第22話

「パン、パン、パン」と石河原の石に銃弾が当たって耳をつんざく、敵の銃弾に歩兵はそのまま大地に這う。

我々はまず馬から飛び下り、手綱を放して一鞭くれれば馬は後方へと走って行く。

歩兵も、砲兵も全員、後方に無我夢中で退る。

川上の馬がかかる危急にも気付かず茫然と立っている、中島が慌てて走って行って引っ張って来た。

後退途中には支那馬が弾薬を鞍に載せたまま死んでいた。

この突然の襲撃を受けて中隊長が頭部に負傷された。

「衛生兵、前へ」の声を聞いて、皆憂いに包まれる、中隊長が如何に中隊の核心であるのかと、この時感じた。

深川少尉が指揮を執るけど、皆の心は静まらぬ。

二門の山砲を深川少尉と山川少尉の指揮で砲撃、敵は一度後退したが再び現れてチエッコで射ってくる。

石河原に伏せて砲隊鏡で観測していると鉄兜を敵の銃弾が掠めて唸って通る、再度の味方の砲撃を今か、今かと待った。

この時ぐらい味方の撃ち出す砲声を心強く思ったことは無かったが、この激烈な砲撃も急勾配の山頂にいる敵には効果が薄いのか、砲撃すれば暫くは姿を見せないが、またこそこそと出てきてはチエッコを射ってくる。

我ら山砲が集中砲撃するので砲兵に攻撃してくれるよう頼んだが、歩兵曹長の小隊長は二十名そこらの歩兵では攻撃は如何ともし難いと断ってきた。

目的地の霊邸に行くには此処を突破しなければならないが、不安な気持ちで如何にすべきかと困っていた時、旅団伝騎が通信封筒を持ってきた、よくこの山の中に此の小部隊を訪ねて来たものだと感心する。

通信文には「今日、午前八時に一個大隊を増援に出したので合流して霊邸に行くように」と書いてあった。

困っていたので、この増援の助け舟には全く拝みたいような気がした。

この山峡で長居したら危ないので四時頃ひそかに後退する、戦場で初めて敵に背を見せた、余り良い気持ちがするものではない。

この戦闘では歩兵が四名戦死、一名 負傷者が出る。

最後尾を負傷した中隊長と退る。

ところが馬がびっこを引き出したので降りて見れば蹄に石がはまって取れない。

石を取ろうと焦ればなお取れない、部隊とはだんだん離れる。

これ程、不気味なことは無い、今にも敵が襲撃してきて射たれそうな気がする。

一生懸命に石を落とせば気の毒に思ったのか、やっと石は取れた。

馬は疲れていて、前からのせん痛の傷もあり血の尿を出していて可哀想だけど、乗馬して鞭をあてて中隊を追う。

小部落に鶏がいたが、何時もなら追いかけるけど誰も追う者はいない。

増援の大隊と合流して、夕食を炊いて食べてから出発する。

前回の道には敵が居たので、前回とは違う石河原を行くことになり、石河原の入り口に着いた時は日はすでに暮れていた。

此れからが愈々難路との事で部隊は前進せず、小隊長が道路偵察に出かける。

その間、我々は石河原に手綱を握って横たわる、昼の汗が乾かずにひやりと肌に触り、高所の夜は寒さがひしひしと増してくる。

小隊長が道路偵察から帰ってきた。

偵察によれば、この先の道は通ることは非常に困難とのことだ。

眠れもせず、寒さに震えながら出発を待った。

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