第33話 事態は悪化の一途をたどるのですわ
宿に帰ったら、都屋敷から使いが来ていて、呼び出しがあるかもしれないので本会議後半には王都に居て欲しいとのことでした。
諸侯が未踏破域への進攻に際して、お祖父様お祖母様の協力とわたくしの同行を請願しているのでした。
今まで直接の恩恵を受けていないミルファイユ侯爵が、まだファミリアを探していないところに行きたい悪い魔法使いの群れを抱きこんだようです。
以前から確執があったのでフォルドデシェバルの当主や元当主がミルファイユに行った事がなく、お祖父様お祖母様も見たことのない魔獣との戦いを想像して前向きにご検討されているようです。
もう一度くらい近場なら行けそうなので、ギルドに寄ってオオカミを見せた後にダンジョン選びをしましょう。
ギルドに行ったらロクサーヌ達がいました。獲物に逃げられるようになって、ビアンカにファミリアが欲しいそうです。
名前はもう判っていてプレスティシモ。とても速いと言う意味だそうです。
なんだか判りませんね。
ハヤブサならブラスカといっしょに出てきそうなものですし。
チータはおりません。熱帯の草原はあるわけですが、大角ウサギのせいで猫科の猛獣がいません。
「犬っぽいのはいるの。今までみんなと行った所とは違うのは出るけど」
オオカミを解体所で出して見せました。
主任に呆れられましたわ。
「黒魔狼の骨がぐしゃぐしゃですぜ。実質四人としてもこりゃねえっすよ」
「わたくしとビスケの二人ですわ」
「なんか、やなことでも、あったんすか」
マルセル様を横目で睨みます。
「結婚を、真面目に考えて下さらない方が、いらっしゃいまして。変なダンジョンばかり連れて行かれるものですから」
まだ二つ目ですけどね。
係わりたくない、と言う顔で主任が眼を逸らしましたわ。
「闇犬はどうしなすった。黒魔狼がいたならいねえ訳がねえんだが」
「先に寄って来たのは、たくさんで持って来るのもめんどくさいから、坑道に抛り込んで来ましたわ」
「ちょ、あれの革は丈夫で柔かいんで、大刀鹿の革と同じ値ですぜ」
マルセル様、おっしゃりたい事がございましたら、おっしゃって下さい。
「あそこも、狩りの拠点になりそうですね」
「そうですわね」
「少し大きなダンジョンは大概入り口付近に頑丈な宿泊施設がありますから、それを再利用するつもりで調べましょうね」
「はい」
夫の言葉に素直に従いますよ。ダンジョン経営の新しい形ですわね。
ロクサーヌ達も行きたがったので、廃鉱山にもう一度行くことになりました。
都屋敷に確認に行ったら、あと五日は大丈夫だとの事でした。
マルセル様がお喜びですが、行き帰りに一日ずつ使うのですよ。
探すまでもなく、プレスティシモは鉱山に続く道の上で待っておりました。
細身の大きなキツネかと思いましたが、脚が長いです。ファミリアとしては、山羊に次ぐ大きさです。
体は赤茶色ですが、頭から背中にかけて黒い毛があります。
速い生き物のはず。たしか、犬っぽいので最速なのがいましたね。そう、タテガミオオカミ。
二人でぐりぐりしてから、ワイバーンジャーキーをあげますよ。
懐きましたね。普段は大ネズミとかだったのでしょうから。
プレスティシモに合わせて廃鉱山まで来ました。底上げしないと飛ぶより走った方が速いです。
鉱山がダンジョン化しただけなので、施設はまた戻って来れるように閉めていったと思われます。
前に調べた時にほとんどの明かりが生きていたので、霊晶石を多めに持ってまいりました。
ギルドだった建物にセット致します。コンテナの移動できない大容量版の、魔法の倉庫も使えます。
明かりの点いたギルドの一階で、ロクサーヌが申します。
「ここ、割れたガラス入れ替えて、掃除すりゃ住めるんじゃねえすか」
「もう少し、魅力がないとだめじゃないかしら。あなた達もプレスティシモを少し鍛えれば、大角ウサギ狩りが出来るようになるでしょ。住みつく人はいないのではないかしら」
「や、住んでいいなら住みたいんすけど。家ってもんが欲しくなりやして」
「それは判るけど、都から遠過ぎるでしょ」
山奥の別荘買って新幹線通勤する人みたいな。
ロクサーヌはまだ、行き遅れ貰い遅れではないのですが、わたくしが焦っているくらいですから、幼な妻の群れの警護をしていれば余裕もなくなるでしょう。
「マロニエアルブルが開拓されたら、ここで一休みしやせんか」
「車で野宿するよりは、ちょっと横道でも家の中で寝られる方がいいわね」
廃鉱跡に住んで夜中に闇犬獲って暮らすとしたらなしだけど、宿場町なら王都から離れていてもありですわね。
「でやしょ。ところで、こないだの犬ってのはどこに捨てなすったんで? まだ革がでえじょうぶなら持って帰りてえんですが」
「坑道のわりと奥よ。野良犬が食べるといやだと思って」
なにか、引っ掛かりますよ。
「マルセル様、あの時、なにかおっしゃりたかったんじゃ、ありません?」
「今言っても、怒りませんか」
「怒らないから、おっしゃって下さい」
「スケルトンが復元されるところに高位の魔獣の死体を捨てたら、ゾンビ化するかもしれません」
「なんで、おっしゃって下さらなかったの?」
「ゾンビが五、六十匹増えるより、アンジェリーヌの方が恐かったし」
みんな、頷かないで。
待って。待って待って待って!
「そうよ、それのなにがいけないの。あそこには魔物が少なくて困っていたのよ」
「そう、ですね。でも、ゾンビは一度倒すと復活しません」
「骨だけ入れたら、スケルトンになりません?」
スケルトンの養殖、新しいビジネスですわね。
「きれいな骨だけにするのが大変ですよ。どのくらい肉が残っているとゾンビになるか判りませんし。あ、実験すればいいんだ。卒業論文になりますよ!」
いくら基礎能力が高くても、面白グッズばかり作っていたら錬金術師科は卒業させてもらえないのですわ。
プレスティシモのレベリングも兼ねて、まず坑道を見に行きます。
いい具合に闇犬ゾンビの団体さんがまいります。プレスティシモ噛んじゃだめよ。
骨だけ残そうとしたのですが、動けなくなる大きさにするまでに砕けてしまいますね。
焼くと骨が残っていても浄化されたことになって、スケルトンにならないそうです。
スケルトンになってしまえば焼かれても復元されるのですけど。
黒魔狼と闇犬はロクサーヌ達だけで倒してもらいました。難なく倒せました。魔獣が逃げるレベルの人達の猟場になりますね。
一度戻ってマルセル様がダンジョンをお買いになり、骨だけになった黒魔狼と闇犬をもらい、ついでに凶悪ドードーの骨も十羽分一揃いもらいました。
都屋敷に時間の余裕を確認してから、骨を坑道の奥に入れに行き、綺麗に闇犬と黒魔狼を倒して持って帰りました。
マルセル様のお小遣いが足りなくなりそうだったのです。
ちゃんと分け前はあげているのですが、他人が作らない物を作るのにお金を使ってしまうようです。
後は諸侯会議が終わってスカトララディチェに行ってからどこに行くか決めるだけです。
廃棄ダンジョンの調査なら、他人が付いては来れません。
でも、実質廃墟巡りになるのですわ。
せめて、廃墟の付いていない細かいダンジョンは、わたくしが先にチェックして外させて頂きます。
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