第29話
本道に出てみれば中隊は既に到着していた。
小隊長に車両は無かった旨を報告し、南京米で炊いた握り飯を頬張るもボロ、ボロしていて咽を通らなかった、故国の熱々の御飯を思い出して欲しくなる。
秋雨をついて再び担いだり、引っ張ったりで行軍を開始する、夜の秋雨が頬を冷たく打っ、だけど重い荷物を担いでいるお陰で寒さどころではなく汗が出る。
牛のような歩みでも歩くだけは進んで夜半には金衛城に着くが、雨は篠つくように降っていた。途中雨降る夜の道には点々と支那兵の死体が転がっていた。
中隊の一分隊が遅れて来ているとの事で、中隊長の命令で雨の中を一人で迎えに行く。
途中、暗夜のことで解らずに躓いて泥溜の中にばたりと倒れ、何かふわりとした物に乗っかったと思って良く見れば、武装のうえに傘まで背負っている支那正規兵の死体ではないか、良い気持ちはしなかったが「こん畜生」と足で蹴飛ばして、さっさと行った。
町を三~四丁外れた所ではぐれた一分隊と会い、道案内をして帰る。
ずぶ濡れとなった軍服を火を焚いて乾かし、民家にあったあった南京米で明日の昼飯までの準備をしたが煙にむせて涙が出て仕方がない、涙のうちに準備を終わり眠りにつく、うつらうつらと微睡めば朝である。
十一月六日、出発準備をしている時、船から運ばれて来た十一頭の馬が到着、全部の馬に弾薬を載せ、余りの弾薬ならびに山砲は人力で運ぶ。
午前八時に出発、幸いに今日は雨はあがっているが、道は泥んこで重い武装の身に弾薬を担ったり、山砲を引いたりなので苦労は一方ならず。
行軍途中には道の両側に支那兵や支那馬が腹を膨らまして死んでいる。
クリークの手前には、この度の戦闘では一発の弾をも発していないであろうと思われる新しい野砲が二門すててあった。
我が軍の急速な進撃にクリークの狭い石橋を渡り合わせず捨てて逃げたものと思われる、敵が逃げるのに困ったクリークの狭い石橋は我々が前進するのにも困った。
石橋の幅は二尺足らずの橋で、真ん中が高く半円形で普通に言う眼鏡橋で山砲の車輪の幅に足りないので、分解しなければ渡すことが出来ない。
弾薬を担った馬を渡すにも橋は石の坂になっていて蹄を滑らすので非常に危険で、石橋が三~四丁間隔にあるので全く弱りぬいた。
されども、この石橋が水に映った姿を見れば、まさに絵の如しである。
半円形の橋は舟を以て交通機関とするこの地方では、舟が通る時は高く荷物を積んでいてもなんなく通ることが出来るのだ、この地方としては眼鏡橋は芸術と経とを兼ね備えている。
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