第31話 なんとかしなければなりませんわ
諸侯会議の間は教師陣がほぼ貴族の学園はお休みです。
授業が無ければ寮にいてもしょうがないので都屋敷で暮らすので、一日中ビスケを連れて行かれたままです。
お祖母様は長子なのに下が出来なかったので、乳幼児が大好きなのです。
ビスケはぬいぐるみのように可愛くて甘ったれで話が判っていつまでも大きくならない、理想的な愛玩用幼児です。
ちなみにお祖父様は可愛ければなんでもいい方です。困りますね。
本会議が始まる前に根回しの時間があり、その間にマルセル様をお父様お母様にお引き合わせ致します。
ビーチェ、ファビア、ニコレッタはお着きになられた時にいましたが、マルセル様は本家の当主のお出迎えが済んでからでないと来れません。
ロクサーヌの方が先になりました。今や王都のトップパーティーのリーダーなのですが、子供に返って大泣きしていました。
オディロンは一人で亜竜を仕留めて国に献上し、騎士になりました。ビーチェは分家の嫁になりました。
騎士団には所属せずに、一定の獲物を国に献上して騎士の称号を保てる自由騎士として、マロニエアルブルの開拓に協力するようです。
ファビアとニコレッタは三ヵ月後の法薬師試験に受かったら、スケさんカクさんといっしょにフォルドデシェバルに行きます。
法薬師試験はロクサーヌパーティーのビアンカも含めてクラス全員で受けます。
我が級友達は全員嫁入り先が決まっています。
将来が決まっていないのはわたくし一人と言ってもよいのでした。
破滅回避が当面の人生の目標だったのですから。
初恋の人はヒロインに譲り、恋人のいる継嗣との政略結婚は回避しました。これ以上どうしろと。
マルセル様をわたくしの婿にするのは、シャトーモンターニュ家が難色を示しているのです。
結婚に反対しているのではなく、わたくしにシャトーモンターニュ姓になって欲しいのですわ。
わたくしも一族もそれで構わないのですが、今はわたくしの方が格上なのです。無理に嫁になると後々の騒動の火種になりかねません。
わたくしだけ身分を放棄したら、分家の次子の妻ではシャトーモンターニュ姓を名乗れません。
もし、マルセル様と別れなければならないことになったら、国を出ますわ。
二人とも庶民になってしまえば身分など関係ないのですから。
フォルドデシェバルの南に、スカトララディチェを迂回して西に抜ける山道があるのです。アバンポンから行けます。
もうほんとに、ずっと山道なのですけど。1日中山道です。一日じゃどこにも着かないので何日もです。
スカトララディチェの向こうにはオーガーしか棲まないと言うのは、そこに住んでいる人の悪口に過ぎません。
どうも、王家の先祖が喧嘩別れして、現在の王都トレンテポルタにやって来たようです。
なにも生国を出なくとも、生きて行くだけならお金は一生分持っているのですが。
いざとなったら二人で冒険者をしましょうと言うことで、久しぶりに冒険者ギルドに行きました。
わたくしとマルセル様、ビスケ、ケレブスコロで行けるような、少人数向きのダンジョン探索などしてみましょう。今までやった事がないので、新鮮ですわ。
王都の北東は広大な草原で、幾つかのダンジョンがございます。
受付で王都近辺のダンジョンの情報を買ったら、未踏破ダンジョンの売り物が出ておりました。
踏破されて出て来る魔獣が判っている管理されたダンジョンは、領地になるのです。
大きなダンジョンだと一つ持っているだけでも、準男爵や男爵になれます。
そんな出物はほとんどないのですけどね。
実際はダンジョンの入り口に砦を立ててそこの経営で、やってみるとかなりめんどくさいのですが、爵位に憧れている下っ端貴族や相続権のない子供が買うのです。
なので自分では踏破は出来なくとも、ダンジョンを見つけて売る山師が商売になるのです。
わたくしが地脈の漏れを見つけられるように、ダンジョンを見つける勘のようなものがあるそうです。
危険区域を闇雲に歩き回れるものでもありません。
