第21話

休養中の二十五日の朝、不意に我が一個小隊に出発命令がくる、大隊長は城外まで見送りに来てくれた。

道はあったり、無かったりの石河原を行軍、この山中を行軍するのは援護する歩兵の一小隊と、我ら山砲撃の一個小隊のみである。

山砲は小銃や機関銃が少ないので接近戦が出来ないので、歩兵の援護が必要となる。

途中、二騎の旅団伝騎に会う。

味方もいない山中、よく二騎ぐらいで任務を遂行しているなと、この当時は感心した。

後には伝令任務としては当然の行動と思えるようになる。

日中は照り返しで盛夏の如く暑い。

石河原を行軍中に五~六名の負傷兵を運んでいる担架に出会う、一人は右腕が吹き飛んでいて担架から鮮血がしたたっている、顔は手拭いで覆ってあるが覗いて見れば、さながら死人の如し。

ここから五~六里後方にある野戦病院に無事に到着出来るかどうか、我々は勇士の無事到着を心から祈る。

日が暮れてから山中の駄馬鈴なる小部落に着く、先見隊が来ていてここで一緒になる。

馬の水飼をするのに夜のことでもあり捜せど、尋ねれど水が無い、困り果てたあげく下の河原に濁った所が見えたので下りて行き、穴を掘れば少しずつ水が滲み出してくる。

その水を手で掬って水嚢に入れるが、一杯に満たすのは容易な事ではない。

大事に水を持って帰り馬に水を飲ませれば、一気に飲み干して物足りない顔をしている。

可哀想だが、水汲みばかりしていては、夜が明けてしまうのでやめた。

夜は土間で火を焚いて暖を取って眠る。

夜が明ければ一緒に来ていた歩兵は出発したが、我々山砲はこれから引き返すとの事で休んでいると、伝騎兵が来て「速やかに、出発した歩兵を追尾せよ」との伝令である。

我々は山砲一個小隊のみで霊邸にある師団指令部に援護に行くのであるが、道も無い山を越え、谷を越え、川を渡って行軍する。

両側が聳え立っ山の間の河原を行軍中、不意に山頂から銃撃を受ける。

我々も近くの家の屋根に観測所を設けて砲撃する、敵は小部隊とみえて我々の砲撃を食って一斉に退却する。

丁度、そこで我々は幸いにも先発して霊邸に向かったが道に迷った歩兵の一個小隊と遭遇する、地獄で仏に会ったような気持ちである。

歩兵の方も同じ気持ちであったらしい、とても喜んでいた。

さっき我々が砲撃した山を、歩兵が占領して再び我々と一緒に行軍する。

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