第34話 予定通りの人生なんてございませんわ

 諸侯会議にお呼ばれするのはわたくしだけなので、マルセル様はロクサーヌパーティーと金山跡を整備します。

 そのお金はわたくしが出しても問題ないのです。

 名前は以前に付けられたヒューメボッカをそのまま使う事にしました。

 スケルトンは良い具合に育ちました。闇犬でも最初から霊晶石入りです。

 凶悪ドードーは経験値稼ぎ用と割り切れば。

 黒魔狼のスケルトンは霊気の濃い地脈の湧き出し口付近にいて、勝手にボスをやっています。

 生身の闇犬は明るいと近付いて来ません。施設の照明がしっかりしていたのはそのためですね。


 アンジーの宿で大角ウサギの輸送、買い取りをしていたファビアの実家が、闇犬と黒魔狼の輸送も始めてくれました。

 居続けで獲りたい向きは輸送量を払っても、一々帰るより稼げます。

 ついでに美味ネズミの骨を持って来てもらいました。ドードーより小さくて高位の魔獣です。

 やはり最初から霊晶石入りでした。ドードーはわたくしが行けるようになったら、ダンジョンの外に出してただの骨に戻しましょう。


 わたくしのいない間に領地が整いました。マルセル様が郷士になりましたよ。

 郷士では伯爵の長子は嫁に出来ないのですけど、一纏めの領地でなくても、幾つかのダンジョンを再開発すれば男爵まで行ける可能性はございます。

 マルセル様のご両親にもご挨拶が出来ました。わたくしが行かなかったのではなく、騎士に過ぎないあちらが夫の両親を名乗れなかったのです。


 貴族めんどくさいです。今回はフォルドデシェバルとミルファイユの和解も掛かっているので、あちらは妙にぴりぴりしています。

 こちらの都屋敷との温度差が激しいです。ギャスパル様とアレクシア様の代になれば仲良くなるしかないからと、何も気になされないこちらの二組の夫婦もおかしいのですけど。


 諸侯会議は何の問題もなく終わり、わたくしが法薬師になったらお祖父様お祖母様とミルファイユに行くのが決定してしまいました。

 放棄ダンジョンで再利用可能なものは領地にして構わない、と言う事でした。はっきり言ってしまえば使えない物をただでやるから嫁に来いと言っているわけです。

 意地でも王都の近郊のリノチェロンテパーラのダンジョンだけで男爵領にして見せますわ。

 この辺が、ミルファイユの下の方と同じ生き物ですわね。


 わたくし達がいない間はヒューメボッカはオディロンとビーチェが見てくれます。

 人の物を買い取るのではなく、同じようにダンジョンの再開発をして子供に残せる領地を得たいとの考えに変わりました。

 ワイバーン狩りは二人の替わりにマルセル様方のお義姉様ご夫妻に入って頂きます。

 お二人もこの底上げで騎士になれますと喜んで下さいました。


 スカトララディチェに行く車の中でお義姉様から、お義母様がお若い頃に住んでいらした村のお話を伺いました。

 村の近くに地脈の湧き口が出来てしまったので、放棄されたそうです。


「湧き口が出来るほどでしたので、作物の実りの多い豊かな村だったそうです。今でも帰れるものなら帰りたいと思っているのは母だけではないそうです。あそこを取り戻せれば、すでにお持ちのダンジョンと会わせて十分に男爵領になりましょう」

「放棄地の再入手をしてもよろしいのでしょうか。ダンジョンとは広さが違いますでしょう」

「フォルドデシェバルにも人を募集していらっしゃる現状ですから、土地が取り戻せたらミルファイユの者が入る事になりますでしょう。本家からはけして無理なお願いをしてはならないと言われていたのですが、ご挨拶を頂いてから、母の期待が日に日に高まってまいりまして」

「ミルファイユの戦力で取り戻せないものを、一時的に魔獣を追い払ったとしても、維持出来ましょうか」

「アンジェリーヌ様に見て頂けば、なにか起きるのではないかと、期待していますのですよ」

「それは、なんとも」


 山羊が出て来るかどうかなぞ、どうでもよくなりましたわ。


 スカトララディチェに登って最初の半日で国王陛下と宰相殿下の山羊が出てまいりました。

 五日の予定だった山羊探しは半日で終了致しました。『キング山羊の底上げをしたい』には誰も勝てません。

 元々お祖母様とワイバーン狩りに来ているのです。


 翌日ブラスカに蹴散らされた雑魚鷲がファミリア持ちのお小遣いになった後、恒例になってしまいましたビスケの囮は黒い大きなのが来ただけでした。

 やはりビスケが一撃で蹴り倒してしまいましたよ。止めの必要もありませんでした。

 知っている人がみんな、こんなのかみたいなので、態々どんな鳥か聞きました。

 この辺りの鳥では一番強いだけでした。その程度じゃもう誰も満足しませんね。


 今回はお父様もワイバーン狩りをなさいました。戦闘回数が減ってしまうのでお祖母様が嫌がられましたが、お父様も領地の者にお土産が必要なのです。

 六日間ひたすらワイバーンを獲って、霊晶水を採って帰ろうとしたら、国王陛下が、前回王太子殿下がどれだけ無茶をしたのか知りたいとおっしゃって、同じルートで帰ることになりました。

 

 王太子殿下の製造責任者が誰だったか再確認しつつ、モアや夜のジャーキーの原料をたくさん獲りながら帰りました。

 ビアンカにお土産の薬草を渡していっしょに製薬します。

 わたくしが落ちたらしゃれになりませんからね。

 マルセル様は別のダンジョンを調べるのを口実にして、廃墟に行きたがっています。

 阻止しましょう。


「まず、ヴォイデルポルトに行ってみましょう。お義母様のご期待にはお答え出来ないとは思いますけど」

「行った事はあるのです。ただの廃村でした。かなり大きな村なのに村長の屋敷が質素で、造りがもう一つでした」

「見る所はそこではございませんでしょ。どのような魔獣がおりますの」

「やっかいなのは大猩猩ですね」

「あのサルはフォルドデシェバルにもおりますが、お祖父様から逃げるのしか見ておりませんわ。たまに大きいのが向かって来て首から上がなくなっていましたわ」

「義大父上に向かって来るのが間違いですが、数がかなりいます。調査するにも、船に泊まらなくては危険です。人に頼らず常時張っておける結界があるといいのですけど」


 なんで他人事のようにおっしゃるのでしょう。


「そうした物を造って下さいませんの?」

「試作品は、あるのですが。効率が悪くて、地脈の湧き口にでも設置しないと作動しません」

「なんですって!」

「いや、そんな、怒らなくても、いいでしょ」

「あなた、ご自分がなにをおっしゃったか、判らないの」

「ごめんなさい」

「とりあえず謝っとこうみたいのは止めて下さい。それがあれば、地脈の湧き口を塞げるのじゃございませんこと?」

「あ、そうだ」


 もう、こう言う人なのですわ。学者バカ?

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