第2話



 鳴木高校は校門から入ったところに円形ステージというスペースがある。イベント会場のようにそのステージを囲むように階段がある。文化祭ではそのスペースを利用した催しも開催されたりするのだが、この日はそこにでかでかとクラス発表の紙が貼り出されていた。


 一年生は体育館前、三年生はグラウンドの方に貼り出されているのでこの円形ステージの前に群がっているのは全て二年生ということになる。知り合いがいるかもしれないと思い辺りを見渡してみたが見当たらなかった。


 ならばさっさとクラスを確認してしまおうと顔を上げる。


 隣をちらと見てみると、楓花が分かりやすく緊張で顔を強張らせていた。


 一組から順に見ていく。

 あ、あいつは一組かぁ、と一年のときに同じクラスだった友達の名前を見つけてそんなことを思いながら自分の名前を探す。


 俺の名字は『間宮』なのでどちらかというと後ろの方なのだ。そこをさっと見てしまえばそれまでなのだが、どうせならこの発表を楽しみたい。あいつはこのクラスかぁ、というこの瞬間にしか味わえない感覚を噛み締めたいのだ。


 そうやって自分の名前を見つけて、あわよくばテンションを上げたい。


 そう思っていたのだが。


「謙也くん! 同じクラスだよ! ほら三組、見て!」


 一瞬で終わってしまった。

 おいお前まじなにしてくれてんだ、と思いながら楓花の方を睨んでみたが、あまりにも眩しい笑顔でこちらを見ているものだからそんな感情も吹っ飛んでしまう。なにこの子可愛いなあ。


「どれどれ」


 仕方なく、言われた三組のところを見ると確かに俺の名前がある。同じクラスと言っているので楓花も三組なのだろう。そうなると、仲良いメンバーはどうなのかとドキドキしながら改めて最初から見ていく。


「空野くんも一緒だしあさむーも一緒! 奈緒ちゃんもしおちゃんも一緒だよ! え、うそ、こんなことある?」


 俺の楽しみ全部奪うやん。

 みんなと同じクラスになれた喜びはもちろんあるけど全部ネタバレされたショックの方が大きくて素直に喜べなかった。



     *



 二年三組の教室に入ると中はすでに中々に盛り上がっていた。

 見渡してみるともうグループで集まっている生徒がほとんどだ。一年のときに同じクラスだったり、部活の仲間だったり、あるいははじめましてのぎこちない会話をする生徒もいる。そんな中を挨拶しながら通り抜けて、俺と楓花はあるグループのところへ向かった。


「おはよー、みんな」


 先に挨拶したのは楓花だ。

 野に咲く花のように明るい笑顔の楓花に続いたのは爽やかな笑顔を浮かべる男子生徒。その名は空野瞬。


「おはよう楓花。それに謙也も」


 一言で言い表すならばイケメン。

 全女子の憧れと言っても過言ではないほどの人気を博しており、瞬に告白し玉砕した女子は数しれず。いつしか告白する女子はいなくなり『みんなの瞬くん』という風潮が流れ始めた。


 茶髪の髪をワックスでセットした高身長の彼は野球部のエースピッチャーだ。その上勉強もでき、気さくで優しい弱点ナシ男。そりゃモテるよ。神様は平等という言葉をもう少し理解してほしいものだ。


「おっす。今日も相変わらずイケメンだな」


「よせよ。よくもまあ毎朝飽きもせずにそんなこと言えるな」


「本心だからな」


「だったらその鋭い目つきはなんとかしてくれ」


 おっと、無意識に睨んでいたようだ。殺気は上手く消しておかないと一人前の殺し屋とは呼べない。殺し屋じゃないからどうでもいいんだけどね。


 自分の将来の可能性を一つ消しながら、俺はちらと視線を移す。


「鉄平と奈緒が俺よりも早く教室にいるのはなんか違和感あるな」


「始業式だしな」


「さすがに朝練はさせてもらえなかったよ」


 にかっと笑う浅村鉄平とあははと笑う碧井奈緒。

 二人はバスケ部に所属する運動大好きっ子。

 チクチクの短髪に筋肉質な体。高身長イケメンとされている瞬よりも身長は高い。顔だって悪くない。今のところモテる要素しかない鉄平にどうして彼女がいないのかというと、彼がバカでアホで変態だからだろう。


「だから今日は久しぶりにゆっくり寝たわ」


「あたしは危うく寝坊しかけたけどね」


 金髪のミドルヘアーをサイドテールに縛る碧井奈緒。運動をするときにはポニーテールに切り替わるんだとか。身長は低く、胸も小さい。楓花と違って貧乳を気にしていないのは評価が高い。大雑把な性格ということもありシャツのボタンは無防備に開けられており、白い肌がちらりと見える。


「その割には早かったような?」


 鉄平が眉をしかめる。


「全力ダッシュしたからね」


 びしっと親指を立てた右手をこちらに突き出してくる奈緒。


 どんだけ速いんだよ全力ダッシュ。


 盛り上がる鉄平と奈緒を眺めている静かな生徒は篠宮栞だ。


「しおちゃん、おはよ」


「おはよう、楓花」


 挨拶をしてきた楓花に淡々とした声色で栞は返す。


「謙也も。今日も無事、あなたの冴えない間抜け顔が見れて安心したわ」


 銀髪の髪をローポジションのツインテールにしている栞は奈緒よりも少しだけ身長が高い。そのくせ胸がそれなりにあるので楓花からは恨めしい視線を向けられることもあるんだとか。人形のような可愛い見た目とは裏腹に言葉がキツイのがたまに傷だ。


 以前、俺が『もうちょっと優しい言葉を選んだ方がいいのでは?』と言ったことがあるのだが、すると栞は『でもちゃんと愛を感じてるでしょ?』とぴくりとも表情を変えずに言ってきた。


 栞なりの愛情表現らしい。


「それが本音でないことを祈るよ」


「安心なさい。本音よ」


「心にもないこと言うんじゃありません」


「それは謙也くんもだと思います!」


 隣の楓花がビシッとこちらを指差してきた。


「まあまあ。せっかくみんな同じクラスになれたんだ。初日くらい穏便に行こう」


 いつものように瞬が話をまとめる。


 瞬、鉄平、俺、楓花、奈緒、栞の六人は去年も同じクラスだった。共通点がなさそうな俺たちだが、いろいろとあって仲良くなったのだ。今ではこうしていつも一緒にいる。

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