第16話
家から電車で二十分ほど揺られたところにある駅はここら辺では栄えている方で休日はわりと人が集まったりする。都会ぶっておしゃれな施設を建てたりしているのでまだまだ発展途上というところではあるが。
ちなみに俺のバイト先もここの近くだ。
改札を出たところにある広場に到着した俺は柱に背中を預けてスマホを見る。
現在時刻は午後一時二十分。集合時間は三十分だが、余裕を持って一本早い電車に乗っておいた。
土曜日ということもありここら辺は人が多い。
家族連れというよりは学生が多く見える。俺もそうだけど学校が休みということもあって遊びに出てきているのだろう。おしゃれなカフェやカラオケ、ゲームセンターなど様々な施設が揃っているからな。これ以上の場所に行こうと思えばさらに電車に揺られる必要がある。
昨日、楓花からメッセージが届いたことを思い出す。内容は『明日一時半に枚方駅集合!』というもの。そもそも俺の予定確認してないよねとか思っても無駄。なんなら言っても無駄。ちなみに枚方の読み方は『まいかた』ではなく『ひらかた』である。ほとんどの人は所見では読めないらしい。
「さて、今日はどういうイベントなんだろうか」
詳細を求めてみたが全てがシークレットで通されたので諦めた。楓花から遊びに誘われることはたまにあるが、なぜかこうして内容が伏せられるときがある。彼女なりのエンターテインメントなのだろう、と深く考えないことにしている。
基本的には瞬や奈緒、栞といったいつものメンバーが参戦してくることが多いのだが、たまにグループが違うクラスメイトの誰かがいるときもある。今日は俺が一番乗りなので誰が来るのかドキドキだ。
不安と期待で心臓を高鳴らせているとぽんぽんと肩を叩かれる。
俺は意を決して振り返ると頬にぷにっと指が当たる。
おいおいなんだよそれ可愛いかよ、と思い誰なのかを確認する。
「早いな、謙也」
「ここは可愛い女子がいる展開だろ」
そこにいたのはイケメンスマイルを浮かべる空野瞬だった。俺が女子ならばキャーッと歓喜の声を上げて気絶するようなシチュエーションなのだろうが、男なのでもちろんそんなことにはならない。
「そんな寂しいこと言うなよ。こうして休日に会うのは久しぶりだろ?」
たしかにそうだけど。
瞬は野球部に所属しており放課後はもちろん土日も練習三昧だ。なのでこうして休日に顔を合わせるのは本当に珍しい。
「今日は部活は?」
「顧問の先生の都合で午前中だけだったんだ」
言って、瞬は再び爽やかスマイル攻撃を仕掛けてくる。あまりの眩しさに俺はううっと小声で唸ってしまう。
「楓花に誘われたのか?」
「そうだよ」
「他に誰が来るのか聞いてる?」
「もちろん」
なんで知ってんだよ。
「教えてくれ」
「それはできない」
「どうして?」
「楓花に口止めされてるから」
「なんで俺にだけは頑なにシークレットなの」
「そっちの方が面白いからだろ」
「こっちは面白くないんだよなあ」
もちろん楽しまないとやってられないので誰が来るんだろうなあと期待を胸に抱いているわけだが、もちろん最初から詳細を知らされているに越したことはない。あんまり関わったことないクラスメイトとかが来ると大変なんだよいろいろ。
しかしあれだな。
まさか一人目に瞬が登場するとは思わなかった。
そんな話をしているうちに時間は約束の一時三十分になったわけだが、瞬以外のメンバーが誰も姿を見せていない。え、もしかして瞬と二人? 誘ってきた楓花すら来ないなんてパターンはこれまでにないぞ。
なんて、有りもしない未来を想像していると後ろから肩を叩かれた。
「ん?」
もちろん知り合いでもない相手が肩を叩くはずもなく、はてさてお次はどなたかしらと俺は後ろを振り返る。
ぷにっ。
「おはよ、謙也くん」
かっわええ。
そこにいたのは楓花だった。
