第29話 もう少し続くのですわ
下車位置では誰の呼び掛けにも返事はなく、北東から順に行きます。
東は前回と同じように最後に残します。
北東の行き止まりで、約束通り級友達とマルセル様が最初に呼びました。
「ぴゅう~」
ビスケが変な声を出して両手で大きく前へ倣えをしました。
「なにそれ」
感覚共有をしましょう。山羊の声が山羊の声が山羊の声が……。
「いっぱい、いる」
全員自分で飛べるので、お祖父様とお祖母様には残ってもらいます。
王太子殿下とクリスティーナ様のロイヤルシスターズが対空砲火として付いて下さいました。
飛びたいだけ、な気もしますが。
さほどしないうちに上空を数羽の大鷲が舞っている岩場を見つけました。
一匹でも襲われるといやなので、ビスケと共に全速で突っ込みます。
ドラゴン級ムカデ百匹の底上げで、凧を落とすのと変わりません。
級友達が到着すると、岩陰に隠れていた山羊がぞろぞろ出て来ました。
「ケレブスコロ!」
「めええ!」
マルセル様の山羊は、全身やや茶色みのある灰色です。
名前は、ええ、まあ、その、よろしいんじゃないでしょうか。
「スタルマ、来てくれたのね」
ジュリアナ様の山羊は青み掛かった灰色で頭から尻尾まで黒い帯があります。
言い易い名前ですが、なぜか邪神のような気がいたします。
名前なんてちょっと違えば別物ですわね。
みんな自分の山羊の名を呼び接触します。
はい、順番に並んで。飛べるようにしますよ。
乗らずに帰りましょう。山羊の方が弱いから。
帰って来たら残りのツアー客が、声を限りに叫びます。
そんなに五月蝿くされるとビスケに山羊の返事が聞こえませんよ。
順番で心話力で呼んでくれないと。
第二回アンジーと山羊を探しに行こうツアー初日は、十六山羊と言うわたくし的には惨憺たる結果に終わりました。
級友とマルセル様の九匹を引いても前回を越える七匹出て来てしまったのです。
まだ、わたくしの幸運は終わっていないのですわ。
最初が満願だったので、もっととんでもない結果を期待した参加者にとっても惨憺たる結果でした。
『飛べる山羊のオーナークラブ』会長の王太子殿下には他人事です。
「明日はワイバーン狩りだな。なあ、アンジー、最初にウサギに囮をさせてくれんか。場の霊気が荒れる前に何が来るか見たいのだ」
「はい、御意のままに」
わたくしとしても、何が来るか見たい気持ちはございます。
カラスの鳴かない朝が来て、ワイバーンの生息地に向かって、一列で岩山を登ります。
狩り小屋の収容人数ギリギリの長蛇の列になりました。
先頭のお祖父様の方にはいかないのですが、真ん中あたりから後ろに大鷲が飛んでいます。
その場からお持ち帰り出来なくても、突き落としてしまえば勝ち、後でゆっくり頂こうという魂胆です。
こちらも試したい新兵器があるので、わざと散らさずに集まらせています。
「もうそろそろ、良いのではないか」
王太子殿下のお言葉に「はい、では」とお答えになってジュリエッタ様が巨鳥の群れを見据えられます。
ガントレッドの他にブラスカを止まらせるための肩パッドをされて、ナントカ聖拳の伝承者風になってしまわれました。
その肩から、翼をほとんど閉じたままブラスカが飛び出します。
ハヤブサロケット弾発射。かなりの高速なのですが、避けられました。流石に最上位危険区域の魔獣です。
百間突き以上の射程の攻撃があると判り、人食い鳥の群れは少し距離を取って上空に移りますが、ブラスカは更に上に上がります。
ビーチェの法眼珠にしか見えないほど小さくなってから、少しして爆音が響きました。
それが聞こえた時にはもう、音の壁を突き破ってソニックウェーブを纏ったブラスカが、斜め上空から巨鳥の群れを通過するところでした。
