第23話 ここまで大事になるとは思っていませんでしたわ

 わたくしが承知したので、お祖父様とお祖母様はグランドロック狩りの申請をなさいました。

 ドラゴンから逃げる魔獣と倒すと開放される生命力で森の中が大荒れになるので、勝手に生息域に行って倒してはならないのです。

 低位危険区域に中位や上位の魔獣が現れますが、騎士団が出張って大型の魔獣を倒し、冒険者が中小型を倒せば比較的安全に稼げます。

 判っていれば美味しいイベントです。


 グランドロックは見た目の鳥と同じ性格で、ちょっとでも嫌なことがあったら逃げるタイプです。

 ビスケを持ったお祖父様とお祖母様が未踏破域側に回り込んで、騎士団のいる方向に追い込む作戦です。

 騎士団総長のフランソワーズ大伯母様と七師団長はグランドロックと直接戦闘可能ですが、上位貴族の子弟も領兵に護られて自己責任で戦闘に近付くのが許されました。


 ワイバーンより上のドラゴンの生命力を浴びられる機会などほとんどありませんので、観戦希望者はかなり多いようです。

 わたくしは直接戦闘組の後ろで、ビスケとの感覚共有で敵の位置を把握して、騎士団を誘導する役目です。

 ビスケとかなり離れるのでシルヴァーナ叔母様に心話力の増幅器をしてもらわなければならないのですが、王太子殿下が抱き合わせ商法で付いて来ました。

 エンテュジアズモがいるので国王陛下も反対されなかったようです。

 

