第11話

夕暮れが迫る頃「挺身班は先行せよ」との前進命令を受け、我々は急勾配の坂を下り麓に着けば辺りは白河原だ、次第に暮れゆく中を馬を走らす。

この時は入部上等兵の馬が他の中隊と一緒にいるのを見つけ、返して貰っていたので入部上等兵と一緒に馬をはしらせた。

七騎の馬は今日の戦闘で斃れた敵の死体が散らばっている暮れゆく白河原を、白砂を蹴立てて走った。

歩兵と連絡を取るために山麓にある城壁に囲まれた部落に入る、この部落を占領した歩兵部隊本部を尋ねて回るが、勝手解らぬ部落ゆえ捜し出せない。

歩兵は今夜夜襲に行くとのことで民家の中で三々五々に炊飯をしている、慌ただしい戦場風景だ回り回って大きな城門の所に来た。

数十尺の煉瓦の城壁には月光が差していて、城壁の赤煉瓦に明暗を映している。

城壁には高い楼門があって、その屋根は破れている、そこから月光が映画の光線みたいに楼門の中に流れ込んでいる。

また楼門の影は城壁に斜めに落ちている、煌々たる月が東の山の端から顔を出したのだ。

この今昔の光景には恍惚とした、全くの詩だ。

もし私に文筆の才があったなら「月下の古城」とでも言うような詩でも書いたであろう。

城壁を出た所に池があって、水面には煌々たる金色の月を映している。

今日は我々の馬には水らしきものを飲ませて無いので、すぐに水嚢を取り出して全部の馬を水飼した、黒みがかった泥水を馬は「ぐう、ぐう」と一息に飲み干してゆく「愛する馬よ、元気でいてくれよ」と皆、そう願って水を飲ませたであろう。

歩兵の大隊本部は今夜の夜襲のため早く出発したとのことだったので、再び元の道に戻って前進した。

暫く行くと兵隊がいっぱい寝ていた、歩兵が夜襲の為に終結中なのだ。

僅かの暇にある者は火を焚き炊飯し、ある者は何処からか玉蜀黍を取ってきて焼いて戦闘の腹ごしらえをしている。

捜してた歩兵の大隊本部はすぐ知れて連絡は取れた。

今夜、夜襲に行くならば我々は飯など炊くことは出来ないと思った、他の者は玉蜀黍を取りに行く、が自分と戦友の中島は大至急炊飯することにした。

幸いにして遠からぬ所に池を見つけたので飯盒に米を定量入れて残り火にかけ、それから皆の水筒を持って行き、池の水で皆の水筒をみたした。

明日は水がある所に出会えるか知れたものじゃない、泥水でも持っているにこしたことはないのだ。

泥水が飲めないと言っていれば命の方が先に無くなってしまう。

十五分とたたない内に炊飯できたので食べて、残りの熱い飯は鞍嚢の中に全て入れて出発を待つことにした。

馬には玉蜀黍を食べさせ、馬の手綱を足に結わえて、そのまま土の上に横になった。

戦闘と言うものは万事敏捷に行動しなくては事に間に合わないのだ。

この時、身体は疲労していたが米を炊いて食べたが米は持ってなかったので、その米はどうしたのか記憶にないが、連隊本部に連絡に行った時な少し貰ったのだろう。

微睡む暇もなく出発。

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