第4話
駅を出てからも踏切、踏切には一杯の人々が待っていて「万歳、万歳!」を連呼しておくってくれる。
門司駅に着いたのは朝の八時頃だったがその間、何処の駅にも山の如く見送りの人々がいた。
我々は感激の至りで一死報国の念は益々強くなった。
門司駅で下車し馬は老松公園に繋ぎ、その日は花園町の山口さんの家に泊まりもてなしを受けた。
朝の六時に起床し、お礼を述べて家を出る。
午後三時に門司埠頭での全ての搭載を終わり、船は五時に出港する。
御用船とは今までは客船の如くであろうと想像していたけど、船の中に入って驚いた。
酷暑の八月十二日というのに、天井は三尺しかなく、寝るところは二段になっており鰻の寝床みたいだ。
下の階には数百頭の馬が入っていて、馬糞の臭いがムッと上がってくる。
暑いこと話しになら無い、武装して部屋に入っただけで汗がだらだら出て、顔から汗がポタポタと落ちる。
寝る所は一間位の高さを二段に仕切っていて、我々初年兵は上段の寝床を命じられている。
先ずは装具を取り、下着一つになっても汗が出て仕方がない。
一切の下船は禁じられているので、下着一つで甲板に出る。
何時のまにか出港間近となり、門司市民の人々が見送りに来ていて見送る人々で一杯になる。
見送られる兵隊も甲板にに一杯で、私の所からでは見送りの人々が見えないので、私は給水タンクの上に登りロープをしっかり握って「万歳!」と叫んだ。
他にも二人登って来たので、狭いタンクの上なので少し困ったが、お互い譲り合って陣取った。
波止場から桟橋にかけて小学生、中学生、女学生、国防婦人会、個人の見送りの人も多くいる。
向かいの桟橋にには二十歳前後の女の人がハンカチを振っている、船の上ではブリッジの所で若い男の人が盛んに手拭いを振っている、恋人であろうか、妻であろうか?
また三十格好の婦人が柱の側でハンカチをひそかに目に当てているのを見た。
この人達には再会の時が有るのであろうか?
この人達が再会出来る事を強く願う。
ドラの音が鳴り響き、汽船特有の汽笛が鳴り響けば静かに船は岸壁を離れ、岸壁は彼方へと去ってゆく。
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