第25話『幕引きの準備』
時を遡って2日前の土曜日の事。
葛西くん宅で、私と、葛西くんと、そして私がお願いしてこの場に呼んでもらった
「私を呼んだ理由、教えていただけますよね?」
挨拶を軽く終わらせ本題に切り込んでくる咲さんに私は頷いて返す。
「咲さんのお姉さん、つまり津山三鈴さんの事で話したい事があったから呼んだの」
「それは察してます。ですが、私とお姉ちゃんの中学の卒業アルバムを持ってきて欲しい────これはどういう事なんですか?」
その卒業アルバムがテーブルに置かれると、葛西くんも同意するように頷き、私を見た。
「その理由は……分かってるんでしょ?咲さんは決心がつかなかっただけで、同じことを葛西くんに確認しようとしてたんだから」
「……立花先輩にはもう、何もかも見えてるんですね」
「ええ、確証は無いけど」
私と咲さんは互いに警戒心を抱いてはおらず、だから険悪な雰囲気ではない。
だけど、それを誤解してか、それとも話についていけないからか、葛西くんは居心地が悪そうだった。
「確認すれば分かる事だから、そんな寂しそうな顔しないで」
「確認って、2人の卒業アルバム見ても何も────……まさか」
「さすがに察しがついた?」
「三鈴の浮気相手が居るのか?ここに」
「さあ、それを知ってるのは葛西くんだけだから。だから確認してほしいの」
確認事項は分かったみたいだけど、でも、分からない事もある、そんな様子が見て取れる。当然だ、どうしてそんな事を確認させるのか、それが分からないのは当然の事なのだ。
「三鈴のアルバムには居ないな」
確率が高そうな津山さんのアルバムを見終え、次に咲さんのアルバムを開き、写真の顔を確認していく葛西くん。
「あ」
動きが止まったのは、ある男子生徒の顔と名前を見たから。
「水谷……
「やっぱり」
私もだけど、咲さんも予想が当たっていたみたいで、だから、他の推測も正解だった事が証明され始める。
「今回の件、水谷知恵は津山さんの協力者だった────これで確信できた」
「はい、私も同じ意見です」
「ちょ、ちょっと待て、協力者?一体なんの……」
「あなたと津山さんを別れさせる為の計画、それ以外に考えられないでしょ」
「……どういう、事だ」
何故分からないの、とは思わない。普通、こんな事をされた当事者、被害者は理解しようとしても脳が精神を守る為に理解させない為に働くことを止める。目の前で大切な人が殺されてもすぐ受け入れられない、よくアニメやドラマでも見る光景だ。
だから私は優しく、私が感じた違和感とか、津山さんの計画だとかを、推測だけど教えてあげる。
「私も同じ考えです。だからお姉ちゃんの事が許せなくて……」
「そうだと思う。私が咲ちゃんの立場でも許すことなんて出来ないから。それで、葛西くんは今の話を聞いてどう思った?」
私の話を信じるか信じないか、信じた上で津山さんを許すか許さないか、それ次第でこれからの展開が変化する。
「……もし、浮気相手が知恵の弟じゃ無かったら疑ってただろうな」
親友の弟と浮気をする、それはとてもリスクが大きくてバレる可能性がある。それこそ、葛西くんと付き合いながらというのは避けた方が良いに決まっている。
「少し待っていてください」
そう言って咲さんはスマホを操作し始めた。何となく予想は出来たし、元々頼もうと思っていた事だけど、咲さんは自分で理解してくれたらしい。
「もしもし────……うん、ビデオ通話にするね」
そして画面に映し出されたのは先程卒業アルバムで見た人物────水谷裕也だった。
『なるほど、もう全部バレたって事か』
葛西くんを見て状況を理解したらしい。
「うん、後は証言って言うか、確証が欲しいだけ。安心して、裕也から聞いたって2人は言わないから」
『まあ俺も隠し通せるとは思って無かったし、良い事だとは思って無かったから話すのは全然良いんだけど……その前に』
すると彼は頭を下げた。画面には彼の頭頂部が映し出された。
『葛西先輩、騙すような事をしてすみませんでした。俺は三鈴さんとは付き合ってないし、浮気相手でも無いです』
罪悪感を感じていた、それは本当の事らしい。葛西くんが「気にしないでくれ」そう言うまで頭を下げ続けた彼は、次に顔を上げた時、どこか表情が先ほどより緩く見えた。
そしてその後、私と咲さんの予想通りの計画内容を聞かされ、水谷さんが止めずに協力した理由も見当がついたのだった。
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