いつもはハーフアップで纏めているロングヘアーはローポジションのツインテールにされていて新鮮でかわいい。黒のニットシャツの上からベージュのワンピースを着た大人びたコーディネートだ。いつもより少し身長が高いように思えて下を見るとブーツを履いている。
「おう」
あまりのかわいさに俺はそっけない態度を取ってしまう。しかし、そんなことは一切気にしていない様子の楓花は俺の隣に並ぶ。
「今日は三人か?」
出発する様子はなかったので違うのだろうが、話題の一つとして訊いてみる。案の定、楓花は「ぶぶー」とかわいらしく両手でバツを作る。
「あと一人います」
「俺の知ってる人?」
「もちろんです」
ふむ。
いつものメンバーで考えると、鉄平と奈緒は部活があるはずだ。だから違うと思う。そうなると栞か? 部活動には入っていないしバイトをしているという話も聞かない。休日になにをしているかも知らないけどあんまり暇をしているイメージはない。
「お、おまたせしました」
ふむむ、と唸っていると後ろから声がした。
聞き覚えのある声に俺は恐る恐る振り返る。
緊張を帯びた固い表情でいる顔はどこもかしこも整っていて、黒髪のミドルボブはいつもと変わらずさらさらと風に靡いている。体のラインをしっかりと主張するジーンズに白のシャツ。モデル顔負けのスタイルも相まって周りの女子を置いてきぼりにする美しさを放っているが何となく違和感を覚える。
なんというか、スタイルのいい人はこれ! という典型例をそのまま着飾っているような。お店でマネキンが着ている洋服をそのまま着ているような感じ。いずれにしても、それを問題なく着こなしている時点で素材の良さが証明されているわけだが。
つまり、絢瀬美園が二分遅れて登場した。
「全然だよ。ね、謙也くん?」
「お、おう」
楓花は今の俺と絢瀬の状態を知っている。
一度仲直りしかけたものの再び訪れた不幸で俺が前以上に避けられていることはきちんと奈緒が説明していた。にも関わらず、この状況を作り出すというのはどういうことだ? そんなことを思いながら俺は頷いた。
ちらと絢瀬の様子を見る。
「……」
一瞬目が合ったけど、すぐに逸らされた。
やっぱり状況は変わっていないようだ。
「揃ったことだし行こうか」
「そうだね」
「この四人なの?」
俺が訊くと楓花が頷いた。
「そうだよ。なにか問題ある?」
そんなことを言ってくるものだから、俺は前を歩く瞬の隣にいる絢瀬を見る。
それで何となく俺の言いたいことを察したのだろう。それでも変わらず、どころかさっきよりもにいっと笑うものだから楓花の考えが分からない。
「だいじょーぶだよ。みーちゃんにはちゃんと謙也くんがいることを伝えてたから」
「え、それ関係ある?」
なにが大丈夫なのか全然わからないんだけど。
という俺の思考を読み取った絢瀬がさらに続ける。
「本当に謙也くんのことが嫌いなら、わざわざ今日来なかったはずだよ」
「どうだろうな」
俺とは会いたくないけど楓花や瞬とは遊びたいという気持ちがあった可能性はある。ましてや、瞬なんて普段は部活で忙しいので相当なレアキャラだ。クラスの女子ならば喜んで参加するだろう。それこそ、ちょっとしたデメリットくらいならば迷わず受け入れてでもな。
「せっかくだし楽しもうよ。ね? ほら、ダブルデートだと思って」
「ちなみにそれどういうカップリング?」
「それはご想像におまかせしますよ」
「さいですか」
ここで「わたしと謙也くん!」と声を大にして言ってくれるような相手ならば恋愛も楽なんだろうな。いや、現実がそんなに甘くないのは百も承知だし、俺のような男にそんな漫画のような展開とヒロインが用意されていないのも重々理解している。
俺は勘違いをしないし、夢も見ない。
青春の日々を夢見る中で、青春の日々を送った中で、俺はその教訓に辿り着いたのだ。
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