第21話 合コンですわ
ワイバーン四匹がお祖父様一人の取り分だと知った騎士団の親戚一同が、肉と心臓と革をねだりに押し寄せたらしいのですが、わたくしの知ったことではありません。
法薬士試験は、ランダムで出される課題の単品抽出五品と二種混合五品を作れたら合格です。
作れるか作れないかなので、その場で合否が決まります。
全員法薬士の単品三十、二種混合二十を全種類作れるので無事に合格致しました。
お祝いをしましょう。ワイバーンを丸一匹取り分として頂いたので、お金はたくさんあります。
大角鷲の残りの部分ですら金貨十八枚だったのです。
猫カルテットとロクサーヌパーティーも誘って、オリヴィエラ先生お勧めのレストランに行きました。
みんな鹿革のサンダルに薄手のチュニックです。下は鹿革のビキニアーマーなのですけど。
わたくしは自分のワイバーンの羽根でビキニアーマーを作りました。
お祖母様もおっしゃった通り予定より二ヶ月早く資格が取れてしまって、全員目標を失った感じです。
法薬師を目指してはいても、普通ならば法薬士が二年、法薬師がさらに三年掛かるのです。
遊びほうけてもいけませんが、今までがガチガチのハードスケジュールだったので、少し息抜きをしましょうということになりました。
平安時代と同じと言えば判りやすいと思いますが、暇な貴族の娘のしたいことは、男漁りです。
都では十二歳でも貴族のお付き合いは普通です。
十五歳未満が妊娠した記録がないので、積極性は平安時代以上です。
わたくしは特殊な田舎者で例外ですわ。
オディロンに声を掛けて、士官学校と合同懇親会をすることにしました。
合同懇親会、略して合コン。合っていますよね? ん? もう確認のしようがないからいいです。
将来の人脈造りのために、士官学校でもこうした交流は奨励されています。
ワイバーン六匹の底上げで、オディロンはギュスターヴ殿下と共に士官学校のツートップです。
オディロンのくせに。
猫カルテットとビアンカにも声を掛けましたが、士官学校は釣り合わないと遠慮されました。
スケさんカクさんは嫁探しなので強制出場です。
ファビアが好きなのはとちらなのか確かめなくてはなりません。
わたくしとしては、ジュリアナ様とギュスターヴ殿下を近付ける絶好の機会ですわ。
と言うよりこれは必然でしょう。わたくしが邪魔しなければ水が上から下に落ちるように物事が運ぶはずですわ。
お母様のクリスティーナ様のお立場が王家の血族に修正されて、ご身分の釣り合いもよろしくなりましたし。
会場は分散して話が出来るようにテラスと庭のあるレストランを借り切るのがよいようです。
時間はあるので素敵なところでしましょうと、焦らずにお店を選びました。
都屋敷の者に聞いて店に不備があると、その者が居辛くなるので自分たちで選ぼうとしたのですが、ジュリアナ様は世捨て人の娘、わたくし、ビーチェ、ファビアは田舎者、オリヴィエラ先生も含めて残りは少人数のパーティーの経験しかない下っ端貴族の娘です。
お祖母様もお店選びのセンスがありません。
シルヴァーナ叔母様は王太子殿下のお供で、どこかの王族用別荘です。
王太子殿下が無茶をしたと国王陛下に怒られて、缶詰で帝王学のお勉強だそうです。
魔導学園と士官学校の間にあるお店を、みんなで視察に行きます。
この時間が一番楽しい気もするのです。
結局一番広い店に決まりました。
パーティー用にカルロータ様のようなレースのトーガも買いましたよ。
万全の準備が整い、いよいよ合コンです。
級友のためのパーティーなので、男が余るようにオディロンに申し付けてあります。
簡単なご挨拶のあと、直ぐに男女入り混じっての談話が始まります。
ファビアは適当に食べ物と飲み物を持って、スケさんと庭に行きました。
ニコレッタはカクさんと料理を選んでいます。
ここでヒロインレースから脱落でしょうか。
ジュリアナ様はギュスターヴ殿下とお話をされています。当然の成り行きですわね。
オディロンがいつものように、にや付きながらこちらへやって来ます。
トーガを着た魔導師風の男の人を連れています。
「騎士見習いにもなれないような奴じゃ、アンジーの相手は出来ないからさ、ちょっと、変わったの連れて来た。ミルファイユ侯爵の傍系の下っ端で錬金術師」
「マルセル・デ・シャトーモンターニュでございます。お見知りおきを」
「アンジェリーヌ・アブ・フォレスティエでございます。よしなにお願いいたします」
シャトーモンターニュ家は戦士系で、現王室体術顧問役コンスタンツァ様もシャトーモンターニュ家の傍系です。
「我が家の家祖と、逆ですのね」
「ええ、それでギュスターヴ殿下と知り合えました」
「殿下のお友だちなのですね」
なぜかオディロンが割って入ります。
「なんだよ、俺も一緒にいるから、知り合ったのは同じだ。マルセル、なんか女の子が喜びそうな物出せよ」
「誰が女の子ですか」
「たまには顔だけじゃなく、体全体写る鏡を見た方がいいぞ。でかいウサギ抱えた女の子が見えるはずだ」
「う……」
大人だった記憶のせいで、子供なのを普段意識しないのですが、客観視するとそうなりますわ。
しかもビスケは知らないとぬいぐるみにしか見えませんわ。
こんなことがあってよいのでしょうか? わたくしがオディロンごときに言い負かされるなんて。
マルセル様が中指より少し長い金属棒を取り出されました。
ろうそくのように先が鈍角に尖っていて、横に金属の板が付いています。
板を起こして勢い良く下げると、ぱちっと音がして金属ろうそくの先端に火が点ります。
もしかして、この方も転生者?
「電子ライターですか?」
「でんし?」
「その鉄片で叩くと電気が起きる石が入っていて、火花でガスに火を付けるのですね」
「ええ、そうです」
あら、へこんでしまわれましたわ。ご自分でお考えになった物だったようです。
「アンジー、錬金術の知識はないんじゃなかった?」
「英知のコンテナの知識ですわ。オディロンはいつまでここにいるのですか」
「男が余るようにしろって言ったろ。余ってるんだよ」
「なら、カウンターに行きなさい」
男でも女でも余ったのはその役目の店員が相手をしてくれるのです。この世界の常識です。
「へいへい」
邪魔者は消えました。
「失礼いたしました。あなた様が、同じ知識をお持ちなのかと思いまして」
「魔法を使わずに、簡単に火を点けられる道具を考えてみたのですが、異世界にはあるのですね」
「魔法がまったくない世界の知識なのです。そのせいか、わたくし、詠唱魔法が使えません」
「そう、なのですか」
ちょっと復活されました。女の子は出来ない事があった方が可愛い、みたいな?
「マルセル様って、父みたいですわ」
「お父上、フォルドデシェバル侯に、似ていますか」
「はい、何か目新しい物などでわたくしを驚かそうとして、知っているとがっかりするのですが、その時のがっかり仕方が今のマルセル様に似ておりました」
慰めようとして言ってしまったのですが、異性相手に父に似ているは諸刃の剣ですわね。
お父様の社会的評価は高いので、悪くは取られないでしょうけど。
「そう、ですか」
「あの、お庭に、行きませんこと」
「はい」
とりあえずお話をするのが店内で、もう少し親しくお話をするために今日は庭やテラスには囲いをした席が設けてあります。
レストランですので、二階には個室もございます。
この世界の貴族の常識的な範囲でのお付き合いなのです。
もう、どこに誰がいるかは判りませんわ。それを気にするのはマナー違反なのですわ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます