第18話『立花と過ごす昼休み』

 午前の授業が終わり昼休みを迎え、教室内の大半の生徒がそうであるようにオレも食堂へと向かう為に椅子から腰を上げた。

 そんなオレを前の席に座る立花が呼び止めた。


「おすわり」

「オレは犬じゃねえぞ。っていうか用があるなら早くしてくれよ。席が無くなる」

「心配しなくても特等席があるじゃない。だから、おすわり」

「その言い方じゃなきゃもっと気楽に座れるんだけどな」


 屈辱を味わいながらも話が進展し無さそうなので指示に従い椅子に座り直す。すると今度は立花が席を立ち自分の机を動かして向き合う形に。何をするのかと見ていると鞄から2つ弁当が入っていると思われる小さな保冷バッグを机の上に置いた。

 鈍感な振りをして立花の目的が分からない振りをしようと思えば出来るが、ここは立花の言葉を待つことにした。


「はい、土曜日のお礼」


 意地の悪い問答が始まるのかと思ったが案外すんなりと1つをオレの机の上に置いた。


「お礼?」

「そ、遊んでくれたお礼。久しぶりに友達と遊んで楽しかったし」


 そのお礼────か。いや、だからって素直に受け取れない。

 だって、楽しかったのはオレも同じだし、だったらその遊ぶ場所を提供してくれて、昼食も凝ったものでは無いが用意してくれて、ジュースや、ゲーム……お礼をしないといけないのは確実にこちら側だ。

 

「本当は放課後に渡そうと思ったんだがな」


 オレは鞄から袋を取り出す。当然自腹を切って、アルバイトが禁止されている高校生の身分だから安いものしか買えなかったが、缶に入った、値段の割には高く見えそうなクッキーを買っておいた。もちろん土曜日のお礼に。


「気にしなくて良かったのに」

「それはこっちの台詞だ。あの時、オレは招かれてる側だったんだから、お礼をするならオレの方からだろ」


 分かってる。気を遣って欲しくないから、だから当日まで隠していたことを。もし、立花の家で遊ぶ事が事前に分かっていれば、オレは何かしら、それこそこのクッキーを購入し持って行っていただろうから。


「弁当の代わりにこのお菓子を────じゃなくてさ。この弁当はじゃあ、前払いとしていただくよ」

「前払い?」

「立花が嫌じゃ無ければ、だけど。今度は、オレが立花をもてなすよ」


 特に深い意味はない。異性を家に招待する────ではなく、友達を家に招待する、だから。周囲がどうみようと、それが真実だ。


「だけど、このお菓子と立花の弁当は、やっぱ比べちゃいけないけど、立花の弁当の方が上だからさ。その分、何かでお返しするよ」

「……ふふっ、その分、私を手厚くもてなしてくれたらそれで良いよ」


 という事で話がまとまり、立花が作った弁当を頂くことになった。作った、と言っても立花曰く夕飯の残り物(立花の母親が作った)を詰めただけらしく、実際に今朝、立花自身が作ったのは1品だけとの事。

 それは教えてくれないらしい……けど、すぐに分かった。

 オレの感覚が世間一般とはズレていたら申し訳ないが、夕飯に卵焼きが出るイメージが湧かないから。少なくともオレの食卓には出たことが無い。

 それを抜きしにても見栄えで卵焼きが立花の手で作られたと容易に想像が出来た。

 そういえば、土曜日頂いた昼食も、焼きそば────カップ焼きそばを作って皿に盛っただけだと言っていたのを思い出した。

 だけど、見栄えは悪くても、この弁当の中でその卵焼きは一番────


「美味しいよ」


 立花は照れくさそうに「でしょ」と笑顔を返してきた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る