発見されたダンジョンは早い者勝ちで登録され、開発権が売れるのです。
騙そうと思えば騙せるので、代金は冒険者ギルドが預かり、購入希望者、山師、ギルド職員で見に行き、特定の魔獣がいるダンジョンであるのが確認されると、代金が支払われ領地として登録されます。
私有地扱いで、勝手に入れなくなります。
ダンジョンでも瑕疵物件などもございます。
入り口が垂直な深い穴で出入りが難しいとか、無駄に広くて魔獣がほとんどいないとか、弱い魔獣しかいなくて稼ぎにならないとか、数えたら限が無いです。
ダンジョンでありさえすれば代金が払われるので、ダンジョン発見屋は山師扱いなのです。
たまに当りがあれば末代までのものになるので、必要悪扱いで変な物件を売るのが黙認されています。
「弱い魔獣だけのところを買って、孤児院の子の訓練に使うのも悪くはないと思いますわ」
マルセル様がご覧になっていた物件を二人の間に置かれます。
「これはどうでしょう」
肩を寄せていっしょに見ますよ。
「車で三時間では歩いたら1日掛かりますわね。現状入り口はなだらかな下り坂、照明はなし、確認魔獣はスライムのみ。入り口から少し離れただけでヒカリゴケが育たないほど、湿気が多いのですね。コウモリ、昆虫等は通常生物。内部で野宿可能。何もいないのですわね」
「確認範囲の五十メートルから先は水没しているのでしょう。その先の状態によっては掘り出し物かもしれません」
「そこから先がない、と言うことも考えられますわね。金貨二百七十枚。二百五十でも三百でもないのがプロの嘘臭さを感じますわ」
「五十メートル地点から通常の明かりで照らして行き止まりが見えたら、詐欺ですから。見るだけ見ても面白くないですか」
時々、マルセル様は探究心と言うより好奇心が抑えられない事があるのですわ。
「よろしいんじゃございません。郷士くらいの価値があれば大儲けですわ」
本気で領地になるとは思っておりません。損してもお父様の車一台分くらいですわ。
まず専用の窓口に行って、五十メートルからの視認状況の記載がないのを質問します。
三日以内に発見者が回答しなければ国の管理に移って、半額でわたくし達に調査権がもらえたのですが、翌日発見者からかなり大きな地底湖で、近寄るのも怖いので水質検査もしていないとの回答がありました。
記載の不備を言い募って金貨百七十枚に値切りましたよ。話が具体的なので現地を見ないで払ってしまいました。
被害者の典型ですね。
地底湖の住人を調べるためにペスカトーレをお借りして行きました。
リカオンやコヨーテ風のさほど大きくない魔獣がいますが、遠くから見ているだけです。
小山を少し登ったところに、二枚扉ほどの半円の穴が開いています。
中は下に下る分天井が高くなる感じで、横も次第に広がり、地底湖の前は小さな浜になっていました。
水質によっては水源になるかもしれないと思ったのですが、飲用に適さない塩分濃度でした。獲って美味しい危険なものも棲んでおりません。
しかも地底湖の向こうはドン詰まり。
大きなしょっぱい水溜りを金貨百七十枚で買ったのですわ。
あれ? もしかして、わたくしの幸運尽きたのじゃございません?
学園長先生とのお約束で、ペスカトーレを狩りに連れて行きます。
少し北に行くと、大角ウサギがいるのです。
大刀鹿がウサギの振りをしているような生き物です。攻撃もいっしょです。
足が太くてお尻が丸々している分肉が多くて、十トンコンテナでも二匹しか入りません。
四匹獲って帰って来て、野宿の安全性を確かめるためにここに泊まります。
マルセル様特製「坂道でもゆっくり寝られる脚の長さが簡単に調節できる簡易ベッド」が役に立ちましたよ。
「ねえ、アンジェリーヌ、ここ大角ウサギ狩りの拠点に出来るんじゃありませんか」
金貨百七十枚は無駄遣いにはならないようです。
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