第26話『幕引き 1』

「失敗する事が分かってて止めなかったのは感心しないなあ。でも、自分の欲望に素直なのは嫌いじゃないけどね」

「────っ!違うッ!そんな訳無いでしょ!」


 明らかな動揺を見せる水谷さんと、その姿を見て困惑する津山さん。

 確定だ────水谷さんはこの計画が、安直な妄想の下立てられた、失敗する可能性の方が遥かに大きい、そしてバレる可能性も大きい、拙いものである事を分かっていて、なのに決行した。

 失敗したとき、取り返しの付かない事になる事も分かっていて。

 その理由は────。


「津山さんを取り戻したかった、違う?」

「────ッ!」


 驚いて言葉も出ない様子。

 それは津山さんも同じで、ただ水谷さんの事を心配そうに見る事しか出来ないでいた。


「ずっと隣に居た、自分にだけ時間を割いてくれた親友。家族には負けるかもしれないけど、でも同じくらいに大切な存在。そんな彼女が、自分の隣にだけ居る存在じゃ無くなって、それどころか自分とよりも心の距離が近いように見える2人の関係性」

「……」

「それに嫉妬して、それがいつからか徹に対する恨みになった。そういえば、2人が別れた直後殴りかかったってね。その恨みをぶつける為、演技なんかじゃなくて本気で殴りに掛かったって事か。まあ、それは未遂で終わったから良いとして……どう?否定してみる?」

「……そ、そんなの、あんたの、それこそあんたの妄想劇よ」

「そうね。水谷さんの心情なんて分かる訳無いし……でも、あなたの弟さんが言ってたわ。津山さんが徹と付き合って、その日は凄く落ち込んでいて、泣いてたって」

「────ッ!どういうこと……どうして裕也の事!?」

「どうしてって、津山さんなら分かるんじゃない?」


 水谷さんが津山さんに視線を向ける。津山さんは俯き、そして、口を開いた。


「……咲ちゃん、だよね」


 それは先程から津山さんがわざと避けて来た、咲さんがこの計画に気付いているんじゃないかという、その可能性。 

 だけどもう、私の話から、それは確実なものへと変わったらしい。


「ええ」

「……はぁ、そりゃ、徹くんと距離置くよね」


 自分と関わると姉の事を思い出す、そんな思いが咲さんには会っただろうけど、それだけじゃない。恋人が居なくなった想い人に近づけば、好機と考えるのは当然の事。しかも、自分の想いは伝えてあるから、その難易度は他の女子に比べれば低くなる。

 だから、咲さんは徹と距離を置いた。

 自分のその想いの所為で彼を傷つけ、幸せを奪ったと、そう考えていたから。

 なのに、自分が幸せになって良いなんて、許せなかったから。


「三鈴……わたし……」

「謝らないで知恵ちゃん、後悔も、罪悪感も感じなくて良いから。何があっても、私は知恵ちゃんの親友だから」


 津山さんは泣いている水谷さんを抱きしめ、言葉を続けた。


「それに謝るのは私。ごめんね、こんな事に付き合わせて、こんな思いをさせて……嘘を吐かせて」

「いいの……私は……三鈴の力になれたら……それでいいの!」

「……ありがとう」


 私はその光景を見て、思ったことを口にした。


「うわー……」


 冷たい視線を向けて、そう言ってやった。

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