ダメージを受けバランスを崩している大鷲の群れに、ファミリアと飛べる山羊ライダーが襲い掛かりました。
「これで、雑魚は寄って来んだろ」
王太子殿下が短槍の血を振り払われてご満悦です。
上機嫌でみんな狩り小屋に入り、ビスケだけ出ます。
あんまり四つ足で歩いているビスケのお尻って見る機会がないのですが、可愛い。
ティラトーレが警戒音を出しました。
「白い、鳥が来ます」
ビーチェの見ている方向を一斉に見ますが、見えませんね。
かなり上空から突っ込んでくるようです。
ビスケの感覚でも捕らえましたよ。ハヤブサの大きさではありません。
「白鷲ですね。ビスケだけで倒せます」
お祖母様のお言葉にお祖父様が頷かれます。
逃がさない距離と判断したのでしょう、ビスケが飛び上がりました。
この高さまでウサギが跳ぶと思っていなかった白い大鷲があわてて首をめぐらせますが、その首の付け根に回し蹴りが決まりました。
首が変な角度に曲がった鳥が落ちて、ビスケに両足で胴を踏まれて生命力が開放されました。
「あれの爪で武器を持てる子のを作ってあげると、波紋鋼より切れ味がいいのが出来るわ」
「あれは、それ程危ない敵だったのですか」
「ビスケなら掠りもしなかったでしょ」
お祖母様の大好きなビスケですよ。わたくしは万が一の掠り傷でもいや。
白鷲をみるために、ティラトーレがお祖父様の肩に乗りました。
「よかったのう」
「チチッ」
ムカデ百匹の底上げで、ティラトーレとリス二匹は小さな武器が持てるようになったのです。
しかも、ティラトーレはなぜか飛行力が生えました。スキル(?)生えたりするんですね。
飛行力自体、謎能力ですが。
衝打や瞬動で気を噴射しないで飛べます。
元が滑空のせいか、飛行力だけではホバリングは出来ません。
白鷲の黒い鉤爪は、王族や上位貴族の護身用の隠し武器にする短剣になるのだそうです。
特別に珍しいと言えるほどの物ではなかったので王太子殿下のご機嫌が麗しくありませんが、あとはワイバーンを獲るだけなので、ご機嫌を伺う必要はありません。
ティラトーレ、ブラスカ、ビスケの順番で誘い出し、四匹獲れてしまいました。
いくらお祖父様お祖母様が瞬殺されても、同種が殺された場所に誘導するのにクールタイムが必要で、四匹が限界のようです。
一ヶ月四十日獲り続けたら百六十匹なわけですが、虫が大きくなったムカデと違ってそんなには出て来ません。
諸侯会議ギリギリまで居る訳には行かないので今回ワイバーン狩りの予定は十日だけです。それでも四十匹獲れるわけですが。
翌日の山羊探しは、既に山羊持ちの級友達はオリヴィエラ先生に率いられて麓の森に採集に行きました。
四匹の山羊を連れて帰って来たら、夕食のメインはモアでした。
ティラトーレの索敵能力で囲い込み猟をしたのです。
十二歳の魔導師の群れに仕留められたモアの無念やいかばかりか。美味しく供養いたしました。
その後山羊は三匹、三匹、二匹、ゼロ、ゼロで、もう諦めろとの王太子殿下のお言葉で、ワイバーン狩りを続けた後、セッテピエラの洞窟で霊晶水を抽出して帰ることになりました。
能力が上がっているので、オリヴィエラ先生も挑戦されます。
結果、クリスティーナ様は五瓶弱、オリヴィエラ先生は四瓶弱でした。
お二人が抽出をされたので洞窟で一泊して、普通なら麓の砦なのですが。
「森の中で野営してもどうということはあるまい。このままエテルニータに向かおう」
王太子殿下のお言葉に、誰一人反対しませんでした。
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