第24話『妄想劇は幕を閉じた』
「この手紙どういう事かな?」
その問いを口にしたのは私では無く津山三鈴さんの友達である水谷知恵さん。津山さんは水谷さんの後ろに隠れるように────いや水谷さんが津山さんを庇っているだけかもしれないけど、とにかく水谷さんの後ろに立っているだけだった。
「残念ながら津山さんの連絡先を私は知らないから、だから手紙を入れさせてもらっただけ。それとも教室に出向いて話した方が良かった?」
「なんで手紙を寄越したなんて聞いてない!問題は内容!その自覚があったから教室で話すことを避けてくれたんでしょ」
「そうだね。こんな事を話せばどうなるか……。でも訂正しておくよ。私なんかが教室でそんな話をしても誰も信じなかった。津山さんと水谷さんの方が周囲から信頼されているし友達も多いだろうからね」
敵、とは言わないが私の周りにいざという時に味方になってくれる人は少ない。だから敵を作るリスクを冒してまで行動しなかっただけ。
「それで、どういう事なの?三鈴が、咲ちゃんの為に浮気している振りをしたっていうのは」
私は土曜日の事を思い返す。
学校の授業は休みだけど部活動はあるので当然校舎の鍵は開いていて容易に下駄箱に手紙を入れられた。その内容は先程水谷さんが口にした通りのもの。
「津山さんを観察していてなんとなくそう思っただけ。証拠なんて求められても提示出来ない」
「ふざけないで!三鈴傷付いたんだよ!」
「どうして?」
「どうしてって、こんな根も葉もない嘘を疑われて、立花さん、徹と仲良いじゃない!だから徹にも変な事吹き込んだんじゃないかって心配して!」
「嘘、ね」
「な、なによ」
怒鳴られても表情1つ変えずにいる私をどう思ったのか、水谷さんが怯んだ。正直、彼女に用事は無いのだけれど、この場を去ってくれる雰囲気は無かったので話を続けることにする。
「ねえ津山さん、教えてよ。どうして
少し、津山さんが驚いた。私が『葛西くん』では無く『徹』と呼んだからに違いないだろう。それに、2人は元々疑っていたから。いや、怯えていた、が正しいか。
「なんでそんな事あんたに言わないといけないのよ!」
「私は津山さんに聞いてるんだけどね。津山さんが言いたくないなら無理に聞かないけど……言えないって事は私の推測は正しかったって事に勝手に判断するから」
「そんな勝手許すわけ無いでしょ!」
確かに大分勝手だ。
自分の推測が否定されているにも関わらず、証拠も出せないにも関わらず、真相が語られないから自分の推測が正しい。怒られても仕方がない。
「許すも許さないも私の中で止めて置けばそれは私の自由。安心してよ、さっきも言ったけど言い降らす気は無いから。ただ────」
私は津山さんの目を見て、変わらない口調と態度で続けた。
「────その計画、失敗したから」
その事実を告げると、明らかに動揺する2人。
私は用が済んだとこの場を去ろうとすると水谷さんに呼び止められた。
「なに?」
「なに、じゃないでしょ!変な事言って勝手に帰ろうとしないで!」
「用事、済んだでしょ。それともその手紙の内容以外に私に話があるの?言っとくけど、聞かれてももう何も答えないよ。私が聞いても教えてくれないんだから、一方的にってのはズルいでしょ」
「……っ」
「良いよ、知恵ちゃん。もう無理だよ」
まだ何か言おうとする水谷さんを下がらせ、前に出て来た津山さん。
なら、と私は再び2人に身体を向けた。
「多分もう徹くんも知ってるんだよね。それとも気付いたのは徹くん?……まあ、どっちでも良い事か」
「そうね」
「それで?気付いたのはどうして?」
私は大人しく話した。
津山咲の徹に対する好意を知った事、津山さんと水谷さんの言動に対して違和感を感じた事、津山さんが私と徹を尾行していた事、そして────。
「浮気相手が水谷さんの弟って分かったから」
「……そっか」
「言ったでしょ、証拠も確証も無いって。土曜日、水谷さんが徹に接触して妹さんの事を頼んだみたいだけど、意識させる目的があったんだろうけど、そんな証拠は無いからね」
「だからその計画があると仮定した上で失敗させたって事?」
「人聞きの悪い事言わないでくれる?そんなの関係なく、私は私の望む道を選んだだけ」
「好きだったんだね、徹くんの事」
「ええ、そりゃもう。妹の為になんてくだらない理由で簡単に手放す津山さんよりもね」
くだらない……本当にくだらない理由だ。
大切な妹の為に喜ぶことをしてあげる、それ自体は正しい、美しい姉妹愛だ。だけど、今回、妹どころか誰も幸せにならない結果になる事は容易に想像出来たこの計画は、だから正しいとは思えない。
「妹さんの事も、徹の事も、そしてあなた自身の気持ちも無視して挑んだ今回の計画。どう?流石に後悔してるんじゃない?」
「……」
「とんだ妄想劇だよね。酷い事をして別れれば、徹も妹さんもあなたの事を嫌い、気を遣わなくなる。更に妹さんは徹を慰める立場になって2人の距離は縮まり恋愛成就、みたいな?」
「……」
「妹さん可愛いからね、徹が惚れる事は疑わなかったわけだ。妹バカって言うのかな、これ」
「……」
「さて、こんなどうしようもない計画を一緒に立てたであろう水谷さん?」
「な、なによ」
「失敗する事が分かってて止めなかったのは感心しないなあ。でも、自分の欲望に素直なのは嫌いじゃないけどね」
「────っ!違うッ!そんな訳無いでしょ!」
明らかに焦り始める水谷さんを見て、私は私と徹、そしてもう1人の推測が正しかったと安堵した。
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