第32話 真面目な人が何かに嵌ると恐いのですわ
ダンジョンオーナーのアンジェリーヌ・アブ・フォレスティエでございます。
わたくしのダンジョンは生産性がないので、領地にはなりませんでした。
ただの私有地ですが、入り口に頑丈な扉をつけたら、宿として使えます。
寮母のジルベルタ女史の姪の方が宿屋をやりたいそうなので、あちらの修行も兼ねて雇いました。
スライムは水辺から一定距離以上離れないので、全部は殺さずに汚物処理に使います。
ベッドを衝立で囲っただけのカプセルホテルですが、全体に戦闘力が上がっているので、大角ウサギ狩りをする人も結構います。
オディロンとビーチェが常駐しています。草原でフォラータの忍び寄りを防ぐ手段はありません。
上空に特殊な視力を持った敵がいても、ビーチェの法眼珠からは逃れられません。
あら? オディロンいらないんじゃない?
マルセル様が爵位がもらえるほどのダンジョンのオーナーになれたら結婚出来るので、二人でダンジョン探しを致します。
最初はまったく考えていなかったのですが、現在とは違う使用法があるかもしれないと思ったら、本気で探し始めてしまいました。
今でも事実婚状態で十七歳と十二歳で焦ることもないのですが、級友は全員正規の幼な妻の現状。
入手可能なダンジョンには、新発見のもの以外に放棄ダンジョンがあります。
放棄されているのは収益性が低いか危険性が増したかなのですが、放棄されて時間が経っていると状況が変わっているかもしれないので、調査してみる価値はあります。
国土保全局の資料を特別許可を頂いて全部閲覧出来るのですが、困った事にマルセル様が廃墟マニアだったのです。
領地になりそうかより、側に面白そうな廃墟があるかで調査対象を決められるのです。
その上、性もない小さなダンジョンまで、全部眼を通さないと気が済まないのです。
ようやく、何かお気に入りのが出たようですわ。
「この廃鉱山、スケルトン出ますよ。不死系と戦ったこと、あります?」
「ございませんわ。なぜ頭を砕くと動かなくなるのでしょう。ゾンビのように多少壊れても動くんじゃございませんの? 関節がつながっている訳でもなし」
「基本的に始動時の依り代が頭蓋骨なのですが。ゾンビは腐細胞の群体です」
「あれって、そう言うものでしたの」
生物ではなく、霊力で動いている物は錬金術の範囲なのですわ。
「ええ、そうです。スケルトンは生存が長いと霊晶石が出来ている可能性がありますから、倒せば儲けになります」
「そのような良い物件が、なぜ今まで放置されていたのでしょう」
なにか都合の悪い事が、すごく小さな文字で書いてあるのじゃございません?
「遠いのですよ。でも、アンジーの宿で一泊すれば飛べるなら日帰りが出来ます。今までと状況が変わったのです」
うっかりわたくしがお金を出してしまったので、そう言う名前になりました。
やだと申し上げたのですが、『八つ裂き姫の宿』の方がいいのですかと言われて折れました。
「では、明朝早々に向かう事にして、帰りましょう」
「夕食は都で食べて行きましょね。ビスケがいてくれるから、夜道も安心ですよ」
この頃ビスケは上位危険区域で索敵に専念する時は、わたくしの手を空けておくためケレブスコロに乗っています。
宿まではそれ程危険でもないので抱いて帰ります。歩かないわね、この子。
お夕食を済ませ、カルロータ様のところで夜のジャーキーを仕入れて帰ります。
宿のカウンターで販売しておりますのよ。
宿は中央を階段にして両側を掘り下げ、入り口付近の左右を管理人室とオーナールームにしました。
ビスケが簡単に掘ってくれますよ。左右になら拡張し放題です。
残土は硬質レンガにして山肌の補強とスライム用防塁に使いました。
地底湖の水はろ過脱塩すればシャワーには問題ないので、全室シャワー付きです。
ポンプやろ過器の動力源は地底湖です。
意外に水深が深く、地脈の湧き口があるので、霊晶石を沈めておくと充電(充霊)出来ます。
わたくし達が爵位を得られるダンジョンを見つけたら、売って欲しいとオディロンが言っております。
ビーチェが自分の土地を欲しがっているようです。
翌朝早出の人達といっしょに出ます。わたくし達も早出組ですよ。
一番遅いマルセル様に合わせて飛びます。
ケレブスコロが乗って欲しそうにするのですが、修行として飛ばれています。
大角ウサギが見えるのですが、今日は見逃してやりましょう。
廃鉱山は金鉱山に地脈の湧き口が出来てダンジョン化してしまったところです。
坑道入り口付近には強固な住居用砦がまだ残っておりました。
マルセル様の目的はこれです。
「未だに建っているのは立派ですね。中を調べましょう。坑道は夜になっても一緒です」
無駄な抵抗をして見ましょう。
「日帰りではないのですか」
「日帰りも出来る、のですが、折角ここまで来たのですから、ゆっくり調べましょう。グラシアナには言って来ました」
殿方にはしょうもない子供っぽいところがあるのは、重々承知しております。
日が傾くまで砦を調べましたよ。暗くなってからスケルトンの出る坑道に入るバカ夫婦。
スケルトンは動けば音がするので、ビスケがいれば直ぐに見つかります。
しかし、ゲームやホラー映画のような団体さんではありません。
「少ないですね。事故死した人がそんなにいなかったのかな」
「瑕疵物件ですわね」
倒されても骨は再生するのですが、魂は増えません。
普通のダンジョンならば冒険者が倒されて増えたりするのですが、廃鉱になってからはわざわざ来る人もいなかったのでしょう。
死んだ人が少ないのを不満に思うようになっては人間お終いですが。
ぽそぽそ出て来るスケルトンのシャレコウベを砕きながら、坑道の終点まで行きました。
掘りつくす前にダンジョンになったので、金が残っている可能性があります。
マルセル様がお皿の真ん中に棒が立っている物を出されました。
「金属探知機ですか」
「……ええ、そうです。大きな金塊なら反応します」
金塊にだけ反応するように調整出来るそうです。魔法ですね。
探知音がヴヴヴヴヴからニーンになりましたよ。
ケレブスコロが岩壁を蹴ると、大きなビー玉くらいの光物が転がり落ちました。
「どうぞ」
「下さるの、うれしい」
自然金の塊としてはかなりの大きさです。台座を作って飾れるようにしましょう。
その後、ビー玉くらいのが四つ見つかりましたが、ここまで来る労力には見合いません。
金属が出るダンジョンでもないので、掘ってしまえばそれまでです。
折角復活したスケルトンの頭蓋骨を殴りながら坑道を出ます。
夜陰に乗じて襲い掛かって来る犬っぽいのがいますが、殴り倒します。
こちらとの差がありすぎるのですが、夜なら勝てると思っているのでしょうか。
「寝る前に、少し草原に出てみませんこと?」
「はい」
マルセル様が大人しく付いて来ますよ。
熊くらいのオオカミっぽいのが襲ってまいります。
ダンジョン化してから夜この辺りを歩いた者がいないので、記録がありません。
持って帰りましょう。
ちょっとすっきりしたので寝ますよ。
マルセル様、今更わたくしの顔色を伺うくらいなら、もっと真面目に領地になりそうなところを探しましょう。
「わりと、面白かったですよね?」
ですから、ダンジョンを面白いかどうかで選ぶのは止めて下さい。と、はっきり言えないわたくしも悪いのですが。
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