也にも言ってない────私と、徹先輩だけが知っている、先輩からの頼み事。

 

「優しいな、本当に」


 あの時もそうだった。

 友達と喧嘩して階段で泣いていた私に、見ず知らずの私に、ずっと傍に居て話をしてくれた時も。先輩は優しくて、嫌そうな顔なんてしてなくて、その後に友達と仲直りして話している私を見て、安心したように笑ってくれた。そんな先輩が好きになって……好きになり続けて……。


「お姉ちゃんと付き合ってもこの想いを捨てられなかった、諦められなかった……別れて欲しいな、なんて思っちゃった。だから、私の所為なんだ」


 この件、誰がどう見ても悪いのはお姉ちゃんだ。だけど、原因は私にある。

 私がこの想いを悟られなければ、こんな事にはならなかったんだから。


「立花先輩は強いな」


 そのタイミングで部屋の扉がノックされた。


「咲ちゃん、今、いい?」

「……うん」


 お姉ちゃんは私の事を想って、こんな計画を実行した。

 その気持ちが嬉しいかどうかを問われれば、私は嬉しいと答えるだろう。だけど、それがお姉ちゃん自身と徹先輩の気持ちを無視しての行動なら話は別。

 嬉しいなんて、思わない。


「勝手な事して……咲ちゃんを傷つけて……本当にごめんなさい!」


 頭を下げるお姉ちゃん。

 私の胸がチクリと痛む。

 そっか、だから徹先輩は……。


「……いいよ」

「え?」

「聞こえなかったの?許してあげるって言ったの……だから、もうそんな顔しないでよ。お姉ちゃんがそんな顔するの……私は見たく無いよ」 

「咲……ちゃん!」


 お姉ちゃんが私に駆け寄り抱き締め泣き始めた。


「その代わり、もう徹先輩に迷惑を掛けちゃ駄目だよ」

「うん、もう関わるなって、本人に言われちゃったから」

「そっか」


 私もお姉ちゃんを抱きしめると、一筋の涙が頬を伝った。


 そうだよね、そうなるよね。

 徹先輩、意地悪だなあ……。


             *


『先輩との約束、果たしましたから』


 そうメッセージが届いたのは、立花の家から帰宅し、部屋に入ってすぐの事。

 

「これで、大丈夫だろう」


 咲ちゃんとの『三鈴の事を許して欲しい』というオレからの頼み、そしてその代わりに、咲ちゃんを許すというもの。

 まあ、そもそもオレは咲ちゃんに非があるなんて思っていなかったが、これなら立ち直れると思い、提案した。


「咲ちゃんが津山の事を監視してくれれば、こっちも安心できるし、関わるなと伝えたことは知るだろうから迂闊に咲ちゃんがオレに接触してくる事もなくなるはずだ」


 彩華さやかも、これで安心できるだろう。

 自分の恋人に好意を抱く人物がその恋人に接触するのは不安でしかないだろう。オレだって、彩華にそんな男子が接触してきたら不安になる。

 当然だけど、裕也くんにも同じ頼みごとをして、了承をもらっている。

 おそらくもうすぐ、咲ちゃんと同じようなメッセージが届くだろう。

 それがこの一連の出来事の、本当のゴールだ。

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