 宮廷魔導師の上位陣が防護結界を張って、騎士団の野営地が上位危険区域に出来ました。

 先に大型の魔獣を狩って下に流れて行かないようにします。

 普通なら命懸けの掃討任務なのですが、亜竜クラスの大トカゲなどお祖父様お祖母様は食べ物だとしか思っていらっしゃいません。

 子猫に狩りを教える親猫のように、半殺しにしてから騎士団に渡されます。

 普段なら貴重なトカゲ革が、寄って集ってザクザクされてしまいます。


 ビスケを連れて行かれたままなので、わたくしも野営地暮らしです。

 オリヴィエラ先生と級友達もみんな掃討後の安全な場所で採集するために野営地にいます。

 普通は法薬師以上でなければ参加出来ないのですが、わたくしの級友に文句を言う人はいません。

 言ったらビスケを連れておうちに帰りますよ。

 索敵能力はティラトーレの方が上なのですが、お祖父様お祖母様との連帯がいま一つな上、戦闘の余波に対する防御力にも不安があります。


 カルロータ様とジュリエッタ様も学業そっちのけで野営地暮らしです。大物狩りに着いて行った方が能力上がりますからね。

 マルセル様を通してシャトーモンターニュ家の継嗣ギャスパル様ともお近付きになりました。

 お年はやはり十七歳、やっと殿方ですわ。

 王太子殿下と三侯爵家の継嗣の方々がわたくしより少し年上で揃っているのも、そこはかとなく運命の悪意を感じます。


 学園長先生やジルベルタ女史もいます。学校はどうなっているのでしょう。

 お二人とも結界の外で特定の単語を繰り返し叫んでいます。名前のようですね。ファミリアなんか来ませんよ。

 ジュリエッタ様や結界班の高位の魔導師の方々も、採集班に混ざって出られては、なにか言っています。

 正直見ていて怖いです。


 お祖父様とお祖母様がビスケ持ってドラゴン追い詰めて倒して終わり、だと思っていたのに、掃討作戦は延々続きます。

 掃討作戦のときは敵の位置把握のために、未踏破域を少し含めたあたりから森の入り口までを将棋盤のように十六分割します。

 横に数字縦にアルファベット(脳内意訳ですわ)をつけます。一のAが西北端ですわね。

 グランドロックに一区域とA区域から逃げられたら負けです。


 八のIにあった野営地を、五日後に四のDに移しました。三のCからがグランドロックの生息域です。

 いよいよ明日からという晩に、ジルベルタ女史の呼び掛けに答えて、焦げ茶色の頭突きウサギが来ました。

 普通の頭突きウサギに比べると頭が大きく愛嬌があるのですが、ビスケのように幼児体型ではありません。

 リアル嗜好のぬいぐるみです。


「カラメル!」


 なんで勝手に付けた名前にあってるのが来るんでしょう。

 抱き上げて、降ろしませんね。


「重くないですか」

「わたしも鍛えました。舞闘士になれたら、この子も飛べるようにして下さいね」

「はい」


 それは、構わないのですが、『チームファミリアが欲しい』の目線が怖いです。

 たった二人だった『チーム山羊が欲しい』に対して、こちらは巨大組織です。

 一匹でも出て来たら期待感が半端じゃありません。

 高位の魔導師なので、心話力で直接圧力が来ます。


 怖いのでわたくしの防衛陣地に篭ります。

 他の貴族が近付かないように、わたくしの周りは王太子殿下と三侯爵家が固めているのです。

 そこにも『チームファミリアが欲しい』の支部はあるのですが。


「わたくしのファミリアは、スピナカステロで待っているのですわ」


 ジュリエッタ様、怖いことをおっしゃらないで。


 いよいよ、グランドロック狩りの日がまいりました。

 西に逃げられてもポルトパロ湖方面なので、この戦力なら追えなくもないということで、お祖父様お祖母様は北から回り込む作戦になりました。


「接敵、三のBです」


 ビスケの持っている距離感覚なのでしょうか、位置がわたくしに判ります。


「少し、上がるか。微速前進」


 フランソワーズ大伯母様の指示で騎士団が包囲網を狭めます。


「十四時方向から、攻撃開始します」


 ビスケ(わたくし)を抱えたお祖父様の速度で突っ込みます。

 気付いたグランドロックが振り向いてこちらを見ます。

 ウサギミサイル斜め上空に発射。つい見てしまう悲しい動体視力。

 一瞬の隙にお祖父様お祖母様が射程圏内に入り、左右の脚の付け根に百間突きが当たりました。


 グランドロックはたたらを踏みますが、倒れません。

 接近しようとしたお祖父様お祖母様を突風が襲います。

 お祖父様の溜めで風が起きるのと同じ原理で闘気で周辺に突風を起こして逃げる、グランドロックの常套手段ですが、突風は輪状にしか起きません。上空のビスケ(わたくし)には見えています。


「目標逃亡、六時方向」

「ぴゅい!」


 騎士団にわたくしが、お祖父様お祖母様にはビスケがお教えして包囲を狭めます。

 お祖父様がビスケを抱えられます。

 森の上を飛びながらでは追えませんが、ビスケを索敵に専念させれば、追い付けなくとも位置は判ります。

 お祖父様お祖母様の気配を嫌って、グランドロックがこちらにまいります。


「来ます! ほぼ正面!」

「射程に入り次第各自攻撃! 絶対止めろ!」


 グランドロックにもこちらに戦力が固まっているのは判るのでしょうが、下手に曲がって速度を落とすより走り抜ける方を選んだようです。

 フランソワーズ大伯母様と七師団長が武器を構え、わたくしも戦いに備えてビスケとの感覚共有を切ります。

 シルヴァーナ叔母様を護って観戦組の王太子殿下に合流します。わたくしが手を出せる戦いではありません。


 フランソワーズ大伯母様をお祖父様が怖がるのは、幼児体験のせいだけではありません。

 巨体の分だけお祖父様が有利と言われている実力をお持ちです。騎士団総長は名誉職ではありません。

 七師団長の攻撃を受けながら正面突破を図った鳥型ドラゴンは、大伯母様の槍に左足首を砕かれました。

 弱い飛行力で体を浮かせて片足で逃げようとしますが、最早お祖母様を振り切る速度は出せません。


 追いついたお祖母様に頭を打たれて転倒し、お祖父様が追いつかれたら、後は硬い鱗のために止めを差すまでに時間が掛かるだけです。

 ビスケもこちらに呼んで、衝撃波からシルヴァーナ叔母様を護りながら観戦します。

 周囲に衝撃波を出さない技で、お祖母様が止めを差されました。

 グランドロックの背中に両手を当て、気合と共に触るだけで内臓を破裂させる秘技を放たれました。

 浸透剄でしょうか。


 生命力が開放されても安心は出来ません。グランドロックはコンテナに入らないので、この場で入る大きさまで解体しなければならないのです。

 虫どころか中型の魔獣まで湧いて来ますが、余るほどの戦力で捻り潰します。

 落ち着いたところでドラゴンの生き血が参加者全員に配られました。

 戦士系の盛り上がりが尋常ではありません。


 王太子殿下が、お祖父様お祖母様フランソワーズ大伯母様を呼ばれました。

 労いのお言葉でしょうか。


「なあ、この戦力なら、ポルトパロ湖の北岸まで押し通れんか」

 

 もう少しすると、百年くらい、この方が王様なのです。

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